「おみやげ博物館」 エリザベス マクラッケン

「おみやげ博物館」 エリザベス マクラッケン (ハーパーズに記載)
The Best American Short Stories

おそらく彼女は自分が無くした愛、数年も前に死んだ、彼女のヴァイキングの夫をフューネン島のサイデンガードの彼の民族の村で、見つける事になるだろうと知るべきだった。
薬師の女性の小屋で眠り、薬師の女性に慰められ、薬師の女性に愛され、後で分かったのだが、彼女はオーフスから来たフローラという名前の足病医だった。
その村自体が教育的な場所で保養地でもあり、そこではもし望めば衣装を着て、楽しみに毛糸を紡ぐこともできた。
アクセルはと言えば、彼はジョアンナの内縁の元夫だったのか、元内縁の夫だったのか?
11年前に彼らは10年間一緒に暮らした後別れたのだった。
「離婚」 ― ある夏、アクセルはデンマークに行ってしまい、彼女は二度と彼からの便りはなかった。

 全然というわけではなかった。
彼はロンドンから謝罪の手紙を送った。
しかしその後、11年間何も無しだ。
彼女は結婚し、母になり、母を亡くし、法的に離婚し、結局彼女の父親の死により完全な孤児だった。
彼女の父親はアクセルが消えてしまった時、自分自身のために悲しみに打ちひしがれていた。
他の誰が彼と共に白ワインと牡蠣で朝食をとってくれるだろうか?
誰が、いい香りのするパイの複雑さ:ポークと腎臓、エンパナーダ対コーンウェルのペストリー、について議論をすることができただろうか?
彼らはお互いに敬愛していた。
2人はどちらも、大柄で髭を生やし、謙虚で好ましく、貪欲で悲しい目をしていた。
その事についてジョアンナが思った時、控えめに言っても、彼女の友人たちはその事について、何と彼らは似ているのだろう、と言っていた。
アクセルの事を、あらゆる意味で男友達にしかすぎなかった時、彼女が彼を数年後に法的なややこしくなる必要性のない状態と認めたように、内縁の夫だと言ったのは彼女の父親だった。

 葬儀の後、彼女の父親の散らかった寝室は多分、緑の後ろで死んでしまったか眠ってしまっている動物の水槽の様だった。
彼女は彼を探しに探した。
決定的なものは何も感じなかった。
腕時計はライトスタンドの引き出しの中の期限切れのパスポートの下にあり、銀製で重くて、ケースには蒸気機関車が彫ってあり、裏には黄色のステッカーが貼ってあった。
:どうかアクセルに渡してください。
彼女はステッカーを読み、又、読み直した。
彼女の息子のレオは彼の、おじいさんに似ていてずっと昔の事を描き、まだ9歳なのに特に武器が大好きで、ここ2年ほとんど毎日武器を鉛筆で描いていた。
彼は刃物が一番好きだった。:刀、銃剣、時には鉄砲。
彼はおもちゃの武器は、裏口からは手に入れていたようだが、許されてはいなかった。
つまり、レゴの箱の中には、安全ピンの大きさの弓と矢、レゴで出来た人の緊張した手にぴったり収まるピストルがあった。

 彼女は腕時計を掌の上でひっくり返した。
多分、レオは時間を計る学問に興味を持つかもしれない。
彼女は彼が時計職人のベンチに屈みこむことを思い描き、メモを捨ててその時計を取っておくことを考えた。
その代わりに、彼女はそれを彼の父親のナイトスタンドから自分の所に移した。
「渡して、」と彼は書いていた。
メールじゃないのでそれは届かない。
そのステッカーは彼が残した遺書に近いものだった、糞くらえ。
彼女は多分、既にバカみたいな表情をしているだろうと思い、それを極力尊重すべきだと思った。

