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破損(欠損)したパーツの再生

ⅩⅩⅤ,破損(欠損)したパーツの再生

旧MMSの武装神姫は、カテゴリで言えば完成品可動フィギュアであり、玩具の分類になります。
これは、破損や補修を考える上では大きな意味があり、昨今の美少女プラモとは一線を画す要素です。

どういうことかというと、美少女プラモは文字通り、プラモデルというカテゴリであり、玩具には分類されません。
玩具には安全基準というものがあり、これを満たす頑丈さが求められます。
MMSを開発したKONAMIには、当時、割と厳しめの安全基準があり、それもあって武装神姫は非常に頑丈で破損しにくく、十年以上を経た今でも現役で遊べる玩具として残っています。

とは言え、やはり経年劣化はどうやっても避けることはできません。
また、武装神姫本体でなくとも、愛用の品や武装が破損してしまうことはあり得るでしょう。

今回は、神姫本体というより、そうした付属品や武装といったものの修復方法をご紹介します。
勿論、武装神姫本体にも適用できなくはないと思いますが、旧MMS武装神姫がこの修復方法を必要とするほど破損する、というのはよほどのことがない限りはないと思いますし、ぼく自身はこの記事が必要とされないことを願っています。

しかしながら、現実は時に残酷です。
万が一、この記事の内容が必要な方のために、これを記します。

前置きが長くなりました、本題に入りましょう。
今回は割れたり砕けたりという破損によって、パーツの一部が欠損した場合の再生方法です。
当然ですが、作業の難易度は高めですし、技術だけでなく、道具や機材もある程度のものが必要です。
その前提をご理解の上、ご笑読ください。

1.破損時の状況

今回破損したのは、個人製作のガレージキットです。
百合の大輪を模した杖でしたが、野外撮影の際に取り落とし、パーツが砕けてしまいました。
また、折悪しく足元には側溝があり、側溝の上には金網が貼られ、下には落ち葉や泥が積もっていて、黒を基調としたパーツを探すのは困難でした。
側溝の金網を取り除くわけにもいかず、時間や人目もあり、結果として砕け散ったパーツの破片はすべて回収することが出来ませんでした。

今回は、この砕けたパーツの再生を試みようと思います。

2.破損の状態

破損は三カ所で、状態もそれぞれに違います。
赤丸部分は亀裂が入っていますが、力をかけない限りは亀裂は閉じています。
青丸部分はパーツが割れ、欠け落ちてはいるものの、破片を回収することはできました。
問題は緑の矢印部分で、花弁の根本から割れ落ちています。
この部分はさらに細かな破片に別れ、花弁先端部分は回収できたものの、根元の破片は回収できませんでした。

これらはすべて、別のアプローチでの補修が必要です。
以下に、順に見ていきましょう。

3.赤丸部分(亀裂)の補修
まずはもっとも簡単な、亀裂の補修です。
使うのは、液状の瞬間接着剤です。

ここはパーツ自体は分離していないものの、力をかけない状態では亀裂は閉じています。
この状態で瞬着を塗布しても、亀裂内部には入り込まず、表面に瞬着の層が出来るだけで、亀裂自体は外の瞬着層で固定されているのみです。
その場合、表面の整形をすると瞬着の層は削り落とされてしまい、また亀裂が開いてしまいます。

よって、まずは亀裂を少しだけ開き、隙間を開けた上で瞬着を流し込みます。
毛細管現象で隙間に入り込むため、大きく亀裂を開く必要はありません。
ここでパーツが破断してしまうと厄介ですので、慎重に作業する必要があります。

しかし、瞬着が亀裂内部に入りさえしてしまえば、元々パーツ自体はズレずに密着するので、しっかり密着するよう注意しながら亀裂を閉じればこの部分は補修できます。
あとは瞬着の硬化後に、はみ出た瞬着を紙ヤスリで落としてやればいいでしょう。
もしパーツを閉じた段階で亀裂がズレてしまっても、ズレが僅かならばヤスリで段差を均してやれば大丈夫です。

4.青丸部分(剥落部分)の補修
さて、青丸部分は先程に比べて少々厄介です。
パーツ同士は欠けずに破片が密着するので、液状の瞬間接着剤での補修ができそうですが、状況は先程の補修より少々厄介です。
というのも、パーツ自体が完全に分離してしまっているので、瞬着を塗った破損部分に、剥落した破片をズレずに戻さねばなりません。

