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非地上波ドラマ成長の軌跡#1~『愛の不時着』のtvNドラマ編

안녕하세요(アンニョンハセヨ) 南うさぎです。

 映画『パラサイト 半地下の家族』がアカデミー賞を受賞し、『愛の不時着』『梨泰院クラス』など韓国ドラマが日本でも大ヒット、BTSはグラミー賞と、韓国エンタメは世界的に支持され、ファッションやグルメも含めるとその注目度はますます高まっているように感じます。

 そうした韓国発のコンテンツ、とくにエンタメ業界の成功の理由を、まずはドラマの面から考えていきたいと思います。

 韓国ドラマ市場は、2011年、非地上派放送「総合編成チャンネル」の開局で大きく変わりました。新聞社が放送局を持つというメディア改革で、地上波と変わらない総合的な編成で4局が一斉に開局しました。こうして放送局やチャンネルが増えたことで、それ以前からあったケーブルテレビ局も競争が激しくなりました。「MBN」「tvN」、新規の「JTBC」など非地上派放送局が、「KBS」「MBC」「SBS」といった地上波放送局から優秀な人材をスカウトして積極的にドラマ制作に取り組んだのです。

 視聴者層の多くを主婦層が占める地上波のドラマは、視聴率を取るためのマクチャンドラマ(非現実的なことが続けざまに起きるので、一度見始めるとなかなか目が離せないストーリーのドラマ)や、恋愛ドラマがほとんどでした。そのため韓国の「医療ドラマ」は病院で恋愛するドラマ、「法廷ドラマ」は法廷で恋愛するドラマとまで言われることもありました。
 そんなドラマ市場が、2010年代中盤を境に非地上波がトレンドの中心になります。地上波でも『太陽の末裔』『雲が描いた月明り』などヒット作はありましたが、着実に実績を重ねてきた非地上派のtvNとJTBCが大きく成長し、2018年以降は地上波ドラマを圧倒。次々と高視聴率を更新し、新しいコンテンツを充実させています。

 最近では時代とプラットフォームの多様化によりドラマ市場全体がまた大きく変化し、地上波もKBS『椿の花咲く頃』やSBS『浪漫ドクターキム・サブ』などヒット作を出しています。ここでは、最新の「新韓流」ドラマブームの先頭に立っているtvNとJTBC、この2局のドラマ制作背景や特徴などを詳しく見てみようと思います。今回はtvNです。

視聴率参考サイト(韓国サイト)
https://namu.wiki
https://m.search.naver.com
[nielsenkorea]調べ

tvNドラマ

 2020年の『愛の不時着』大ヒットで知られるtvNは2006年に開局しました。エンターテイメント企業CJ E&M(現CJ ENM)が運営するケーブルテレビ局で、tvNドラマに大きな変化が見えたのは2010年代中盤ごろです。2014年『未生(みせん)미생』が最高視聴率8.2%、2015年『応答せよ!1988 응답하라1988』が18.8%で大ヒットとなりました。

『未生 미생』


ドラマコンテンツ多様化の象徴的な作品
2014年作 (tvN)
最高視聴率:8.2%
脚本: ジョン・ユンジョン(原作:ユン・テホ)
監督:キム・ウォンソク
制作:CJ ENM

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公式サイト(http://program.m.tving.com/tvn/misaeng)から。

*出演者* 写真右から
パク・へジュン ドラマ『夫婦の世界』主演
シン・ウンジョン 映画『ケチュンばあちゃん』助演
キム・デミョン ドラマ『賢い医師生活』主演
イム・シワン ドラマ『王は愛する』主演
イ・ソンミン ドラマ『記憶』主演、新作ネットフリックスオリジナルドラマ『少年審判』主演確定
カン・ソラ ドラマ『ドクター異邦人』『ピョン・ヒョクの恋』主演
カン・ハヌル ドラマ『椿の花咲く頃』、映画『ミッドナイト・ランナー』主演
ビョン・ヨファン 映画『あなた、そこにいってくれますか?』出演、ドラマ『ミスター・サンシャイン』出演

 出演者を見るとわかるように、現在大活躍をしている俳優たちが肩を並べた作品ですが、キャスティング当時は演劇などで活躍して実力は十分、でもそこまで知名度が高くない人たちばかりでした。これだけのスターを今、同じドラマで一気に見ることは不可能だと思います。人気ウェブトゥーンが原作の『未生』は従来のドラマと異なるコンテンツで、サラリーマンの生き様と現在を生きる若者の姿を現実的に描いた、新しいジャンルの作品です。とくにラブラインがないのも韓国ドラマとしては新鮮で話題になりました。多様な人物の登場や、彼らの独白が多いスタイルは、その後も多くのドラマに影響を与えています。中国では『平凡的榮輝』というタイトルでリメイクされ、2020年9月4日から動画サイトYOUKUのほか東方衛星TV、浙江衛星TVなど地方放送で放送されています。
『未生』の演出をしたキム・ウォンソク監督は、元々はKBS(地上波)のドラマチームプロデューサーで2011年からCJ E&Mに移籍しています。

