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2023.9.6日記(『ハンチバック』読んだ)

市川沙央さんの芥川賞受賞作『ハンチバック』を読みました。とてもよかった。すっごい怒ってるのかと思ったらあっかんべーされたり、ボケだと思ってヘラヘラしてたら鈍器で殴られたり、緊張感ありました。世界を変えるには怒りとユーモアの両方が必要だと励まさるようでした。世間では当事者性とか露悪的な書きぶりが取り上げられるがちみたいですが、作品に対してめちゃくちゃ距離取れる作家さんなんだと思います。憧れる。私の好きなヴァージニア・ウルフを彷彿とさせるようにも思いました。語り手の名前をはじめ固有名詞には仏教のモチーフが多く出てきますが、釈迦が煩悩と迷いの中で苦しみながら悟りに達していく道程が、現代において重度障害を持つ語り手が差別や不平等にまみれた日常を生き抜いて行く姿に重なります。時々登場する“完全に冷めた(覚めた)語り手”にドキリとさせられる。世の中湿っぽい作品に溢れていますが、からっ風のように乾いた作品で、個人的にはすごく好きでした。

市川沙央『ハンチバック』