不動産を整理し、マンションを売り、彼女たちが初めての海外旅行に行けるほどの少しのお金を手に入れるのに一年かかった。
ジョアンナはレオに彼女が子供の時から欲しかった2段ベッドを買ってやった。
彼女が彼を朝学校に行かせるために起こすとき、彼女は上下どっちのベッドに彼が寝ているのか分からなかった。
あの朝、彼は上の段でぬいぐるみの動物と掛布団からはみ出したワニ柄の敷毛布に囲まれて、隠れていた。
その後、彼女は一方の靴下を履いていないかかとを見た。
彼のかかとでさえしっかり眠っていて愛おしかった。

 「レオ、」と、彼女が言った。

 踵が見えなくなった。
彼はベッドカバーの下で、目を覚ましたかのようにカバーの中で体を丸めた。
その後、起き上がり瞬きをした、上半身裸でやせていた。

 「ヴァイキングについてどう思う?」と、彼女は彼に聞いた。

 「僕の好みじゃあないよ、」と、彼は言い、手を差し出した。
「眼鏡は?」

 彼は学校で視力検査で落ちたので新しく眼鏡をかけたところだった。
彼は気にしていなかったので、彼女は彼が堅苦しいやせっぽっちのやさおとこに見えないで80年代のすらっとしたおとこに見えるように、黒の角縁の眼鏡を選んでいた。
眼鏡屋から出て、駐車場を見て、駐車場の木々を見て、スタバとそのU 字くぎを見て、わあ、と彼は言った。
わあ。
正にそんな風に彼とその世界は違うように見えた。

 彼女は本棚の上の眼鏡を見つけて彼に手渡した。
「ヴァイキングは好みじゃあないですって?」

 彼は急いで寝台の端っこに行き階段を下りた。
「僕はローマ人が好きだ。」
彼が寝る時に着ていた下着のパンツはエビの模様で小さすぎた。
「ヴァイキングはほんとは兜に角なんか付けていなかったんだよ。知ってた?」

 「知らなかったわ、」と、彼女が言った。

 レオがしゃべり始めてから、本を読めるようになる前まで、一年半の間、ジョアンナは彼の頭の中にある、考え、恐怖、事実と情熱すべての事をわかっていた。
彼は当時おとぎの国に属していた;その後、本と事実に基づいていたのだった。
今は彼はいつも彼女が彼の頭に入れた事ではない考えを持っていた、彼女はその事が子供を持つことだと分かりながらも、それは彼女を破壊するのだった。

 「それで、」と、彼女は言った。
「私にはデンマークに友達がいるの。今年の夏そこに行こうかと思っているんだけど。」

 レオは自分の机に座って鉛筆を持った。
彼は、嘘をつこうとするときや、何かを過剰に気にするときの声で、「もし行くのなら、レゴランドにも行ける?」と言った。

 「それはカリフォルニアにあるって思っていたわ。」

 「本物のレゴランドだよ、」と、レオは説明した。
「デンマークのレゴランドだよ。デンマークはレゴが発明された場所なんだ。」

 「あなたはそんなのを見るには年をとっているんじゃない?」

 眼鏡は彼の疑うような表情を拡大させていた。
彼はまるで1950年代の嘘をつかれていると知っているテレビのジャーナリストの様だった。
「お母さん、僕がレゴ好きだって知っているだろ。」

 「ええ、」と、彼女は言った。「勿論よ。」
レゴ:その顕著な角度、その緻密な野心。
彼女自身の子供時代の旅では、ジョアンナは彼女の父親の興味に翻弄されていた。
彼は車を運転して;彼が何処で車を止めるかを決めていた。
遊園地や観光客が引っ掛かりそうな場所ではなく。
その代わり:戦争博物館、歯が欠けたようにまばらになった墓地、歴史上あまり有名でない人物のかつての邸宅、そこには、スープ用深皿、溝の彫られたスプーンのある、夕食用のテーブルセット、暖炉の上に交差された剣があった。
ジョアンナは9歳、10歳、永遠にクライド・ピーリングの爬虫類ランドに行きたいと思っていた。
それと、ボールベアリンが坂道を駆け上がるミステリースポットに。
シックス・フラッグス・オーバー・エニウェアにも。
レゴランドの看板があれば彼女は憧れで気が狂っていただろう、めそめそ泣きだしたかもしれない、しかし泣きだしたとしたとしても彼女は何処へも行けなかっただろうと彼女の母親は指摘していた。
彼女の父親はどこかより有名じゃない南北戦争の戦跡にオベリスクを調査するために車を進めただろう。

