見出し画像

LGBT法案について、いただいた質問に答えます

前回、LGBT法案がどんなもので、議員さんの中にもバランス重視の人がいっぱいいるから、「”自称女性”と言い張る変態男が、猥褻目的で女性専用の公共施設や、更衣室等に入ることが可能になります」なんてことはありえない、という話をさせていただきました

で、その後、続きの記事を書こうとしていろいろ調べていて、「つまりここが問題か」と思えるポイントを見つけました。きっとこれを説明するといろんなことがわかりやすくなると思うので、まずみんな誤解するきっかけになったと思われる裁判の話をさせてください。

「性自認に基づいてトイレを使う権利がある」という判決の話

性自認が女性だけど戸籍上は男性の職員の方が経産省に勤務されていて、女性トイレについて、勤務するフロアから2階以上離れたフロアのトイレを使用するよう言われていたことの違法性を訴えた裁判です。

今まさに話題になっている、「性自認が女性の男性が女性用トイレを使う」事に関する裁判で、2019年12月に東京地裁で、職員の方勝訴の判決が出ました。
つまり、性自認が女性の男性に対して女性用トイレ使える、という考え方が示されたのですね。

たぶんこれが、今みんな騒いでいる、「”自称女性”と言い張る変態男が、猥褻目的で女性専用の公共施設や、更衣室等に入ることが可能になります」の出どころかと思います。

で、この裁判は2021年5月に東京高裁で判断を否定する判決が出ています。上で紹介したのも、そのニュースです。
東京地裁で出た判決は無理があると思う、経産省は十分配慮してるからこれ以上は無理でしょ…まあそんな感じの判決です。

でも地方裁判所とはいえ、男性に対して女性用トイレ使うことを認めるべき、という考え方が示されたことの衝撃は大きい。つまり「自分で女性ですーって言えば女子トイレ入れる」ってことでしょ!?

ツイートした人も、それをRTした人もそんな感じの認識なんじゃないでしょうか(それか地方裁判所のニュースだけたまたま読んだのか)

この裁判の詳しい内容は、ここ とかに載っているのですが、ざっと抑えるのであればこの記事がいいんじゃないかと思います。

重要なのはここ。

 判決は、トイレを使う他の女性職員への配慮は必要だが、原告職員が性的な危害を加える可能性は客観的に低い状態で、社会生活でも女性として認識される度合いが高かったと指摘。

トイレ利用制限「違法」国に賠償命令 性同一性障害の経産省職員勝訴

詳細な記事の方を見ると、こんな感じに書かれています

 性同一性障害の専門家であるe医師が適切な手順を経て性同一性障害と診断した者であって、〔中略〕経産省においても、女性ホルモンの投与によって原告が遅くとも平成22年3月頃までには女性に対して性的な危害を加える可能性が客観的にも低い状態に至っていたことを把握していた

原告については、私的な時間や職場において社会生活を送るに当たって、行動様式や振る舞い、外見の点を含め、女性として認識される度合いが高いものであったということができる

医師の判定とか、ホルモン投与の経緯とか、様々なことを考慮した上で、この方だったらトラブルになる可能性は低いでしょ?だから入る権利があると思うよ、という判決です。

けっして、「性自認が女性だったらだれでも女性用トイレを使える」みたいなことは言ってないのです。

しっかり読んでみれば、ここでいう「性自認が女性」は、「ぼく女性だと思うんです」みたいな軽い気分で言っている話じゃなくて、性別適合手術以外はほぼ女性としての要件満たしてる人のことを指してるというのがわかっていただけるんじゃないかと思います。

前の記事で、LGBT法案に反対している議員さんというのは、「LGBTなどいない!」みたいな頭の固い人じゃなくて、世の中混乱しちゃうよ?と心配している方だよ、と述べました。
裁判官についても同様に、一方的にLGBTの方の意見だけを認めたわけではなくて、様々な条件を考慮した上で、これだったらいけるでしょ?というバランスを考慮されていることが読み取ってもらえると嬉しいです。

いただいたご質問に答えます

質問を頂きました。先の記事には間に合わなかったので、ここで答えさせていただきます。

「自称」をどのように「LGBTQの方」と「LGBTQを騙った犯罪者」として客観的に見分ければよいのか。 どのように司法が判断するのか。

LGBTQというか、トランスジェンダーですよね。
(レズビアンを装った犯罪者とかこの文脈では出てこないと思うので…)

