第133回往復書簡 カレーグラタン
牧野伊三夫 → 石田千さんへ
庭の夏椿の白い花が、ぽつりぽつり落ちてくるようになった。まだ上の方に少し咲いているだけなのだろう、木の下からはまだ蕾しか見えない。隣の柿も葉がたくさん出ていて、そろそろ今年も柿の葉ずしを作ろうかと妻と話す。
この頃は、朝寒いので長袖長ズボンを着ているが、昼頃になると真夏のように暑くなるので、半袖半ズボンに着替えている。昨日は、雨が降って午後は蒸し暑く、なんだかカレーライスが食べたくなって夕飯に作ることにした。そして、いつものことであるが、カレーライスをかき込みたい欲求と酒を飲みたい欲求の板ばさみになった。カレーライスを我慢しつつ、まずはマグロの山かけで酒を飲むしかないと悩ましく思っていたのだ。酒の肴に、カレーライスとマグロの山かけが並ぶのは、いけない。それはともかく、なによりこんな日は、まず最初に、ホッピーとか酎ハイなどのさっぱりしたものを飲みたい。夕方、散歩をしながらそのようなことをつらつら考えていて、ふと、カレーグラタンを作ることを思いつく。
実に適当なものであるが、表示の二倍以上、くたくたになるまでマカロニを茹でてグラタン皿に並べ、肉とジャガイモ入りのカレーソースをたっぷりとかけてチーズをのせ、魚焼きグリルで焼いた。すると、いい焦げ具合の香ばしいグラタンができあがった。やったぜ……。はふはふ言いながら匙ですくってはホッピーを飲んだが、これがうまかった。次回はマッシュルームや海老など加えてもよいかもしれない。このグラタンのあと、クサヤを焼きながら、山かけでビールを飲んでいると、いい按配のところで酒が欲しくなってきた。
満足な晩酌ができると、次の日起きたときの気分もよく、今日は朝から絵が描きたくって仕方がない。今年は上京してちょうど四十年の節目の年になる。もちろん江戸っ子などではないが、そろそろ東京人くらいは名乗ってもよいだろうか。どうでもよいことだが、これまで絵など描いて暮らすことができたこの町への恩返しに、東京の風景を描こうかと思っている。いいのが出来たら暮れの展覧会に出すつもりであるが、さてどうなることか。
(6月6日月曜日)
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