ベストプラクティスは、本当にあなたにとってベストなのか
巧妙な宣伝文句の成功例
ベストプラクティスという言葉。
ベスプラと略されても通用するほど、世の中に浸透してしまった言葉だよね。
でも、このベストプラクティスという言葉は、企業の基幹システムのパッケージソフトを開発した会社が、そのソフトを拡販したいために考え出した巧妙な宣伝文句なんだと思う。
世界中の会社で使われているパッケージソフトには、世界中の会社で実践されたノウハウが凝縮して詰め込まれている。だから、そのパッケージソフトを使うことで世界中のノウハウを自社に取り込むことができるというロジックだ。
でも、このロジックは正しいのだろうか。
それは、「世界中のノウハウ」という言葉の中で、自分の環境に近い事例としてどれだけの母数が含まれているかによって異なる。
例1:世界中で使われるパソコン
WindowsやMacを搭載したパソコンは世界中で使われている。何十億人という人が何十年にもわたって使い続けてきた製品だ。だから、それ以外の独自開発OSを使ってパソコンを使う方法は、一般的な利用者にとっては現実的でない。多くの人が、世界中で実践されたノウハウを使って、その恩恵を受けているといえるだろう。
例2:農薬散布用ヘリコプター
一方で、農薬散布用のラジコンヘリコプターではどうだろうか。確かに世界中で使われている。ただし、気候や環境が異なるので育てる作物も様々だし、使われる農薬も様々。そして、航空法のような規制も様々。そんな状況の中で、世界各地で様々な種別のヘリコプターが開発されているし、新しい技術としてドローンを使った農薬散布も広がっている。
このように前提環境が様々で技術自体もどんどん進化しているという環境では、過去のベストプラクティスが役立つ局面は少ないだろう。
アメリカの広大な農地に農薬を散布できるヘリコプターを輸入しても、山に囲まれた狭い畑で多品種生産している日本の環境には合わないしね。隣で有機農業をしている農家がいて、農薬が自分の畑以外に広がってしまえば大きなクレームにもなる。
パッケージソフトは、どちらの例に近い?
情報システムの汎用的なパッケージソフトには、二例目の農薬散布ヘリコプターに近い状況のものが多い。世界中の企業で使われているといっても、規模や業種が様々。国際的に活動するビッグメジャーで使われている情報システムを導入して、果たして自社で有効に活用できるのだろうか。
しかし、ベストプラクティスという安易な言葉が、そういう疑念を霧散させてしまうのだ。
では、ベストプラクティスという盾で多くの人の反対を押し切って突き進んでいくと、どういう結末になってしまうんだろうか。
今回の話を振り返ってみよう。
現場は1つとして同じではない。寒い地方の店舗、広域エリアを受け持つ店舗等、それぞれ色々な事情があるからこそ、様々な工夫をこらしている。
しかし、ベストプラクティスという名前で中途半端な汎用品を持ってくると、そのような様々な工夫に対応できない。それなのに、ベストプラクティスを信奉する立場からみると、現場のわがままとか、標準化されていない業務というように形式的に捉えられてしまうのだ。
抽象的な言葉だけが連鎖する
ビッグデータ分析を活用すべきという部長の意見は、もはや滑稽だよね。100%断言できるけど、こういう発言をする人はデータ分析の素人。
データ分析の経験がある人ほど、発言に慎重になる。実際の業務、問題点、それから分析に使えるデータを見た上でないと、データ分析が役に立てるかどうか分からないよ。
この部長も、どのデータを使ってどういう分析をしてどう役立てるかなど全く知らない。ただの一般論として、データ分析をすれば役に立つはずという浅薄な知識を振りまいているだけだ。
実際にデータ分析をするフェーズになれば、データ分析に詳しい人を見つけてきて、その人に丸投げするんだろうね。まあ、丸投げされた分析者も可哀そうだよ。
上記文章は、著書「スタンダリアン:標準化お化け」からの一部抜粋です。
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