ここでは、瞬着を多めに破損部分に塗布します。
瞬間接着剤は量が少ないほど早く硬化し、逆に水滴が形成されるようならすぐに硬化することはありません。
この性質を利用し、瞬着の硬化までにパーツを適正な位置に配置します。
ズレのない位置に配置が出来たら、後は硬化まで時間をおけば接着できます。
あるいは、瞬着が相当量はみ出てしまった場合はティッシュペーパーなどを撚ってひも状にし、先端部分で余分な瞬着を吸い取ってあげれば硬化は早まります。
また、ここでもズレが僅かならば、はみ出た瞬着層を紙ヤスリで削ってやるときに一緒に均してしまうこともできます。
ただ、ズレが大きいとパーツが薄くなり、破損の原因になりますので、作業は慎重に、ズレは小さくなるように細心の注意を払うべきでしょう。

ここまでの作業は瞬着硬化までの時間勝負なので、画像がありません。

5-A.緑矢印部分(欠損部位)の補修

さて、ここまでの補修はそこまで難しいものではありませんでした。
が、ここからは破片をロストしていることもあり、簡単には補修が出来ません。

まずは、回収できた破片と、本体の位置関係を適正なものにしてあげる必要があります。

花弁部分には表裏の中央に凹凸があります。
また、六枚の花弁は先端が正円を描くように、放射状に配置されています。
こうしたパーツのディテールや、パーツが描くラインを手掛かりにして、適正位置にパーツを配置しましょう。
断面同士がくっつくようならば、それもパーツの適正位置を考える手掛かりになります。
幸い、今回はほんのわずかですが、回収できた先端と本体部分の断面が一致する部分がありましたので、それを合わせつつ角度を調整します。

以降の作業中に本体部分と先端部分が動いてしまうと、意味がありません。
そこで、まずはパーツとは別の土台を用意し、ここに仮固定します。
今回はいつもの空き容器にひっつき虫を乗せ、本体を固定しつつ先端部分を適正位置に配置しました。
最後の調整前に先端部分にもひっつき虫をつけ、土台に固定します。

固定は仮のものですので、瞬着などを使う必要はありません。
むしろ、後でパーツに接着跡が残らないようにする方が作業が楽です。
今回はひっつき虫を使いましたが、跡が残らず、作業中に仮固定が剥がれないようであれば、両面テープやセメダインBBX(貼って剥がせる接着剤)のようなものでも大丈夫です。

さて、ようやく欠損部位の再生に入ります。
使うのはタミヤの高密度エポキシパテです。

今回は再生するパーツが非常に薄いので、効果速度が遅くても割れや欠けに強い高密度タイプを選びました。
もし欠損部分に十分な厚みがあるようならば、速乾タイプでも問題ないでしょう。
エポキシパテは経皮毒性があるので、必ず使い捨て手袋のようなもので手を保護し、直接触らないようにしましょう。
また、手袋の指部分やスパチュラには油分を塗っておくことで、エポパテが食いつきにくくなり、作業性が上がります。

エポパテは塊を盛っていくのではなく、小さな欠片をスパチュラで少しずつ盛りつけていきます。
ひとつ小片を乗せたら、スパチュラで馴染ませ、パテ同士が一体化するようにしていきます。
パテを乗せて押し付けただけだと、手袋やスパチュラの油分が離型剤の働きをして、硬化後にポロっと取れてしまうことがありますので、継ぎ目が見えなくなる程度によく馴染ませましょう。
この時点では大まかなラインさえ整っていれば、細かな凹凸があっても問題ありません。
また、花弁裏面の葉脈は再現してきおましょう。

この作業の後の調整では、パテが少ないより多い方が修正が楽です。
多めに盛ってしまった分はヤスリで削ることが出来ますが、少ないとまたパテを盛りつけないといけません。
そうなると、また硬化まで待たないといけませんので、気持ち程度に多めに盛っておいた方がいいでしょう。

パテが盛れたら、硬化までやる事はありません。
高密度パテは24時間程度で硬化するとパッケージにはありますが、ぼくの体感では、24時間だと硬化時間が不足です。
ナイフで切削するには十分な硬さがありますが、ヤスリをかけるとまだ柔らかすぎ、抉り取ってしまうことがあります。
余裕を持つ意味もあって、ぼくはヤスリ掛けの前に72時間程度を目安に硬化時間を取るようにしています。