で、法律の定める手続き(医師の診断、性別適合手術を済ませているなど)で女性になった方が女性用トイレの使用が認められるのは当然なので、質問としては、
「『性自認が女性ですー』って言いながら女性用トイレに入ってくる男性(単なる変態)にどう対処するのか」
という質問だと理解しました。

まず個人レベルでは、そんなの判定しようと思わないほうが良いと思います。相手が変態だろうが女性だろうが男性だろうが、トイレで不審な行動をしている人がいたら、まず逃げて身の安全を確保した上で、警備員さんとか店員さんに対処してもらいましょう。

警備員さんとか店員さんとか警察官がどう対処するかですが、「男性に見えるから」ではなくて、「不審な行動をしていたから」事務所や警察署に同行いただいて、その上でゆっくり事情をお伺いすることになると思います。

やることは何も変わらないわけです。
不審者が「性自認が女性だから自分には女性トイレに入る権利がある!」と主張したところで、だからといって他人を撮影する権利が認められるわけではないので。


そうじゃなくて。別に何もしないで普通に用を足して出ていっただけなんだけど、見た目が男性ぽいから気持ち悪かったんです。これって差別ですか?

みたいな質問が頭をよぎりました。

そういうケースで警察官が呼ばれて、警察官が事情を聞いたら、その人は性自認が女性の男性で、自分には女性用トイレを使う権利があると主張した、とします。

警察の方はさぞ取り扱いに悩むだろうと思います。なぜかというと、裁判でいくつか判例が出ただけで、具体的にどういう方がいいのか駄目なのか統一したルールがなくて、それが犯罪なのか当然の権利なのか、判断する基準がないのです。

最終的には、裁判になって裁判所が判定するまで決まらないというややこしい状態になるでしょう。

質問した方が言われてましたが、「犯罪を犯す人が、LGBTを"言い逃れ"に使えてしまう状況だと、安心して暮らすことが出来ない」というのは全くその通りだと思います。

で、ここまで見てきた感じだと、LGBT法の案を提出すら出来ていない現在、すでにその状態にあると思うのですがいかがでしょう?

「性自認が女性であれば女性トイレを使う権利があるって判決出てるでしょ」と主張されたら、とっさに「いやそれは違う」って言いにくい状況にはあると思うのです。「その判決は高裁で否定されている」とか、警察官はまだしも警備員さんレベルでそんなこと把握してられるわけないじゃん。

この状況をどうするか。これがまさにLGBT法で議論すべきところなんじゃないでしょうか。

「なんか気持ち悪いから法案に反対」してはいけない理由

裁判所は、訴えがあった事例に対して判決を出すことは出来ますが、社会全体を見据えたルールを定めることは出来ません。

「訴えがあった事例については女性用トイレを使うのを認めるのが妥当」とは言うけど、「じゃあこういう場合は?」「その理屈だと単なる変態が女性と自称したら入っていいことにならない?」といったツッコミには答えないのです。

整合性のあるルールを作るのは、国会の役割です(三権分立の原則ですね)

で、いまそういう話ができそうな、LGBT法の議論を始めようか、と言ってるところで、LGBT法に反対です、って言ってるのってどういう状況なのでしょう?じゃあやめまーすって言われたらどうなるの?

今後、同じような訴えは更に増えていきます。先の裁判も、最高裁判所に上訴してますので、そのうち最高裁判決が出るでしょう。また別の裁判が起こされて、別の判決が出るかもしれません。上でいったような事件が起きて、こっちの事件では無罪、こっちの事件では有罪、みたいなややこしい状態になるかもしれません。

それぞれの判決をあわせて読んでいけば、なんとなくラインが見えてくるかなあ?でも微妙なラインはやっぱり裁判起こしてみないとわかんないのでしょ?そんな曖昧な状態がずっと続くことになります。
というか、一個人が全部の裁判記録読んでなきゃいけないの!?

会社とかも大変ですよね。「自分は性自認が女性だから女性用トイレを使う権利があります」という社員さんと、「性別が男性の方が女性用トイレに入ってくるのは気持ち悪いです」という社員との調整をしろとか、一個の会社にそんな難しいこと判断出来るんでしょうか?

