見出し画像

「待って、本がめっちゃいっぱいあって、困る」

少し遅れるかもしれないと連絡を受けた。待ち合わせが紀伊国屋書店前だったこともあって、久しぶりに中に入ると、大量の本に圧倒された

僕なんかが書かなくても、世の中には誰が書いたかわからない小説がたくさんある。この中で手に取られる本、読まれる本、買われる本はどれくらいなんだろう、なんて思う

だから、僕みたいなズブの素人が趣味で書いた小説を買ってくださった方、本当にありがとうございました、と思う。感謝を捧げたい

表題のセリフは、立ち読みをしていた僕の隣で独りごちた青年の言葉だ。おそらく高校生から大学生と思わしき彼は、真っ黒に日焼けして背の高い、野球部を思わせる短い髪をしていた

「待って、本がめっちゃいっぱいあって、困る」

たどたどしい口調、あどけない表情で立ち尽くす彼を見ながら、僕は「他人の夫を寝取るのが趣味です」と書かれた帯の巻かれた本を、そっと棚に戻した

男の腋の臭いに言及したその本が気になったけど、ちょっと恥ずかしくなってしまったから

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?