特に今回はパーツが薄く、真鍮線などの補強材を入れることが出来ません。
真鍮線を入れるスペース確保が出来たり、裏面は見えなくなるようならティッシュペーパーを細かく切って瞬着を染み込ませて貼り付けてやると強度を確保出来ます(ティッシュに瞬着を染み込ませると硬化反応で発熱するので、注意が必要です)。
ですが、今回はどちらも出来ませんので、十分に硬化させるようにします。
また、硬化後にパテが取れてしまった場合は上記の作業の要領で瞬着で接着してあげましょう。

5-B.整形と塗装

さて、十分に硬化したら、次は整形作業です。
この時点では裏面は凹凸が残っており、表面は台に固定してあったのでパテが大きくはみ出ています。
はみ出た部分はデザインナイフで少しづつ、ラインを崩さないように慎重に切削していきます。
ナイフで曲面を出す場合、回数が少ないとどうしても直線的なラインしか描けませんので、なるべく少しずつ、何度もナイフを入れてラインを出します。
ある程度ラインが整ったらリューターで凹凸を均します(竹串にスポンジヤスリを接着して作業することもできます)。
この時も、削りすぎるとまたパテを乗せるところからやり直しですが、リカバリが不可能なわけではないので、どうしても気になるならやり直しましょう。
その際はラッカーパテを使う方が早いです。
乾燥時間の問題だけでなく、硬化したパテに対する食いつきもいいので、後から乗せた部分が取れてしまうことも少ないです。
勿論エポパテでもできますし、その場合はパテを直接乗せるのではなく、瞬着を塗った上からパテを乗せてやると剥落防止になります。

形状が出せたら、次は塗装です。
画像では奥側になってしまって見づらいですが、ヤスリで接続面を磨いた際にパテの白と塗装の黒の他、パーツ本来のグレーも露出しています。
ここにサーフェイサーを吹きます。

尻部分の金は黒くなっては困るので、マスキングテープを巻いて保護します。
この時、テープとパーツに隙間があると毛細管現象で塗料が吸い上げられてしまうので、テープの端はしっかり密着させるようにします。
今回はちょうどディティールの境目でマスキングする必要があったので、爪を曲面にしっかりこすりつけ、密着させました。

また、花芯部分に竹串を刺して、持ち手にします。
全面塗装の場合にはこのような持ち手がないと、塗装面に触れずに乾燥させることが出来ません。
なるべく塗装の影響がない部分を選んで持ち手をつけましょう。
今回は猫の手のようなクリップで挟むことが出来ないので、竹串の方が適しています。

サフを吹いたら、傷や凹凸が残っていないかを確認します(傷確認のためのサフを捨てサフと言います)。
本当ならサフを吹いて傷を確認した後、もう一度残っている傷を消す作業が入りますが、今回は特に気になる傷や凹凸がなかったので一発合格です。
そのまま塗装し、光沢トップコートで塗膜を保護します。

これでパーツそのものは補修跡が見えない程度に直すことが出来ました。
よく乾燥したら、残っている花芯部分と杖部分を合わせ、接着します。

どうにか、外見上は元通りにできました。
しかし、強度的には一体のパーツではないですし、まったく元通りとは言えません。
補修跡から再び破損することは十分あり得ますので、補修したものは完全に元通りにはならないと思ってください(このキットはそもそもそんなに強度がないので、補修の有無に関わらず破損には注意が必要ですが)。

さて、駆け足で補修作業をなぞりつつ解説を入れていきましたが、いかがでしたでしょうか。
基本的には、補修はあくまで外見上の修復作業であって、元通りの強度に戻すことは大変難しいですし、それは真鍮線等の補強材を入れても同じことです。

本来ならば最適解は「新品のパーツと交換すること」なのですが、ガレージキットや思い入れのある品というのは、再入手が難しいものがほとんどですし、武装神姫のパーツに至っては新品など望むべくもありません。

また、補修の方法や素材はその症例ごとに最適解は異なりますし、この記事を読んだからどんな破損も怖くない!ということはないでしょう。
なので、基本的には破損しないように予防すること、というのが誰にでもできる最善の方法になります。

冒頭でも触れましたが、出来ればこの記事で扱うような技術が必要とされないことを願い、今回は筆を置こうと思います。
お付き合いくださり、ありがとうございました。

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