だから、国会で議論して、こういう場合はいいんじゃないか、この辺のルールだったらみんな納得できるのでは、という結論を出す必要があるのです。

こんなことになるよ、だから反対しようね、って画像で誘導するツイート主と、それに乗っちゃう方に激怒したのは、こういう理由です。全然状況を把握できてないし、すでに十分ややこしい状況にあるのに、整理する人を止めてどうする。

(いや正直あの時点ではここまで整理できてなかったのですけどね。整理してやっぱりこの結論になるのだから、あの時素早く行動したことは正しかったのだな、とホッとしているところです)

もう一つの質問

もう一つ質問を頂いているのでお答えします。

安全性や特殊性から合理的に性別によって「○○専用」とされている場所、サービス、コミュニティなどにおいてLGBTQの方を拒否した場合、それは差別に当たるのか。

ここで「合理的に」って言われているのは、拒否した側には落ち度がないのに差別と言われたらたまらないよ、という気持ちなのかな、と推察します。そんな難しい事を一個人に判断させないでよ。

これも結局、明快なルールがないからしんどいのだと思うのです。どういうケースが差別に当たるのか、どういうのは拒否して問題ないのか、きっちりルールが定められていれば、「ルールですので」ってシンプルに判断することが出来ます。

たとえばアメリカでは州ごとに法律が定められつつあって、「性自認に基づく施設の取扱いを拒否することは出来ない」って決まっている州もあれば、「施設の利用は身体的性別を基準とする」と定められている州もあります。

そんな重要なことが州ごとに違っていたり、大統領が変わったらひっくり返ったりする国は大変だと思うし、決まったルールに納得出来ないこともあろうとは思うのですが。
でもこうやってルールで決めてくれたら、対応する方は楽です。たとえば身体的性別を基準にする、とルールで決まっていれば、「当教室は狭くて男性用更衣室が用意できないので女性専用になっています」と言って断るのもシンプルに出来ますよね。

聞かれたことに直接答えていないですが、質問者の方が求めているのは、「判例がこうだから、こういうふうに解釈されると思います」って顧問弁護士みたいな解答ではなくて、シンプルに、「こういうのはあり、こういうのはなし」って明快に判別できるルールですよね。
そんなものは今なくて、それを作ることができるのは国会だけです、という話を繰り返して、お答えに代えさせていただきます。

まとめ

裁判所でくだされた判断がどんなものだったのか、それは決して「”自称女性”と言い張る変態男が、猥褻目的で女性専用の公共施設に入ることが可能になる」ようなものではないよ、という話と、とはいえ裁判では統一したルールを作ることは出来ないから、国会での議論が必要なんだよ、という話をさせていただきました。

例えばの話ですが、「『個人が好き勝手判断した性別に基づいて施設は利用できる』という法律になりそうだから反対する。そうなるくらいなら今の混乱状態のほうがマシ、もうずっとこの状態でいい」ということなら、反対するのもわかるのです。

でも、そうじゃなくて、なんだか今の状態息苦しいな、なんでこんな事になっちゃってんだろう、と思っているのに。
そして政治家の人の中にも、この状態はまずいでしょと思ってるから、バランス取って判断しようよっていう人はいっぱいいるのに。
なのに画像が印象的だったからという理由だけで敵対関係になっちゃってるのは、それは不幸すぎると思いませんか。


現代人みんな忙しいから、なんか変だなと思ってもなかなかそのことについて深く考える時間って取れないですよね。

そんなときに、印象的な画像がついたツイートが流れてきたら、「あ、そうなんだ」と反応したくなるのは、分かんなくもないのです。

でも、そうやって親指の速さで反応した意見に対して反論しようと思ったら。こうやってあれこれ調べて分析して、こういうことですよね?って長い記事書いて、それでも得られる反応は「わ、なんか長いから読まなくていいや」ってなっちゃう。

これってSNS時代の病理だと思うのです。みんな忙しいから、問題について深く考えないで、親指の速度であらゆることを判断しようとしちゃってる。

次の旅行先ならそうやって決めるのも悪くないと思いますけど、国の行く末を決める大事なことまでそんな事していいのかな。

反対するのなら、印象的な画像をRTするのではなくて、私はこう思うから反対だよ、という形でやってほしい、そんな気持ちを込めてこの記事を書かせていただきました。

こんな長い記事、最後まで読んでくださる方はいないんじゃないのかなあ、と思いながら書いているのですが、もし最後まで読んでくださった方がいたらありがとうございます🙏


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?