 レオは両親が離婚したこどもだったので、彼の休暇は全てロードアイランドとカリフォルニアの往復だった。
彼女たちは本当に一緒に旅行をしたということは一度もなかった。

 「いいわ、」と、彼女が言った。「レゴランドに行くわ。」

 彼女は既に彼女たちのパスポートを更新していて、航空券も買い、GPSナビ付きのボルボも予約していた。
しかし、子供に選択するという楽しみを与える必要があったのだ。

レゴランドは圧倒するような黄色で、レオはバツが悪く感じ、それを嫌った。
乗り物にはそれに乗るのに待たなければならない予定時間を示す電子掲示板が付いていた。
人工水路の丸木舟は45分待ち、という具合だ。
北極ジェットコースターは1時間5分待ち。
それは普通の混雑した遊園地だった。
彼女たちは彼女たちの休暇の最初の日に、ボストンからパリへ、パリからビルンへそしてこの地で終わるという空中飛行を経てここに来たのだった。
彼は彼女が彼女のお金の価値分だけの事を得るにはどれくらい長く留まらなければならないのだろうかと思った。
彼女はお金のかかる楽しみを不快に思うに近いない。
一番明るいアメリカ人の金髪よりももっと明るい色の髪の子供たちの集団は彼を動揺させた。
亜麻色の髪、とでも言うのだろうか、と彼は思った。
本に書いてある様な。
亜麻色の髪と青いヤグルマギク色の目、彼は実際の生活の中では亜麻もヤグルマギクも一度も見た事はなかった。
もし彼がそれらを見たとすれば、デンマークの子供たちの目の様に青く、デンマークの子供のマレットヘヤ(ウルフカットの一種)のような白っぽい色と表現するだろうなあと思った。
レオにとっては金髪そのものが悪意があるように思えた。
大声で叫んで他人の脚を踏みつける金髪の子供はその金髪の髪ゆえである。
ほら、又来たぞ、等身大のハンス・クリスチャン・アンデルセンの像によじ登ろうとしている自分の子供を追いかけている、ベビーカーで他人とぶつかる金髪の母親は、純粋に亜麻色の髪をしているのだった。

 アメリカでは彼は叫び声をあげていただろうが、レゴランドではそれを耐えなければならないと感じていた。

 お土産店でさえ失望するものだった。
彼は何か想像できないほど大きな、彼が作る気になるような大きさの巨大な箱を想像していた。
レゴにぴったりの何か。
人が住めるくらいの大きさの、尖塔のある町とか。
デンマークそれ自身だ。
彼はもはやレゴに夢を抱かなかったが、時々、未だに彼のベッドの下にあるレゴの箱に手をやって、世界はレゴの様に堅牢で変幻自在であることを思い出していた。

 ヨハンナもレゴランドがひどいものだと分かった;ヨハンナもそれを告白できずにいた。
それはある種の慰めでもあった、というのはアクセルは何時もデンマークとアメリカの問題で疲れていたからだった。
デンマークは美しく、デンマーク人も美しかった;アメリカは粗野でアメリカ人の生活のあらゆる瞬間は、アメリカの生活の形とはちょっとだけ違っている広告だった;人はそのハンバーガーが全く同じものなのに、次のハンバーガーのコマーシャルが宣伝してなければそれ程楽しめないだろう:パサパサで香りもないのだ。
「アメリカ人はゴミみたいな味覚を持っている」と、彼はアメリカのバナナスプリットをがつがつ食べながら言ったものだ。
「君は違うよ、ヨハンナ。」
彼は何時も彼女の名前に偽の「h」を加えた。
「でも、いつか、デンマークに行って、アイスクリームを食べれば分かるよ。」
でもその男は明らかにレゴランドには行ったことが無かったのだった、そこではアイスクリームでさえ30分も列に並ばなければいけないし、その後は気怠さの悲劇に見舞われるのだった。

