シュガーアイランド クレア・ラチェット作 ブローシャー誌より

シュガーアイランド クレア・ラチェット作 ブローシャー誌より
From The Best American Short Stories 2022

マギーとジョーンは2時のシュガーアイランド行きの船に乗った。
ある男が彼女たちにラクダの皮のソファーを見せることになっていた。
緑色のビロード張りの丸まった腕の、かぎ状の脚の付いたものだ。
700ドル。
広告ではそれは1908年製だと言っている。
それはマギーには反吐が出るほど嫌なこと(100年も前のガラクタ)だったが、ジョーンは古いものが大好きで、彼女はマギーにソファーを買ってあげてジョーンが訊ねて行ったときに一緒に座って本を読みたいと思っていた。
ジョーンの愛の言葉は贈り物を送る事だった。
マギーのは贈り物を受け取る事だった。

この事は数年前、マギーがまだ瀉血療法士だった頃に遡る。
それが彼女らの出会いだった ― ジョーンは自分がビタミンD欠乏症だと疑っていたが、マギーは彼女の静脈に針を刺して血を抜いたのだった。
患者の中には難しい患者もいる: マギーは彼らの手を叩き、彼らに拳骨を作るよう求め、その後もう一度手を叩く。
時々、彼女はゴムのチューブで彼らの腕を縛らなければならなかった。
そうした後、時には、一度ならずも、彼女は彼らに針を刺した。
しかしジョーンはそうではなかった。
彼女は簡単だった、 ― 彼女の腕頭静脈はふっくらとはっきりしていて、マギーはそれを最初の一回で刺した。
彼女がジョーンの肘の湾曲部にガーゼをテープで貼る頃には、ジョーンは彼女にデートを申し込んでいた。

 その女性の体液を扱った事のある女性と寝るのは便利だった。
数か月前にジョーンがオハイオに越し、マギーにとってそれ程便利ではなくなった。
彼女たちは交代で445マイル(700km)の旅をし、その旅ごとにマギーにとってはどんどん遠くに感じるようになっていった。
彼女はインディアナ州のコミュニティ、セイロンの休憩所に車を止め、洗車をし、クロスワードパズルをするのだった。
一度など、彼女は18ホールのミニゴルフをするため高速道路を下りたこともあった。
彼女は、ジョーンへの愛が折り重なった正確な瞬間を特定できなかった。
しかし、高速道路のどこかで、一番右側の最遅の車線を走りながら、彼女はこのまま走り続ける事はできないと気付き始めていた。

 ジョーンはマギーがこれまでに愛した女性たちの中で最も気前のいい女性だった。
彼女は彼女に何でも与えていた:
ダウンジャケット、チキンのディナー、鉢植えの植物。
|栄養補助食品〈サプリメント〉。カクテル。
お風呂場での散髪、昼間のオルガズム。
そして今はカウチの約束。
しかしそれよりも何よりジョーンはマギーに彼女自身からの聖域を与えた。
彼女は天井の、そして今、州間高速道路の反対側で安全な誰かが待っているという確信を与えてくれた。
それはこの事を知ることで、マギーの中の落ち着かない心を静めた。

 ジョーンの恋人になることはマギーが欲した事ではなく、彼女がそうさせたものだった。
時々マギーは不況や選挙のせいにした ― こんな状況で彼女が一人でいる事を期待するだろうか?
彼女たちはキスをし、それからキスをし続け、セックスしてはセックスを続け、マギーはジョーンが与えなければならなかった全ての事を受け入れた。
それは孤独と偶然の完璧な嵐だった。
歴史的に見て、マギーは自分の人生の出来事に反対するコツは身に付けていなかった。
彼女は一人でいるための特別な才能は持っていなかった。

シュガーアイランドの人口は683人だった。
彼女たちがフェリーを下りた時、ジョーンは自分の地図を見て、マギーの先に立って、元気よく通りの中央を歩いた。
そこには家よりも空き地が多く、空き地は飢えて、すこし絶望的なように見えた。
そこには停止信号が無かったが、問題は無いようだった、というのは止まるべき車がいなかったから。

 ジョーンが後ろを振り向きながら「大丈夫?」と言った。
彼女は立ち止まるごとにそう聞いた。

 「ええ、」とマギーは言った。「大丈夫よ。」

 彼女たちは傾斜した私道に着き、砂利道を歩いて下って行き、そこはソファーを持っている男の家だった。
その家は平屋で、淡いオシッコのような色をしていた。
窓には厚いブラインドがあり、前にビュイックが停まっていた。

