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カシメ関節の補修(カシメ交換)

ⅩⅩⅧ,カシメ関節の補修(カシメ交換)

さて、今回は以前より避け続けてきたカシメ関節の補修です。
これは今まで、いつか書こう、書かなければ、とは思っていました。
というのも、武装神姫のカシメは銀色のものはアルミ製で、漂白剤による黄変の補修の際に腐食してしまうことがあり、その対策としても必要だったからです。
折角補修したのに、また別の部分に補修が必要になってしまっては片手落ちですので、いつかやらなければならない、と思ってはいました。

では、なぜそんな大事な内容を避けてきたかと言うと、大変に手間だから、という一言に尽きます。
また、加工自体も多少のコツが必要なので、「記事を読んだから誰でもできる」という加工ではありません。
よって今回は、主に中級者の方~に向けた記事となります(初心者の方も、よく読んで練習を繰り返せば出来るようになるとは思います、念の為)。

また、今回の内容に挑まれる方は、いつも以上に最後まで読み終えてから準備をすることをお勧めします。
カシメ交換はカシメを破壊しないと取り外せないので、「カシメを外したはいいけど、その先の作業は無理だった!」ということになると、ただパーツを壊しただけで終わってしまいます。

1.カシメ交換のどこが手間なの?
最初に、カシメというのは、武装神姫の肩や肘、ひざや足首に使われている金具のことです。
パイプ状の金具を穴に差し込み、内側から専用の工具で押し広げてやることで固定するもので、革細工などの服飾で触ったことがある方もいるかもしれません。

そうした方からすると「カシメなんて簡単に交換できるでしょ」と思われるかもしれません。
実際、カシメを締める(カシメる、といいます)だけであれば、そんなに手間がかかる作業ではないのです。
では、カシメを交換することの何がそんなに手間がかかるのか。
まずはこの点に触れなければなりません。

結論からお伝えしますと、「そもそも交換するカシメが入手できない」という点です。
武装神姫に用いられているカシメは、大分特殊なものです。
頭部分の径が小さいというのもさることながら、それに比して足が長いのも特徴です。
加えて、表側と裏側の頭の径が同じというのも大きな特徴です(大抵片側が多少大きいので)。
以下が実測を基にした各部の長さです(足の長さだけは取り外す際に若干削ってしまったので、推測が入ります)。

こうした金具に触れた事のある方なら、中々ないサイズであることが分かって頂けるかと思います。
実際、今回の記事を書くにあたって大分専門店やウェブショップを調べましたが、どこにもちょうどいいサイズというのは見つけることが出来ませんでした。
大体はひとつふたつの数値を満たしても、どこかが合わない、という感じで、カシメの他に様々な類似の金具を調べましたが、現状適合するパーツは見つけられていません(もしご存じの方がおられましたら、教えて頂きたいほどです)。

よって、今回の補修の第一歩は、「カシメを自作する」ところから始まります。
これが、カシメ補修が大変に手間である理由です。

2.補修の手順
さて、それでは今回の作業の手順を見ていきましょう。
今回は肩と肘のカシメを交換します。
これは前述のように、漂白剤による処理の際に腐食してしまったものです。
アルミは腐食しないと言われますが、それはアルミが空気と反応して酸化アルミの膜を表面に作るからであり、傷などが入っていると、そこから漂白剤の成分と反応し、腐食してしまいます。

よって今回の手順は以下のようになります。
a.腐食したカシメの取り外し
b.カシメの自作
c.カシメの交換

この内、aとcは慣れた方ならさほど手間ではありません。
bをどうするか、というのが本記事の肝になります。

3.必要な準備
さて、嘆いてばかりもいられませんので、必要な準備を確認していきます。

・ピンバイス(ドリル径は1.0㎜と1.5㎜を使用)
・金属ヤスリ(刃の形状が『刀刃』のヤスリが必要)
・竹串(重要)
・デザインナイフなどのカッター(竹串を加工するために必要)
・千枚通し
・鎚(カシメ作業用、何でもいいが、小さいもので十分)
・ペンチ
・リューター(必須ではないものの、あると大変便利)
・アルミパイプ(外径1.5㎜と内径1.5㎜かつ外径2.5㎜程度の二種類)
・マスク(金属粉末を吸い込んで良いことは、何一つないので)

工具の方は大体がヨドバシなどの模型コーナーで揃いますし、千枚通しや竹串は100均で扱っているもので十分です。
金属ヤスリはパイプの整形の他、アルミパイプをカットするためにも使うので、刀刃という形が便利です(読んで字のごとく、刀のように片側のエッジにも目が立てられているヤスリ)。

材料の方は少々特殊なので、もしかしたら模型コーナーよりもホームセンターやハンズの方が簡単に見つけられるかもしれません。
サイズが肝心なのですが、小さい分には近似の数値で代用できなくはない、と思います。
ぼくは近所のホームセンターで、外径1.4㎜×内径1.0㎜のものと、外径2.1㎜×内径1.5㎜のものを購入しました(多分これは規格があると思いますので、品番を辿ればホームセンターなどでは調べてくれると思います)。

4.カシメの取り外し
さて、工具と材料が揃ったら、まずはカシメの取り外しです。
これは裏側からドリルでカシメを削ってやれば、意外と簡単に外せます。
裏側からなのは、中央に窪みがあってドリルがズレないので便利というのと、中央部分に穴が開けばカシメを固定する部分がなくなるので、あとはそのままドリルで押し出してやれば取れるためです。

カシメの固定が緩いと、ドリルの動きと一緒にカシメが回転してしまうことがあるので、その場合は表側から削っても大丈夫です。
その場合はぶれないように中心を径の小さいドリルで穿ってやると、腕部分に傷がつかないように出来ると思います。
裏側から削る場合も、手間ですが径の小さいドリルで下穴を開けると確実ですね。
固定が外れて押し出せるようになったら、ペンチでつまんで引っ張ってやった方が楽に取り外せます。

