完全なる善意
こちら、完全なる善意でございます……
運ばれてきた皿に盛られた善意はきらきら光る宝石のようだった。
……これが
お客は感極まった様子で呟いていた。実用からはかけ離れた大きな皿の上にちょこんと乗っかっているものをじっくりと観察し、ナイフとフォークを手に取った。感動で震える手で、小さく切った善意を口に運んだ。
その途端、しゃらり、と音を立てて小さな善意の欠片は舌の上で消えた。
……おおっ
お客は感嘆の声を漏らし、目を輝かせた。仄かに甘く、高揚感を覚える。美しい善意。
道端で出会った人だった。気づかないうちに落としていた帽子を『あの、これ』と言って拾い上げてくれた人。『あ、どうも』と答え終えた余韻もそこそこに、こちらに背を向けて去っていく。そんな善意。
お客は二口目をナイフで丁寧に切り分け、そっと口に運んだ。
善意の欠片は、柔らかな口当たりを垣間見せた直後に、ぴりっと舌先に刺激を与えて溶けていった。
……ん?
こちらに微笑んでいる善意が裏の顔を見せた。嫌な汗をかく。
道端で出会った別の人だ。『お困りですか』と小綺麗なその人は近づいてきた。『いえ』とこちらが答えるのも聞かず、一線を踏み越えてやってくる。怖くなって逃げだした。
お客は皿の上に残った善意を見つめる。相も変わらず輝いているが、三口目で無防備な口の中が血を流すことになるかもしれない。完全なる善意の皮の下は全くもって分からない。
……お会計、お願いします。
お客はナイフとフォークを揃えて置き、そう言った。皿の上の完全なる善意が、どろりと形を崩した。
お代は既に頂戴しておりますよ。……
……え?
戸惑うお客に対して、何もかも見透かす円盤のような眼を更に開き、店主はニンマリ笑っただけだった。
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