 ドアを開けた老人は、頬が掃除機で吸い込まれたようにやつれていた。
彼の灰色の髪は櫛で梳かし整髪料が塗ってあった。
彼はまるで一日中彼女たちを待っていたかのようにほほ笑んでいた。
マギーは、自分たちが他の誰からも何マイルも離れていることを考えた。

 「キャメルバックを買いに来たんだろう、」と、彼は言い、それを確かめようと彼女たちを見た。
ジョーンが頷いた。
「俺はバグレイだ、」と彼が言い、彼女たちを中に入れるためわきに寄った。

 マギーは明るさに瞬きをし、彼の前室の壁が芸術にあふれているのを見た。

 「どうぞ、見て回ってくれ。」と彼が言った。
 
 太った魚を抱えた悲し気な悲しい若い女の子の肖像画があった。
残骸の風景画、空中から描かれた農家、電話ボックスの横にサボテンがあった。
荒れ果てた家々があった。
その後、マギーがジョーンと別れたずっと後、何年もそれについて考えた一つの物があった。: それは絞り出されすぎて真ん中で折れ曲がったパート・シャンプーのチューブの描かれた小さな油絵だった。

 「まさか、」と、ジョーンが言った。
彼女は犬がたばこを吸っている絵の前に屈みこんだ。
「これはグリフィス?」

 バグレイはいたずらな表情を浮かべた。
「それはグリフィスさ。」

 ジョーンは金切り声をあげた。
「私、彼が大好きなの。」
「彼は私のお気に入りの一人よ。これは彼の ― 」

 「彼のペットのピーブス シリーズ、そうだよ、」と、バグレイが言った。

 「何てことだ! 恐れ入ったね!」と、ジョーンが言った。

 バグレイは彼女たちに白ワインかコーラかラムチャタと呼ばれるクリームリキュールを勧めた。
ジョーンは白ワインが好きだといった。
マギーは何もほしくなかった。
バグレイがワインを持って帰って来た時、彼は背の高い椅子に座り彼女たちの仕事は何なのかを聞いた。

 「私は芸術家よ、」とジョーンが言った。「画家なの。」

 「素晴らしいな、」と、バグレイが言った。

 「そして私は瀉血療法士よ、」と、マギーが言った。
「私は人の血液を抜いて(描いて)いるの。」

 「じゃあ、君も芸術家ってわけだ、」と、彼が言った。
「彼女が絵を|塗って<ペイントし>、|君が描く<ドローする>。」

 これを聞いて、ジョーンはとても笑った。
「あなたの言う通りよ!」と、彼女が言った。

 ジョーンは単に礼儀正しかっただけかもしれない、とマギーは自分に言い聞かせた。
それでもまだ、彼女は自分の心が嫉妬にどっぷりとつかっている感じがした。
私たちは一日中ここにいるんだ、と、彼女は思った、ジョーンは歓喜の中でこの変な男といちゃつきながら。

 バグレイがジョーンの仕事について聞きたがったので、ジョーンは自分の携帯を出して彼の横に座った。
マギーはジョーンが画面をめくるのを見ていた、そしてバグレイの表情が何度も何度も変わった。
「ああ、なんてすごいんだ、」と、彼が言い、「信じられない、」、「最高の意味でパコウスキーを思い出させる」とか言った。

その頃、ジョーンたくさんの金片を使っていた。
数か月前、オハイオ州のサンダスキーのメリーゴランド博物館の人々がアンティークの木製の回転木馬の動物を修復するために彼女を雇った。
ジョーンは鑿を使って一インチ(3cm)ほどの厚さの古い塗料とエポキシ樹脂をはぎ取って、新鮮な色とニスを塗った。
最初は、マギーは動物たちが不気味でけばけばしいと思ったが、ジョーンの作品が他の芸術家から尊敬されているをの感じ取って、彼女もそれを尊敬していると言うようになって行った。
マギーが知っているのは、血液、血漿、静脈といった粗雑なものだった。
彼女は何時も、ジョーンの持っていいるもの、才能、高い評価は魔法と幸運の結果のように思えるのに対して、自分の仕事は簡単に習得できると思っていた。

 「君は大の大人が色を塗った仔馬にお金を払うなんて信じないでしょうね、」と、マギーが言ったが、ジョーンもバグレイも聞いてはいない様だった。

 マギーが最後のものごとを終わらせようとしたとき、サンダスキーへの445マイルのドライブの間何と言おうかと練習した。
彼女はジョーンに本当のことを言おうと決めていた。
「問題は、」と、彼女は言うだろう、「私はあなたが何かについて、何を言わなければいけないなんてまったく気に掛けていないわ。」