 彼女たちはセルフサービスの、ボンゴのような形の背の高いプラスティックの器で好みの味を混ぜて飲めるスタンドに立ち寄った。
レゴのパーソナルカクテルは|緑色がかったオリーブ色<アーミーグリーン>だった。
これは彼が子供用粘土を全部混ぜた時にいつもなる色だ。
彼はそれを目をつぶって顔をしかめて飲んだ。
彼は彼の亡くなったおじいちゃんの不機嫌な時に最も似ていた。

 「可愛そうなウサギちゃん、あなたは時差ボケしているのよ。さあ、座って。」
彼女たちはハンス・クリスチャン・アンデルセンのレゴの横のベンチに座って、ヨハンナは、彼らはその場所をハンス・クリスチャン・アンデルセンのレゴと一緒に写真を撮りたい人々のためにあけるべきだった、座るべきではなかったと感じていた。
しかし、何故そんな人々の思い通りにならなければならないのだろうか?

 「僕は時差ボケじゃないよ、」と、彼が言った。
 「ホテルの部屋に行きたいだけなの?」
 「レゴランドの中にあるホテル?」
 「そうよ、」と、彼女が言った。
 「ああ、」
その後、「僕はここは大嫌いだ。」
 「デンマーク?」

 彼は呆れた顔で彼女を見た。
「これはデンマークじゃない、」と、彼が言った。
「もう出てもいい?ここは僕がそうだろうと思っていたものじゃない。」

 「いいわ、」と、ヨハンナが優雅に母親らしく、良い母親らしく、寛大に言った。
「それがどんな風だと思っていたの?」

 しかし、彼女は知っていた。
私たちのレゴランドでは私たちだけが人間なのだ。

 「良い、聞いて、」と彼女は言い、レオに自分の携帯を手渡した。
「あなたが選びなさい。どこでも行きたいところに行けるわ。
ヴァイキングはあなたが好きなものじゃない事は知っているけど、私にはそのバイキング村に友達がいるの ― 。」

 「何というヴァイキングの村なの?」
「あるヴァイキングの村よ、」と、彼女は言った。
「今週の終わりには、そこに行くの。それまでにどこに行くか調べなさい。
次の3日間の計画を立てなさい。
良ければレゴランドに戻っても良いわよ ― 」

 「僕は絶対レゴランドには戻らないよ、」と、彼は情熱を込めて言った。

 私たちの子供たちが私たちが大好きなものを選べば、それは祝福すべきことだが、ああ、私たちが大嫌いなものを嫌ってるとしたら!

デンマークには悲惨さと富と男たちの不愉快な習慣にささげられた小さな博物館がたくさん点在していて、レオはその全部に行きたがった。
彼はヴァイキングに心惹かれていた。
デンマークにはある種の穏やかな退屈さがあり、それはそれで興味深かった。
:考古学博物館の説明文は全てデンマーク語で書かれて陶器の破片や釘、剣やいくらかの鎧が展示されていた。
退屈なテーマに興味を持つのは努力が必要だった。
レオにとっては、鎧全体よりバイキングの鎧の一部の方がもっと興味深いものだった、というのは|軽い透明な耐候性の熱可塑性物質<プレキシガラス>の箱に入ってはいてもそれはポケットに入る大きさだったからだった。
多分、彼は彼の近視のために小さなかけらが好きだった、今や彼は眼鏡をかけていたので地平線の上から迫って来るものは恐怖だったが、一つになった物体はそれ自体の一つの物語を持ち、それゆえ、誰にも所有できるものだった。
1つの物のかけらを見て、彼は誰もやらなかったように、考え、推測し、発見したのかもしれなかった、そしてその事が彼が望んでいた全てだったのだ。

