塗装について 第九回(トップコートについて)

さて、長々とお付き合い頂きました塗装についてのnoteも今回で最終稿です。
今回は塗装の仕上げとも言うべき、トップコートについて扱います。
最後までお付き合い頂けますと幸いです。

トップコートの役目
まずはトップコートというのがどういうものなのかについて、お話しさせてください。

トップコートという名前で呼ばれますが、これらは要するに無色透明の塗料です。
つまり、色彩を加えない塗料なのです。
では、なぜそんなものをわざわざ使うのでしょう。

トップコートにはいくつかの役割があります。
・表面の保護
・質感づくり
・段差消し

順に見ていきましょう。

1.表面の保護
一般的にトップコートと言うと、この役割が頭に浮かぶ方も多いでしょう。
塗装は普通、パーツ表面に薄い塗料の膜を作る作業です。
そのため、小さな傷でも塗膜を貫通し、パーツ本来の色が見えてしまいます。

表面の保護はそうした色剥げの予防です。
塗装後のパーツがこすれたり、傷ついたりして塗膜が剥がれるのを防いでくれるわけですね。
そのため、トップ(塗膜の表面)のコートと言われるわけですね。

また、トップコートは最後の仕上げにだけ使うわけではありません。
下色と上色の項目で、塗料の相性についてお話しし、上塗りに使えない塗料というのがあるとお伝えしました。
トップコートをすることで、表面をすべて覆うことが出来るので、この相性を無視できるようになります。

例えば、水性アクリル塗料で下塗りした上に水性アクリル塗料でドローイングを施し、不要部分をマジックリンで落とす場合。
通常であればマジックリンは下色ごと塗装を落としてしまいます。
しかし、間にトップコートを挟めば、クリアの層が下地を守ってくれますので、上色のみ落とすようなことも出来るようになります。

このように、塗装面に墨入れやウォッシング、ドローイングなどを上から追加で施す場合は、そこまでの作業のセーブポイントとしてトップコートを吹く、という感覚で使うことが出来ます。
ただし、トップコートを頻繁に吹くことで塗膜は厚くなります。
その点だけは忘れないようにしてください。

2.質感づくり
物体には、色彩とは別に質感というものがあります。
例えば、ガラスや金属は表面に艶があります。
逆に、紙や布には艶がありません。

簡単に言うと、こうした艶のあるなしが質感です。
塗装で表現したい物質はなんなのかによって、艶の有無を変えるというのが、一段上の塗装になるのですね。

この辺りは普通に売られているトップコートや塗料にも書かれています。
艶ありの場合はグロスとか光沢とかいう名前がついています。
半艶の場合はセミグロスですね。
反対に艶がないものは艶消しとか、マット、フラットという名前がついています。
ご自身のゴールに向かって適切なものを選んでください。

また、この質感の差は表面の状態の差異になります。
艶消し(フラット)のクリアには、わざと細かな粒子が入っています。
この粒子が塗膜の表面をざらつかせるので、光の反射が抑えられる(艶がなくなる)ということです。
逆に、艶あり(グロス)のクリアにはそうした物がなく、非常に滑らかな塗膜になります。
そのため、光が反射する(艶が出る)という理屈です。

艶がある表面には傷やざらつきがありません。
これは塗装でなくても、パーツを加工する場合でも同じです。
例えばヤスリをかけたところは艶が消えます。
これを、番手を上げて細かいヤスリで仕上げていくと徐々に艶が出ます。

つまり、艶を出してテカテカの仕上がりにしたければ、グロスのトップコートの後にコンパウンドで研磨し、表面の傷やざらつきを消してあげるとよりきれいに仕上がります。
逆に、フラットならばコンパウンドは厳禁です。
表面が滑らかになってしまうと、光が反射して艶が出てしまうのですね。

また、その意味ではつや消しのトップコートはなるべくさっと吹き付けてあげる方が効果が出ます。
艶消しとは言え、何度も厚く吹き付けてしまうとクリアの塗料が表面のざらつきを押さえ、艶が出てしまいます。

・段差消し
これはちょっと特殊な使い方と言えるかもしれません。
以前、塗装をすると塗料に表面張力が働いて段差や溝の部分にたまりやすい、というお話をしたことを覚えているでしょうか。

これと同じ理屈で、表面にデカールシールのような薄いシールを貼った際。
パーツ表面に貼られたシールは、薄いとはいえ段差を作ります。
トップコートはこの段差を埋めて、目立たなくしてくれます。

デカールシールは基本的に艶があることが多く(シールですから、当然と言えば当然ですね)、そのままの状態だと剥がれやすいという問題もあります。
質感を整えたり、デカールを保護したりという意味でも、デカール作業の後にはトップコートを吹いてあげた方がいいでしょう。

特に、デカール後に汚し塗装などをする場合などはセーブポイントを作るつもりでトップコートを挟む方が便利です。

2.トップコートはいつ、どう吹く?
これは結構重要な問題です。
クリアの塗料というのは無色透明です。
当然、下に塗った色彩に影響を出しては、意味がありません。
その意味では、今まで以上に塗装環境の影響を受けます。

例えば、湿度が高かったり、吹き付ける量が多すぎたりするとクリアの塗料は白く曇ってしまいます(白被り、と言います)。
これがキャンディ塗装(クリアの重ね塗り)の途中ならば、上からまだ色を重ねるので、多少曇ってもあまり問題ありませんが、トップコートが白く曇ってしまうと非常に目立ちます。

よって、よく晴れて湿度が低く、気温が低すぎない日を選ぶ必要があります。
同様に、吹き付ける量はなるべく少なく、様子を見ながら数回に分けて吹き付けるくらいの気持ちでいた方がいいでしょう。
当然吹き付ける距離は30㎝程度を目安に保ち、一度に大量の塗料がパーツにつかないようにも気をつけましょう。
大体吹き付けすぎで白被りをするときは、パーツとの距離が近すぎることが原因だと思います。

勿論、室内で管理された環境であれば気候の条件はエアコンひとつで解決することが出来ます。
エアコンのある室内ならば、除湿機能や暖房で湿度や気温を管理することは非常に容易いことです。
問題は、室内でスプレー塗装をするハードルが非常に高いことですね。
その意味でも、塗装ブースを備えたレンタル工作スペースというのは理想的な環境なのです。

塗装に関するnote、いかがでしたでしょうか。
正直、ぼく自身は塗装に関しては大した経験を積んでいません。
塗装は苦手な部類ですし、単なる模型好きとしても避けてくることが多かったので。
そんな者がこのような大層な内容を扱うのは、正直どうなのか?と思うこともしばしばありました。

しかし、ぼくのサーバーでも塗装に関する質問は少なくはなく、少しでも参加者の皆様が「作りたいものを作る」ための手助けになれば、と思い筆を執りました。

とはいえ、苦手な部類の作業を開設したものですし、分かりやすく、役に立つ内容であったかどうかは自信が持てません。
もし、皆様にとって分かりにくかったり、「これだったら塗装なんてやめとこう」と思われるようでしたら、我が身の未熟を恥じるばかりです。

「模型はとても楽しいもの」だとぼくは思います。
その楽しみを、少しでも後押しできたなら、この記事を書いた甲斐があるものと思います。
皆様が楽しい模型ライフを送れることを祈り、筆を置こうと思います。

長々とお付き合いくださり、ありがとうございました。




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