 しかしマギーがジョーンのアパートに入って行った時、ジョーンはそこにいなかった。
マギーはストリングチーズを食べマットレスに横になった。
暫くして、彼女はジョーンに電話をした。
ジョーンは彼女に自分は病院にいると言った。
彼女は仕事をしていて木製の象の体を脚に落としてしまって、医者が彼女の足の人差し指のちぎれた部分を再び接合することができなかった。
彼女は傷口を縫合するのを待っているのだという。
「おやまあ、」と、マギーは言い、ちーずの袋をもう一個開けた。

ある時点で、バグリーはジヨーンの肩に手を置いて、何か癪に障る感じがマギーの喉を捉えた。
彼女は立ち上がった。
「それで、例の長いすは、」と、彼女は言った。
「700って言いましたよね?」

 彼は彼女をちらっと見る事さえしなかった。
「俺は美術にもちょっと手を染めているんだ、」と、彼はジョーンに言った。
「デッサンを書くのが好きなんだ。もし良ければ ― 」
彼は立ち上がって何かを探しにその場を立ち去った。

 彼がいなくなったとき、ジョーンはマギーに「あなた、大丈夫?」と、囁いた。

 マギーは肩をすくめることができただけだった。

 バグリーが描いたののを持って帰って来て、それを最初にジョーンに見せた。
「それは俺の妻だ、」と、彼が言った。

 ジョーンは見て彼女の目はある種の感情の深さで、夢見心地になった。
「素晴らしいわ、」と、彼女が言った。

 そのすぐ後、バグリーはマギーの横に座ってそのスケッチを見せた。
それは両脚を広げた裸婦だった。
真っ直ぐな鼻、閉じた目。
大きな胸と茂み。
彼女は草と百合に囲まれて、ある種の牧草地に横になっていた。
彼は手は上手に描けてはいなかったがそれ以外の細部は正確で正確な比率で、きちんと描けていた。

 バグリーがもう一度絵を見た。
「本当に上手だと思うかい?」と、彼はジョーンに言った。

 「ええ、」と、彼女が言った。
「あなたはかなりの観察眼を持っているわ。」
彼女は彼に微笑みかけてその後、「私は一度マギーを描いたの、」と言い、確かめるように彼女の方を振り返って言った。

 マギーは頷いた。
「そう、彼女は描いたの。」
彼女たちが初めて愛し合った後の朝、マギーはそれはもう二度と起こらないだろうと自分に言い聞かせた。
しかしその後、ジョーンは肘をつついて彼女が作ったものを見せたがった。
「外に行こう、」と、彼女が言い、マギーは彼女の非常階段の所へついて行った、そこでジョーンはリップストップ生地の長いチューブを扇風機に装着した。
チューブは膨らんでエアダンサー(空気で膨らませる人形)のようにブラブラしているようだった、そしてマギーはジョーンがチューブを彼女に似せて描いたのが分かった。
リップストップに描かれた女性は彼女が前の日に着ていた縞模様の服を着ていたのだった。
マギーは彼女のナイロンの体が一方に、その後もう片側に傾くのを見ていた。
彼女の両腕は風が当たると、広く揺れ、彼女は腰の所で捩れ低く屈折し、それからもう一度立ち上がった。
それは激しく動き、とてもビックリするもので、数年経った今でも、マギーの脈拍は彼女が車の販売店を通り過ぎる時には速くなるのだ。

 バグリーは居心地の悪さを感じ、笑った。
その後、彼は彼の絵をコーヒーテーブルの上に仕舞い、彼女たちを見た。
彼は、「じゃあ、キャメルバックのソファーを見て見るか、」と、言った。

 ジョーンがマギーの手を握り、マギーは振り払って自分のポケットに手を突っ込んだ。
彼女たちはバグレイについて明るい台所を通って、彼の寝室に入って行った。
毛足の長い絨毯は濃い黄緑色、4柱式のベッドは暗いオーク色で、壁はけばけばしい花柄だった。
そしてベッドの反対側にキャメルバックのソファーがあった。

「可愛いわね、」と、ジョーンが言って、彼女が座るとスプリングが音を立てた。

 「この子は本当の掘り出し物だよ、」と、バグリーが言った。
「ここ、クッションの反対側にちょっとしたしみが付いているのを覗けば、完全な状態だ。」
彼は生地を持ち上げて彼女たちに小さなペンの印を見せた。
「俺はもうフェリーで運んでくれる奴らを見つけている、」と、彼が言った。
「追加料金なしでだ、設置料込みだよ。素晴らしいやつらさ。」

