見出し画像

第150回往復書簡 足なみ、13時18分

石田千 →  牧野伊三夫さんへ

 けさは血圧が低くて、気もちがふさいでいる。まさか、こんなことを書く日がくるとは、思いもよらなかったなあ。
 血圧は、若いころから高かった。両親も高いし、おばあさんも高かった。血管の病気とわかって、とにかく血圧を下げなければいけない。薬をのんだら、翌朝からぐんと下がった。下がりすぎる日もあって、2年たっても慣れずにいる。
 まえに、気もちがふさぐ朝は、目玉焼きがじょうずにできると書いた。けさも、きれいだった。
 朝食を終えると、洗濯機のアイさんがとまる。タオル、ランチョンマットと干していく。けさは、アイさんも協力してくれて、干しやすいように脱水をしてくれた。機械だけど、アイさんは、そういう気遣いをしてくれることがたびたびあって、ありがとう。
そうして、さっさと干して、寝床を整え、皿を洗い、ベランダで水やりをして、机にむかう。いつもより、15分もはやかった。
 気もちが沈むときは、からだは、はしはし動いてくれる。はんたいに、からだが動けないときは、気丈でいられる。このあいだ、2回めのワクチンの晩、巣ごもりいらいはじめて熱が出て、あんがい冷静でいられることにおどろいた。
 そうして、ほんとうに、いのちはうまくできている。あらためて、知った。心身ともだおれのように思っているときも、わずかに力の残るほうで、支えている。この自然に、やっと気づいた。巣ごもりの日々の、いちばんの発見と思う。
 10月になって、暦の書きこみがぐんと増えた。遠出、病院、排水口の洗浄。極度のこわがりになったので、いずれも難関。けれど、からだとこころが力をあわせて、なんとかしてくれる。
 さっきベランダに出たら、金木犀の残り香。きのうの雨に負けなかった。

  ひたすらの日々に届きし金木犀  金町
   (10月14日金曜日)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?