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第118回往復書簡 へんてこバレンタイン・ふたたび 第2回

石田千 →  牧野伊三夫さんへ

 ひよどりが鳴いて、目をあける。いよいよ、きた。
 2022年のバレンタインは、月曜日。
 今月から、ひとの出入りの多い月曜日と金曜日は、リモートの日になっている。どちらもいそがしい日だから、資材部のみんなに、ほんとうに申し訳ない。ことしは、うちの近所のチョコレートショップのトリュフの詰めあわせを、木曜日にくばった。はやすぎて、みんな、ぽかんとしていた。
 大ちゃんには、毎年の板チョコ。愛情は、チョコレートの値段ではない。ことしは、三時のおやつにバナナココアもごちそうできる。去年にくらべれば、ずっといい。
 きのうの晩ごはんのときは、ふたりして、むずむず、そわそわしていた。大ちゃんの眉毛は、八の字気味だったけど、おたがい、人生最大級の話しあいなのだから、しかたがない。
 地元に帰るなら、会社をやめなければならない。すぐには、動けない。かといって、東京在住をつづける計画のほうは、ちゅうとはんぱだし。大ちゃんは、うちのお母さんのことを考えるコースと、いまの仕事を継続できるコースを用意してくれた。だけど、ほんとうは、東京をはなれて、港のそばでビストロをやりたいと思っている。
 そっちのほうが、たのしそうだし、ありがたいし。でも、帰ったら、なにをすればいいんだろう。お店のお手伝いなんて、できるかなあ。お母さんとふたり、実家でのんきにしているわけにもいかない。なんの資格もない、40まぢか。仕事は、すぐに見つかるものかなあ。
 ちゅうとはんぱは、おたがいさま。きょうは、まず、大ちゃんのはなしをじっくりきいて、いま思っていることを伝えるしかないか。
 ……きょう、リモートでよかったな。
 天井にむかって、声を出す。2時からの会議がすめば、ゆっくりこころの準備ができる。ココアもつくれる。
 むっくり起きると、冷蔵庫のうえのバナナも、いい匂い。よしよし。流しで水をのんでいると、壁ごしに、給湯の音が響いてくる。
 今夜は、スペシャルディナーを作ってくれるっていってた。早起きしてくれてるんだ。
 おとなりさん、午前中には、ピンクのバラも届くから、腕をふるってね。
 ラジオで、バレンタインに花を贈るキャンペーンをしていたから、申し込んでおいた。
 ピンクは、大ちゃんのいちばん好きな色。勝負パンツも、お気に入りのセーターも、靴下なんて、ぜんぶピンクなんじゃないかな。へやのカーテンもピンク。おなじ間取りでも、うちよりずっと、かわいい。
 話しあいは、しあわせになるためだもんね。
 ……ご機嫌は、じぶんで作るもの。
 ラジオをつけたら、別所さんが、いいタイミングでいつものおまじないをいってくれた。
 きょうは、一日じゅう、ご機嫌さんでいます。別所さんと、約束した。

 (2月25日金曜日)

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