 「私3階に住んでいるの、」と、マギーが言った。

「問題ないさ!」と、バグレーが言った。
「彼らは言った通りの階数迄配送してくれるよ。」

 「来て、座って、」と、ジョーンが言って、彼女の隣の席を叩いた。

 マギーは言った通りにした。
「硬いわ、」と、彼女が言った。

 「しっかりしているのよ、」と、ジョーンが訂正した。

 バグリーは脚に彫られた渦巻き模様を指さした。
「俺が最も愛しているのはこれらの美しい木工細工の詳細なんだ。」

 ジョーンはその渦巻き模様に感動した。
「もうこんな風に作れないわね、」と、彼女が言い、バグリーが頷いた。

 「ソファーカバーをおまけするよ。それと対の枕も。」

 「ソファーカバー、」と、マギーは嘲笑した。

 「それを保護するためよ、」とジョーンが言った。
彼女は自分の声からイラつきを感じさせないようにしていると、マギーには言えた。
「どう思う?」
「私には分からないわ。」と、マギーは言った。
彼女は自分のアパートにあるものの事を考えていた:模造木材で作られた本棚、背もたれの真っ直ぐな椅子、箱の中に丸めて入れられたポリフォームで出来たマットレス。
彼女はそれを広げて、生地のように寝かせなければならなかった。
それ以来彼女は月経の時はずっとその上で横になった。

 ソファーはジョーンのアパートによりマッチするだろう、そこでは家具が高価で魅力あるものに見える。
ジョーンのマットレスは1800ドルした。
それはとても豪華だったので女性の名前が付いていた。
レイラだ。
ジョーンが引っ越した時、マギーはレイラをトラックに積んだり降ろしたり、彼女の新しい階に後ろ向きに上がるのを手伝った。
これが彼女にとって彼女たちの関係は続かないだろうとはっきりした最初の時だった。:彼女たちは階段の吹き抜け部分でフォームと金属のコイルの100ポンドのマットレスを間に抱えて立ち止まり、それをどうやって角を回るのか方法が分からなかった。

 マギーは彼女の選択肢を考えた。
カウチを受け入れるのか、受け入れないのか ― 全ての可能な決定はジョーンに誤解を与えるだろう。
どちらにしてもマギーは残酷に感じるだろう。

 彼女は、自分の人生の出来事に積極的に関心を持つ時期が過ぎたことを知っていた。
一日中彼女は人々の腕を突き、彼らの血が体から出るのを見つめた。
これらの人々は喜んで小さな痛みに耐えていた。
彼らは回復する用意があった。
彼らは何時その結果が出るのか「言ってくれ」と医者たちに言っていた。
「私はどうすべきなのか?私がよくなる方法は何なのですか?」

 マギーはそれほど勇敢ではなかった。

 はい、いいです、はい、カウチを買いましょう。
はい、私はそのカウチが大好きです、そしてジョーンが小切手の空欄を埋めた時、彼女は自分でもその事を信じそうになった。

「あなたは前にする後にする?」と、ジョーンが聞いた。
カウチは日の光で違う色をしていた ; ビロードの輝きでほとんど濡れているように見えた。

 「どっちでもいいわ、」とマギーが言い、それでジョーンが前を担当することになった。
お互いに反対を向いて彼女たちはバグリーの私道で蹲って、ジョーンはマギーが彼女の脚で持ち上げるように促した。

 「あなたが私の目になってね、」と、ジョーンが言い、後ろ向きに歩いて行った。
「もし何かにぶつかりそうになったら言ってね。」

 キャメルバックは重いというより扱いにくく、そのかさばり具合に合わせるため両手を動かした。
彼女はバグリーの屈強なやつらの予定に合わせるよりも、彼女たちが今日カウチを引き取ることを言い張ったのだった。
マギーが前脚の下に手をかけた時、ジョーンが「わかったの?」と、言った。
「分かったわ、」と、マギーが言った。
彼女たちはカウチをゆすりながら、歩調を合わせ歩いた。
マギーはジョーンの向こうにイグサとアザミの原っぱを見た。
それぐらいあたりには何もなかった。
通りは平らで、人影もないようだったが、その後ジョーンが「こんにちは、」と言い、ヘルメットをかぶっていない、大きなジーンズをはいた少年が、彼女たちの横から自転車で寄って来た。
彼は彼女たちの横を通り過ぎる時、うなづいて気怠そうに意味もなく両膝を開いてペダルをこいだ。
自転車のチェーンのチャリチャリいう音だけが聞こえていた。

桟橋の所で彼女たちは帰りの片道切符を買った。

 船へ出入り通路は狭すぎて、彼女たちは手すりを乗り越えるためカウチを肩に担がなければならなかった。
マギーはどっと疲れていた。
彼女の腕は震え彼女のテニスシューズは一歩ごとに少しだけ滑った。