5.カシメの自作
カシメを取り除いたら、次は新しいカシメを用意します。
と言っても、工程としては二種類のパイプを切り出し、組み合わせてカシメるだけです(それが難しいんですけどね)。

まずはパイプを切り出します。
細いパイプに対応しているパイプカッターのような特殊な工具をお持ちの方はそれを使った方が楽です。
が、大抵そんなものはないと思いますので、ヤスリで切り出しましょう。
ニッパーやペンチでパイプを切ろうとすると、パイプが潰れてしまいますのでこれは避けてください。
ホビー用のノコギリのようなものを使っても切り出せますが、アルミは柔らかいですし、ヤスリで十分に切り出せます。
ノコは切り始めがブレやすいので、不慣れな方はヤスリの方がやりやすいと思います。
勿論、切り始めはヤスリで傷をつけ、それをガイドにノコを使う方が切りやすさは上ですが、細いアルミパイプは結構簡単に切れるのでヤスリだけで十分でしょう。

切り出す長さの目安は、細い方が8㎜程度、太い方が3㎜程度を二個です。
程度、としているのは長めに切り出して後で調整した方が作業がやりやすいためです。
短いとそもそも使えないので、上に挙げたカシメの各部の長さを参考にしてください。
概ね、細い方は最低でも5㎜程度、太い方は2㎜程度必要です。

切り出したパイプは断面が荒れていると思いますので、これをヤスリで整えましょう(このためにも多少長めに切り出す必要があります)。
細い方は長さがあるのでまだ楽ですが、太い方は短いので、つまんで作業するのは大変難しいです。
ここで、竹串の先端を落としたものが必要です。
竹串にパイプを挿し、その状態で削ると持ちやすく、作業が楽です(こうした作業性を上げるための道具を治具といいます)。

面を整えた状態のサイズ感はこんな感じです。
太い方の長さは後で調整できますので、この時点でまったく同じである必要はありません。
また、当然ぴったり3㎜である必要もないです。

6.カシメ作業
パーツを切り出したら、いよいよカシメ作業です。
細いパイプの両端をカシメる必要がありますので、まずは関節部分に差し込む前に片側だけカシメましょう。

細いパイプの先端に太いパイプを被せ、千枚通しに挿します。
画像のような状態で千枚通しを立て、赤い矢印の側を叩いて、内側のパイプ径を広げることで固定します。
この時、叩きすぎるとパイプは広がりすぎ、太いパイプが逃げてしまいますので叩きすぎに注意です。
結構簡単に広がってしまうので、これは練習をして感覚を掴む方がいいと思います。
もし叩きすぎてしまったらペンチで広がった口を潰し、無理やり戻してやることも出来なくはないです。
この辺りの感覚が、初心者の方には掴みにくいと思います。

片側をカシメることが出来たら、今度は反対側です。
画像のように腕にパイプを通してからカシメます。
この時に太いパイプが腕の外側に飛び出していると、床面に支えられて力が逃げなくなり、カシメ作業がやりやすくなります。
腕から飛び出さない状態だと、ピンポイントで支えを作らないと作業がしにくいので、注意しましょう。

画像のような状態で上から千枚通しを挿し、槌で叩いてカシメてやります。
ここでは多少叩きすぎても、カシメ作業自体には問題はありませんが、強くたたけば当然腕パーツに負荷がかかります。
破損の原因にもなり得ますので、やはり力加減には注意を払ってください。

両側がカシメられたら仕上げです。
飛び出している部分をヤスリやリューターを使って削り落としましょう。
この作業はリューターの方が圧倒的に便利です。
リューターはヤスリと違って、削るのに大きく動かす必要がないので、その分不要な傷をつけにくいためです。
もしヤスリしかない、あるいはリューターでも不安がある場合は、腕部分の保護としてマスキングテープのようなものを巻き付けておくと、万一の場合でもパーツに傷をつけずに済みます。

この状態だとヤスリ傷が残っており、乱反射してギラギラした印象になります。
元のパーツはもっと落ち着いた印象ですので、400番程度の紙ヤスリで整えてあげましょう。
勿論、ギラギラでも構わない、という場合は不要の工程です。

完成すると、こんな感じです。
本来は片面カシメなので、パイプを使った今回の加工では表面にも穴が開いてしまっています。
どうしても気になる場合は、100均などで買えるアルミテープを切り出して貼ってあげるか、あるいはハイキューパーツ様の丸モールドなどを貼ってあげると良いかと思います。

いかがでしたでしょうか。
ここまで来ると、完全に初心者の方向けの記事ではなくなってしまっている、というのは感じています。
が、カシメの交換は熟練の方でも経験したことのある方は多くはないのではないでしょうか。
少なくとも、ぼくの周辺や調べた範囲では見当たりませんでしたし、交換に使うカシメの入手方法さえ見つかりませんでした。
そのため、同じ補修を考えている方に向けた記録として、この記事を残しておこうと思います。

正直、こんな面倒な加工をしなくても、規格品のカシメを使い、神姫本体を加工した方が楽です。
頭径が大きすぎて穴に合わないなら、穴の方を広げるという方法だってあります。
しかし、恐らく今現在、骨董品ともいえる武装神姫を大切にし、補修をしてまで一緒にいたいと思う方々は、それではダメなんだと思っていますし、ぼく自身もそうです。

この記事が、必要としている方の助けになりますように。
そして、この記事が必要とされる事態が起こりませんように。
それを願って、今回は筆を置こうと思います。
今回もお付き合いくださり、ありがとうございました。

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