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第182回往復書簡 ほそ道、11時25分

石田千 → 牧野伊三夫さんへ 

 ことしの誕生日は、母といっしょにむかえられる。なにより、うれしく、ありがたい。
 羽田空港には、すてきなチョコレートショップがいくつもあって、買って帰る。母といっしょに、10時と3時に、どれにしようか、ひとつぶずついただくのを、たのしみにしている。
 どんな1年になるのか、年をかさねるほど、予想がつかなくなっている。55歳、ゴーゴーのスピードも、もはやむずかしい。
 5歳うえの兄は、おなじ日に、60歳。お兄さん、還暦おめでとうございます。
 会社の勤務はかわらずつづけるとのことで、日々ますます忙しそうなようす。
 母とは会えたものの、兄夫妻とは、3年以上会っていない。心配をかけっぱなしでいる。ことしは、兄夫妻の健康と幸福を、仏壇の父にお願いしてくる。
 年上の読者のみなさんは、牧野さんは、上野さんは、55歳のころは、どんなごようすでしたか。
 55歳になって東京にもどると、3年ぶりに遠出の仕事が再開する。3年のあいだ、遠隔作業のやりとりで支えてくださったかたがたに、お礼をお伝えすることができる。あたらしい出会いの縁も、きっと待っている。
 ひとりじゃないのは、すてきなこと。天地真理さんの歌のとおり。
 五十路の峠越えは、たのしいことばかりとはいかない。
 それでも、愉快な時間も、かならずある。びくびく暮らしは変わらないけど、それはわかっている。
 おっかなびっくりは、いまもつづいているけど、こわいと同時に、たのしみと思えるようになっている。匍匐前進も、ふりかえれば、すこしだけ道ができていた。
 ありがとう、こんにちは。くりかえして、進む。
 

  梅雨ちかく五十路のほそ道峠かな    金町

  (5月26日金曜日)

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