*キム・ウォンソク監督の経歴*
KBS(地上波)ドラマチームプロデューサー
2011年〜2016年 CJ E&M プロデューサー
2016年〜2019年 スタジオ ドラゴン プロデューサー
2020年〜バラムピクチャーズ 바람픽쳐스 (Kakao MがM&A)
代表作:『トキメキ☆成均館スキャンダル』『シグナル』『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』『アスダル年代記』など

※韓国ではテレビ番組の演出家を「PD(プログラム・ディレクターまたはプロデューサー・ディレクターの略)」と呼びますが、日本で紹介する場合は単に「プロデューサー」と表記することが多いです。日本や欧米のディレクター(監督)とプロデューサー(制作者)の関係性とは違う部分がありますが、詳細はまたの機会に説明します。

『応答せよ!1988 응답하라1988』

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公式サイト(http://program.m.tving.com/tvn/reply1988)から。

2015年作(tvN)
最高視聴率:18.8%
脚本: イ・ウジョン
監督:シン・ウォンホ
企画:CJ E&M
制作: tvN、CJ E&M

*シン・ウォンホ監督(1975年生まれ)の経歴*
2001年〜2011年 KBS バラエティ番組プロデューサー
2011年〜CJ E&M E&M部門 プロデューサー
『応答せよ!1994』『応答せよ!1997』『賢い医師生活』
(2011年ナ・ソク、イ・ウンジョンと共にCJ E&Mに移籍)

『未生』のキム・ウォンソク監督、『応答せよ!1988』のシン・ウォンホ監督の経歴でわかるように、tvNを運営するCJ E&Mは、2011年に優秀なクリエイターを多くスカウトしています。リアルバラエティシリーズ『三食ごはん サムシセキ 삼시세끼』のナ・ヨンソク監督と、『応答せよ!』シリーズや『賢い医師生活』でタッグを組む脚本家のイ・ウジョンとシン・ウォンホ監督は、新しいコンテンツで次々と話題のバラエティやドラマを手がけています。『未生』で書いたように、実力があっても知名度が低い俳優をたくさんキャスティングするシン・ウォンホ監督の手法は当時は新しい挑戦でとても斬新でした。そのように地上波から移籍した優秀なクリエイターたちが、新しいコンテンツでtvNドラマのクオリティを上げて行きます。

『応答せよ!1988 응답하라1988』は『応答せよ!』シリーズの最終作で最高視聴率18.8%(2012年『応答せよ!1997』最高視聴率5.1%、2013年『応答せよ!1994』最高視聴率10.4%)、シリーズはヒットしないという法則を破って、大ヒットしました。とくに『応答せよ!1988』は年齢層を問わずシンドロームを起こし、従来は地上波ドラマの主な視聴者層である中高年の女性たちにも高評価を受けたのです。さらに同じ脚本家・監督のタッグで2017年『賢い監房生活:刑務所のルールブック 슬기로운 감빵생활』、続いて2020年『賢い医師生活』を制作して、韓国では“賢い○○生活”が流行語になりました。『賢い医師生活』は2021年、シーズン2が放送予定です。

『シグナル』

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エーストリ公式サイト(www.astory.co.kr)から。

2016年作(tvN)
出演:キム・ヘス、イ・ゼフン、ジョ・ジンウン
最高視聴率:9.7%
脚本:キム・ウンヒ
監督:キム・ウォンソク
企画:CJ E&M
制作:A Story

 実際の事件をモチーフにした刑事ドラマで、過去と現在の刑事が長期未解決犯罪を解決していく『シグナル』には、紆余曲折のビハインドストーリーがあります。実は台本を読んだ地上波SBSとKBSにはこのようなストーリーは視聴者に受けないと判断されて編成から外れ、最終的にtvNで放送が決まった作品です。安定的なヒット作を狙う地上放送局は、新しいスタイルの作品作りという冒険をしないため、tvNにチャンスが訪れ、『シグナル』は結果的に大ヒット作になりました。定番のドラマより失敗のリスクは高いかもしれませんが、新しいコンテンツを追求して挑戦することで、作家や監督などのクリエイターももっと力を発揮できると思います。

『シグナル』は約10ヶ国にリメイク権を売り、日本と中国でリメイクされました。日本では2018年フジTV系列関西TVで『シグナル 長期未解決事件捜査班』が放送され、BTSが主題歌「Don’t Leave Me」を歌いました。2021年4月に劇場版が公開される予定で、その主題歌もBTSが歌うので期待が高まっています。

日本版『劇場版シグナル 長期未解決事件捜査班』

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映画.com(https://eiga.com/amp/news/20201125/1/)から。

 tvNは、それ以降も『トッケビ 도깨비』『ミスター・サンシャイン  미스터 션샤인』などで高い視聴率を記録し大ヒットを続けます。2020年は先に挙げた『賢い医師生活』のほか、『愛の不時着』『サイコだけど大丈夫』など、話題性ある作品を多く制作しています。

 次回記事では「JTBC」を紹介します。


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