 彼らはエーロ島へのフェリーに乗った。
レオは古い造船所でクランク式の機械を使ってロープを作った、鍛冶屋に手伝ってもらって簡単な鉄のフックを鋳造した。
鍛冶屋は悲し気な直線的な顔立ちをし、髪は映画のカチンコのような色(黒)をしていた。
黒い鉄は加熱炉に入れるとオレンジ色に輝き、それをハンマーでたたくとオレンジ色の火花が飛び散り、その後それ以上ない程真っ黒な何かと共にそこに残されるのだった。

 彼らは福祉博物館、3つの海洋博物館、デンマーク鉄道博物館に行った。
勿論、ヨハンナは彼の父親の孫の中に生きている退屈そうな感情を見て、彼の事を恋しくなった。
他に誰が、動くという力を奪われて博物館の中にいる電車にそれほどの興味を抱く者がいるだろうか?
ジョアンナではなくとも、そんな風に興味を抱く者を愛したであろう。
彼女はレオの奇妙な興味に無駄な誇りを感じた;レオの陽気な父親は、他のアメリカ人の少年のように、アクション映画やビデオゲームが好きだった。

 ヨハンナはデンマーク語を3つ覚えてデンマークに来ていた。
:テイラー ド イングリスク? (英語を話しますか?、)その答えは何時も英語で、はい話しますよ(Yes, I do.)だった。
;タック! すみませんという意味だが、彼女はすぐその言葉を覚えた、というのは、彼女はひどい聴力の持ち主だったのでそう聞こえたのだが、「unskilled tough(?)」と聞こえたからだった。
未熟だ!
タック!テイラー ド イングリスク?
直ぐに彼女はアイスクリームという言葉を覚えた。
アクセルは正しかった、デンマークのヴァニラ・アイスクリームは幻覚を起こすほど美味しかった、 クグラー(ボール)、バッフラ(ワッフル)、ソフトアイス(ソフトクリーム)、フルーボーラ(クリームパン)。
彼らが家に帰って来て一か月たって、ジョアンナは真夜中に目を覚まして、ありがとうと言う言葉はデンマーク語でトックだったかしらタックだったかしらと思った。
彼女はどっちの発音をしていたのか?
間違った方だったと、彼女は確信した。

 アクセルの腕時計は彼女のポケットの中にあった。
彼女はそれを清潔に保つためジップロックの袋に入れて、ネジを巻くこともなかった。
ネジを巻くのは彼女のやる事ではなかった。
彼女は彼女の人に関するその重さが好きだった。

 彼女はまだアクセルを愛していたのだろうか?
いや、しかし、彼の思い出は時々役に立ったのだった。

彼らはまず、一つの道路標識で、そのあともう一つの道路標識で、古風なお土産博物館を見つけた。
その博物館は質素な城の敷地にあった。
レゴランドの様に、その名前は期待にあふれていた。
お土産:買うことのできる思いで。
起こった事のがれきと共に置いて行く代わりに、取っておこうと企てる事の出来る思いで。

 眠そうに頭をこっくりさせている10代の少女が、切符売り場からパンフレットを渡し博物館へのドアを指さした。
レオがパンフレットを開いた。
博物館は6つの部屋で出来ていた。
彼は許されざるお土産と呼ばれる最後の部屋を見始めた。

 一年前であれば、レオは彼のお母さんに「許されざるお土産」ってどういう意味と聞いていたかもしれない。
今は、レオは母に邪魔されたくない、あるいは払拭してほしくない、恐ろしい私的な恐怖に襲われた。
彼は戦争の本を読んだ;彼の母親は知らなかった。
兵士たちはお土産を持ち帰った:耳や歯、縮んだ頭、頭皮などを。

