The Best American Short Stories 2022(192)

The Best American Short Stories 2022(192)
“Post” (21) by Alice McDermont “One Story” より
「救急車を呼ぶわ、」と、彼女は彼に言った。
助けを呼ぶ、そうだ、しかし同時に、彼女は部屋の中にいる別の存在、他の生きている人間のためでもあることをはっきりと分かっていた。
彼女は彼を助けたかった、が、それ以上に、彼女は他の人々と一緒にいる事を望んでいた、それがどんな見知らぬ人であれ、誰かが部屋に駆け込んできて、電気をつけ、恐ろしい夢を消し去る。

 「くそっ」と、彼が言った。
そして咳をし始めた。
「僕は死人だ、」と、彼が言った。

救急車は、赤色灯を回しエンジンをかけたままで、歩道の縁石の所で異様なくらい長い間留まっているように思えた、現実とは思えないような搬送人の話し声が、彼女が長い間誰もそこから現れる事を見たことが無い目張りをした窓を通して聞こえていた。

 「心臓発作じゃなくて嬉しいよ、」と、彼はベッドから言った。
彼は注意を怠らなかった、少し顔を赤らめていて、少し恥ずかしそうだった。

 その後、救急車の後ろのドアが開き、彼女は彼らが防護用具を着ているのが見え、薄暗いと通りのライトの中で宇宙服を着た宇宙飛行士が膨らんだ靴を履いてあちこち行ったり来たり、頷きながら、動いているように見えた、 そして。 ― 彼女にはそれは物憂げに思えたのだが ― お互いにあたかもその大胆な服を認め合うかのようなそぶりをしていた。
「ああ、それ良いね。そう、それ脱いでも良いね、絶対。」
その後、彼らは月面を歩く人の様に彼女のビルの方に歩道を横切って移動して来た。

 彼女は彼らが近づいて来るのをじっと見ていたが、ブザーの大きな音が彼女をハッとさせた。
「マスクをしてください。」という声がインターフォンの静寂さを通して言っていた。
そして彼女は、あなたがマスクしている事は分かっているわ、と、言いそうになった。
「どうかマスクをつけてください。」

 彼女はライトをいくつか点けた。
― それは暗闇に中で救急車を探すには必要だったようだ ―
そして、自分の紙マスクの箱を見つけた。

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