 赤いベストを着た男が彼女たちが通るのを誘導した。
「そのまま真っ直ぐ、」と、彼が桟橋を半分来たところで言った。
「真っ直ぐ。もうちょっと。もうちょっと。ちょっとだけ ― いいよ、止まって、」と、マギーが手を離した時、彼が言った。

 彼女は喘ぎながら腰を曲げて膝に手を当てた。
「ちょっと待って、」と、彼女は言った。

 「何か手伝ってほしいことがあるかい?」と、ベストの男が聞いた。

 「いいえ、」と、マギーが言った。
「大丈夫よ。」
そして、「ええ、勿論、大丈夫よ。」
彼女はわきに寄り、男が後ろの半分を簡単に持ち上げた。
彼とジョーンは(マギーにはそう思えたが)陽気に歩きだし、フェリーのデッキにカウチを置いた。
わたしでもできたのに、と彼女は思った。
彼女はあんなに早く諦めなければよかったと思った。

船はよろめきながらシュガー・アイランドをを離れ、ジョーンはマギーに手を回した。
ジョーンは汗とバグレイのワインの匂いがした。
彼女たちはキャメルバックに座りミシガン湖を見、カウチを運んだ後ジョーンに抱かれているのは心地よかった。
マギーは、物理的な物や気遣いや行為中のアイコンタクトよりもこの事を失う事を寂しく思うだろうと思っていた :ジョーンが梅干しが種にくっつくようにぴったりと抱き着いている様子をだ。

 彼女は事を終わらせることができるのは彼女だけだとも思っていた。
彼女は自分自身を傲慢な人間だと思っていた。
彼女がジョーンと別れるのに必要な気概を持つのは、単に時間の問題なのだ、と彼女は思った。
しかし、彼女は数か月後にジョーンがエイミーに出会う迄、ずっとその気概を待ち続けていた。
ESOL(English for Speakers of Other Languages (他国語を話す人のための英語))を教えていて、マギーがネットで何度も検索して受講を決めたエイミーは鼻ピアスをしていてどうしようもなくかわいくて楽しい人だった。

 ジョーンがいなくなった後、マギーは静脈穿刺や簡単に習得できる仕事にうんざりした。
彼女は自分自身により多くの事を求めた。
彼女は数千ドルかけて医学学校を受験したが、どこにも入れなかった。
彼女にはどんな魔法も幸運もなかった。
不合格通知が次々に舞い込んだが、誰にも彼女が受験したことは言わなかったのでその事を誰にも言わなかった。
次の年、彼女はイリノイの看護学校に受かった時、行こうと決心した。

 シュガーアイランドへの旅行以来数年間、マギーは7つの異なったアパートや2つの小さな平屋に移動したりそこを出たりしていた。
その度に彼女は自責の念に駆られることもなく多くの物を捨てた:わきの下の汚れたTシャツ、旅行用歯磨きのチューブ、鞄の底に入っていたオレンジと黄色のスキットル(フルーツ味のキャンディ)など。
ずっと昔に読んだ雑誌、片方なくなったソックス。
死んでしまった叔母さんがくれた誕生祝いのカード。
それはまるで、彼女が今ある自分以外の彼女だった証拠を取り去るようなものだと感じている。

彼女たちが別れた後、居間で彼女とジョーンが一緒にそこに置いた、そのカウチを見る事はマギーにとって苦痛だった。
「完璧ね、」とジョーンは言い、跪いてカウチのそれぞれの脚に丸いフェルト布の円盤を張り付けたのだった。
マギーが思い出すのはこのイメージだ :ジョーンが汚いスニーカーを履いている、膝をついて、カウチの片方を持ち上げている。
マギーは自分がこんな人物と別れたがっていたなんてほとんど信じてられなかった。

 彼女たちが別れた後、マギーはカウチを部屋の片側の隅からもう一方の側に押しやった。
彼女はそれを窓に向かい合わせにして、次に本棚に向かい合わせにし、その後ドアの所に置いたが、そこから元の場所に置く事に決めた。
時間が経って、カウチはありふれて普通の彼女の生活の背景の一部になる。
そして彼女が年をとってゆき、彼女が誰かと一緒に生活するようになったとき、彼女が夜勤の仕事から帰って来て彼女の、優しい精神的にバランスの取れた恋人がうっかり近所のガレージセールでキャメルバックを26ドルで売ってしまった事に気付く。
「それを買った人の名前を知っていますか?」と、マギーは無関心を装って聞くだろう。
                 <おわり>

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