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第206回往復書簡

石田千 →  牧野伊三夫さんへ

 みなさま、牧野さん、上野さん、ことしさいごのお便り申し上げます。
 年末は、すこしはやく帰省をすることにしました。4年ぶりの、実家の大掃除に免じて、はやめの筆おさめ、お許しください。
 先日の牧野さんのお便り、かきたいものが浮かぶまで、じっくりお待ちになるごようす、感じ入りました。
 原稿用紙をばさっとめくって、ペンを持つなり、書きはじめます。いつからそうなったのか、思い出せません。じっくり待つ、まったくできません。なさけないことです。そうやって、1日3枚、20年。いまでは、無意識に自動筆記のように、勝手にすすんでいます。
 長い小説の最後だけ、いちど、かならず、手がとまる。ふしぎなことに、それまで毎日、自動的に書いていたのに、あと3枚、というときに、はっとする。目のまえの、壁のしろさに気づく。そうしたら、その日はおしまいにします。
 それから、3、4日、なんにもしない。あたまのなかでは、あれもちがうこれもちがう。あわてている。そうして、いよいよ締切がくるという晩。おふろにつかると、ぽたんと場面がみえて、声もきこえる。においもする。空のいろ、光。ああ、そうだ。こうだったんだ。
 それで、翌朝になって、お風呂場でみたけしきを、そのまんま自動筆記して、完成します。
 牧野さん、かきたいものが見えたときには、ほとんで絵は完成されているのかもしれないと思いました。
 来年は、年男ですね。
 ことしも、たくさん励ましてくださいました。ありがとうございました。
 あたらしい年、かならずランチョンで乾杯しましょう。そのときは、上野さんもいらしてくださるといいなあ。
 みなさま、本年一年、どうもありがとうございました。
 どうぞよいお年をおむかえください。

  乱筆をさっさとおさめて大掃除  金町
  (12月8日金曜日)


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