飛び降りながら

とてもじゃないが、登りきれない。そんな階段を登り続けた。たまに立ち止まって、膝に手をつき息をつく。

登り始めは見下ろすたびに地面が遠くなっていた気がするのに、ここまで来るとさっきとあまり変わらない。

息を詰めて踏ん張って、重たい足を引きずってなんとかまた一段。しばらくしてヤケクソになって一気に数段駆け上がる。十段も数えないうちにへばる。

延々に続くと思った階段の終わりがついに見えた。あとちょっとが不思議なほど遠い。

ようやく最後の一段に足をかけ、登りきった。息が上がっている。口の中で鉄の味がする。心臓の音が聞こえ、ぶわっと汗をかく。吹き抜けていく風が最高に気持ちいい。

見下ろすと、全てが玩具のように小さかった。呆れるほどに小さく見えるのに、遥か遠くまで続く大地は言葉にならないほど広大だった。

躊躇う間を与えない。

急に吹き上げた風がこの身を支えるとでもいうように、飛び降りた。一瞬、体が宙に浮いた気がした。それで十分だった。

飛び降りながら、世界の正解と間違いについて考えようと思っていた。

飛び降りながら、この生に点数を付けようと思っていた。

飛び降りながら、喜ぼうと思っていた。

けれど何も考えられなかった。

考えるには短すぎた。ただ、漫然とした後悔のような感情が浮かんだ。儚い感情が、ゆっくりと浮かんで、ぱっと消えた。


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