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第155回往復書簡 寒き朝、海水へと向かう

牧野伊三夫 →  石田千さんへ

 一週間の「雲のうえ」の取材を終えて家に帰ってきた。昨夕東京駅に着いて、まだ時間があったので東京アートディレクターズクラブの展覧会をのぞくことにして、銀座の画廊に立ち寄った。受賞作のそばに富田君と僕のポートレイトが二つ並んでいたのがうれしく、写真におさめる。それから、葛西さんの作品の前でも記念写真を撮った。
 ゆうべは暗くてわからなかったが、今朝、庭を見たら夏椿も榎も木々がすっかり紅葉していた。家を出るときはまだ緑色の葉をつけていたのに。水筒に残ったコーヒーをあたためボンヤリと眺めて、なんのために植物は葉を赤くするのだろうなどと考えてみたが、ま、わからない。きっと学者なら知っているのだろう。
 さてさて、これから塩田の絵本の絵を描く。糸島へ行った夏から、もう一年。海岸で平川さんがとってきてくれたワカメはうまかったな。俺はこれから、海水になるんだ。
 (11月14日月曜日)

絵本『塩男』ラフスケッチ 2022年 紙に墨


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