塗装について 第六回(調色について)

さて、塗装についての記事も六回目、前回に続いて「どんな色で」塗るかということについてお話しさせて頂きます。
前回は特に「下塗りの色の影響」や、「下塗りと上色の組み合わせ」、「塗料の種類について」だったと思います。
今回は「上色になる色をどうやって作るか」というところに焦点を当てていきたいと思います。

なるべく具体的なお話になるようにしたいとは思いますが、話の性質上どうしても中等教育における美術の授業、みたいな内容になってしまうかな、と思います。
退屈なお話になるかもしれませんが、もしご興味お持ちの方はお付き合いをお願いします。

「貴方が塗りたいのはどんな色?」
まずは、このお話から入らないといけません。
この一連の塗装についての記事は「ゴールやルートを意識すること」に主眼を置いています。
その中でも、「どんな色で塗るか?」というものはゴールに直結するお話なのです。

これがはっきりとイメージできる方は、ゴールが見えている状態です。
逆に、「こんな色だよ」とイメージできない方は、色を選んだり、作ったりというのが難しくなります。
要は、目の前にある色が自分の望んでいるものかどうかが判定できないから、ですね。

これについては、多少の経験も必要ですし、どんな色の塗料が売っているのかという知識も必要です。
また、この段階で知識や経験のある先達を頼るのは、非常に難しいです。
それが、初心者の方が塗装を難しい、と感じる理由のひとつであると思います。

他人に色を教えてもらうのは難しい。
以前も少し触れたお話になりますが、色を他者に教えてもらうのは非常に難しいと言えます。
特に、貴方に塗りたい色のイメージがある場合、難易度は跳ね上がります。

それは、まず「貴方が塗りたい色のイメージ」を先達に共有する必要があるからです。
しかし、色のイメージを他者と共有し合うのは、プロのデザイナーでも難しいことです。

例えば、「赤」という色をイメージしてください。
今、貴方が頭に浮かべた色と、ぼくが思い描いている色は、本当に一致するでしょうか。
「赤」と一口に言っても、様々にあります。
緋、紅、朱、茜、ワインレッド、ルビーレッド、ファイアーレッド、臙脂色、葡萄色、紅蓮、紅樺、浅緋・・・
挙げていけばキリがないほどの名前が挙がりますし、それぞれに色は異なります。

さらには、「リンゴの赤」のように具体性を加えても、品種によって「赤」の他に「黄色」や「緑」が多くなる種もあります。
また、熟れていなければリンゴは赤くはなりませんし、逆に熟れすぎていれば茶が強く表れます。

このように、「色」というのは非常に共有化がしにくいものなのです。
プロの方は色を共有化するために、一色一色にカラーコードという記号をつけ、それで理解の共有化を図っています。

しかし、カラーコードを使っても完璧にはいきません。
言えば、カラーコードを指定しても、色覚という感覚は個人ごとに微妙に異なりますし、PCで表示している場合はモニタの性能によっても色彩は変わるでしょう。
あるいは、部屋の照明や隣に配置されている色は何かなど、周囲の環境によっても変化します。
(そもそもカラーコードには規格がいくつかあるので、全国共通ではないですしね)

これを他者に理解してもらうのは難しいですし、それが伝わったとしても、今度は貴方が先達から教えてもらう場合、もう一度この理解の共有化をしないといけません。
さらには、お相手が「イメージにぴったり」と思った色も、貴方が見て「イメージにぴったり」かどうかはまた違う問題なのです。

随分面倒な話になりました。
しかし、こんなことが分かって頂けたかと思います。
・貴方がイメージした色を、他者に伝えるのは難しい。
・どれほど正確に伝えたとしても、本当に「同じ色」として理解したかは分からない。
・理解が正確でも、色彩感覚やイメージがぴったり一致するかは分からない。
・イメージが一致していたとしても、それを貴方が正確に受け取れるとは限らない。

そのため、どんなに熟練の方であっても、「どの色で塗ればいいか?」という問いには、正確に誠実に応えようとすれば「貴方が満足した色で塗ればいい」としかならないのです。

塗料の限界
「そこまで厳密な話じゃないよ」というかもしれません。
しかし、やはりぼくから提示できる限界は、「大体こんな色ならこういう色を混ぜれば出来る(かも)」というカラーレシピをお伝えすることまでだと思います。

先程は感覚という視点で「色を共有することは難しい」とお伝えしました。
今度は、物理的な視点です。

塗料というものは工業製品です。
そのため、同じメーカーの同じ製品を買えば、ある程度同じ品質のものが手に入ります。
しかし、この「ある程度」というのが曲者でして。
以前少し触れましたが、塗料も物質である以上、経年劣化があります。
そのため、同じ塗料でも古いものは変色している場合があります。
また、変色がないとしても、製造ロットが異なれば100%同じ色にはなりません。
そのため、カラーレシピを忠実に再現しても、本当に同じ色にはならないのです。

よって、どこまで突き詰めても最後の最後は「自分の感覚で、自分の満足で、決めましょう」としかまとめられないのです。

色の再現に必要な知識(色の三要素)
では、「初心者は手探りで色を作るしかないのか?」というと、まったくそうではありません。
色の知識によって、多少なりとも先を予測することが出来ます。
ここでは、そのために必要な知識をお話しします。

それが、色の三要素というものです。
中学美術で習った方もいるかもしれません。
三原色・明度・彩度という言葉を聞いたことがある方もいると思います。
これを知っておくと、ちょっと混色の理屈が分かるようになります。
順に見ていきましょう。

a.色の三原色
色には、三原色、というものがあります。
こんな図を見たことがあるかと思います。

世界の色彩の基本は、赤(マゼンタ)、青(シアン)、黄(イエロー)という三色で出来ている、というものです。
赤と青を混ぜれば紫、青と黄なら緑、黄と赤なら橙、という具合で、三色すべてを同じ割合で混ぜれば濃い灰色(黒に近い色)になります。
あとはその比率で色が決まります。

例えば、少し茶色がかった赤が欲しいなら、黄色と青をわずかに混ぜれば茶に近くなります(茶は橙に青を少量で作れます)。
また、レモンイエローならほんの僅かに青、山吹色ならほんのわずかに赤、という具合です。
こんな風に近い色を作りたいと思ったら、色相関図というものを調べてみると分かりやすいかもしれません。

黄色とレモンイエローのような近い色を作るには、どっちの方向に進めばいいかが視覚的につかめると思います。
逆に、正反対の色を混ぜると黒に近い灰色になってしまいます。

b.色の彩度
次は色の彩度というものについてです。
彩度とは、文字通り鮮やかさのことですが、あまり馴染みがないかもしれません。
しかし、これは大事な要素です。

彩度が高くなると、色は鮮やかにその色らしい発色になります。
逆に低くなると、モノクロになります(白、黒、灰色は彩度がない色、無彩色といいますが覚えなくていいです)。

先程の三原色に白や黒を混ぜると、彩度が低くなります。
逆に、白黒灰色が一切入っていない鮮やかな色を純色といいます(これも覚えなくていいです)。

では、塗料で鮮やかな色を作りたいと思ったらどうすればいいか。
答えは「極力色を混ぜない」ことになります。
というのも、模型用塗料は基本的に「その単体で完結するように作られている」からです。
余程混色に強いことを売りにしていない限り、塗料にはほんのわずかに無彩色が混ざっていて、どうしても鮮やかさが失われていきます。

また、色は混ぜれば混ぜるほど黒に近い灰色になっていくので、やはり暗く重い色になっていきます。
明るい発色を求めるなら、極力混色は二色で留まるようにしたいですね。

c.色の明度
最後に明度についてです。
明度というのは色の明るさです。
明度が高くなれば白っぽくなり、逆に低くなれば黒っぽくなります。
彩度と異なり、明度は変化してもその色彩はなくなりません。

明度と彩度を理解するには、スマホで撮った適当な画像を画像加工して、明度と彩度の数値をいじってみると感覚が分かるかもしれませんね。

ちなみに、黒と白は三原色からは出来ません。
なので、影になる色を作ろうと思ったら、黒を使っては再現できないのです。
(そこまで細かく拘らない、という方は本当に少量だけ黒を使う、というのは方法のひとつですけどね)

さて、ここまでで多少は混色で色を作る手掛かりが見えたのではないでしょうか。
とは言え、これはあくまで基礎基本なので、これだけ知ったからと言って思い通りの色が自由に作れるわけではありません。
どちらかと言うと、これらの知識は市販の塗料を微調整するときにこそ生きるものだからです。

そもそもの大本の色を作るには、さらに膨大な知識が必要ですし、ぼく自身は買ってきた方が早いし安定すると思っています。
しかし、それを言っていては何にもならないので、少し便利な道具をご紹介します。

 
『混色ツール』
https://play.google.com/store/apps/details?id=com.ideamats.colormixer

このアプリは基本無料ですが、選択した画像の、選択した範囲はなんという色かを教えてくれます。
また、色を混ぜるという項目では選択した色を混ぜるとどんな色が出来るかを示してくれますし、単に半々に混ぜるだけでなくどれくらいの割合で混ぜるかも変えることが出来ます。

さらに、色の分解という項目では選択した色を作るためにはどの色をどれくらい混ぜたらよいか、というのを教えてくれます。

アプリ内課金が必要ではありますが、買い切りで600円程度支払えば、色の分解の際にMr.カラーやTAMIYAカラーで指定してもらうことも出来ますし、色を混ぜるときにも同様にMr.カラーから色を選ぶことが出来るようになります。

ただ、ここでも重要なのは、このアプリで手に入れたレシピも、あくまでも指標であり、絶対のものではないということです。
再三繰り返している通り、「最終的には作業をする貴方自身が満足した色」というのが大切なポイントですし、レシピを再現しても塗料の状態やロットによってはアプリで表示された色を再現しきれない場合だってあります。
他者から聞いたレシピ同様、最後は貴方自身が納得するように調整をしてあげる必要はあります。

いかがでしたでしょうか。
塗料の色は、作業の目的である「ゴール」に直結するものです。
そのため、結局最後は「答えを決められるのは自分だけ」という最初のお話に戻ってしまうのです。

ゴールに向かう指標を探すのは非常に大事です。
塗料の知識を増やしたり、信頼できる先達を頼ったりするのも大切なことでしょう。
しかし、最後に責任を持つのは、作業をする貴方自身である、というのは頭の隅に置いておいてください。

さて、次回も続けて「どんな色で塗るか」というお話です。
今度は「塗料の希釈方法(薄め方)」や「薄い色を作る方法」についてお話しできればと思います。
「どんな色で塗るか」というお話は次回で最後になりますので、ご興味おありの方はよろしくお付き合いくださいますようお願いします。


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