 彼の母親は、無邪気で、塩と胡椒の瓶の入った最初のガラスケース感心してみていた。
白と黒の、2匹のスコッチテリア。
片方のスコッチテリア(塩)が赤い消火栓の前に(胡椒)脚を持ち上げている。
次のガラスケースも塩と胡椒の調味料入れでいっぱいだった。
頭痛がするほど、または物理的に認知症を示すようにたくさんあって、もっとも単純なものにもそれが意味する名前が付いていた。
:パリと記された陶器のエッフェル塔、ロンドンと記された合金のロンドン橋。
それは明らかに個人の収集物で、デンマーク人の問題のある貯蔵物だった。
明らかに全ての塩と胡椒の調味料入れは日本か中国の大きな工場で作られ地理的な場所(パリやロンドン)のスタンプを押され、輸出されたものだった。

 「この後、」と、彼女は言った、「私達、ヴァイキング村に行くわ。あなたのお爺ちゃんならここが嫌いだっただろうけど。 どうしたの?」

 僕は見たくないよ、と彼は思っていたが、彼は見たくもあった。

 彼は禁じられたお土産の所に足を踏み入れた。
彼が見ているものが何なのか理解するのに少し時間が掛かった。
:サンゴ、象牙、鰐皮の靴、あらゆる種類のエキゾチックな獲物、略奪された骨董品。

 「大丈夫?」 
「大丈夫だよ」と、彼が言った。

 顔のないマネキンが素肌にヒョウ柄のジャケットを羽織り、その痩せた白い特徴のない体は卑猥だった。
「お祖母ちゃんはミンクのストールを持っていたわ、」と、ヨハンナは言った。
「それをどうしていたかは覚えていないけど。」

 いくらかの物はその元の動物を誇示しているものもあった。
:ワニの頭が札入れを閉める口金に使われていたり、白狐の両手がストールからぶら下がっていたりした。
象牙で彫った象や亀の甲羅に彫られた亀に比べれば良いんだか悪いんだか?

 「僕は耳があると思っていた、」と、レオが言った。「敵の耳が」

 「何の敵?」

 「僕にはわからないよ、」と、レオは寂し気に言った。
「その敵は死んじゃったんだから。」

 「耳じゃないわ、」と、ヨハンナは思い切り陽気な声で言った。
彼女はガラスケースを指し示した。
「心配することは何もないわ。」

 「心配してなかったよ、」と彼は言った。
しかしそうではなかった、心配は彼の心の中にあったのだった、かれには、人間が切断されたもの、という見てはならないものを見るのではないかという恐怖があったのだった。
その感覚は衝撃的で貴重なものだった。

 「とにかく、」と、彼女が言った。
 「かれらはそこでふりをしているの?」と、彼が聞いた。
 「どこで?彼らが何のふりを?」
「ヴァイキング村でだよ。盛装して、彼らはヴァイキングだって言う。」
「ああ、分からないわ。なぜ?」
「ルネッサンス・フェアー、」と、彼は暗い声で言った。
彼らはレオが4歳の時にルネッサンス・フェアーに行った事があった。
彼は子供用の大きさのケージでできた鉄製の迷路で迷子になり泣き始めたことがあった。
彼女はその涙に気が付く前に撮った写真を撮っていた。
そして、死刑執行人の服を着た男がプラスティックの斧で、彼に外に出るように出口を指示しなければならなかった。
レオはヨハンナが間違った判断をした証拠として、その事をたびたび持ち出したがった。
彼は歴史は好きだった。
彼は素晴らしい服を着た大人が好きではなかったのだった。

 彼女は「それは素晴らしいでしょうね」と、言った。
「それってお母さんが、レゴランドについても言った事だよ。」
彼女は言ったのだろうか?
「レオ ―」
「僕は行きたくないって言ったよ。」
「いいえ、あなたは ―」
「そうさ、僕は言ったよ、」と彼が言った。
それらの言葉は強調符を付けて話されていて、彼女が聞いたところでは、そして後で思春期の最初の兆しだと彼女が理解し、そして彼を許すであろうことだったが、その時は彼を許さなかった。

 「じゃあ、」と、彼女は言った、「行きましょう。」

 6匹のはく製の動物たちの目は彼らの方を見つめ、どちらが議論に勝つか、どちらが博物館の中を終わりにするのかについて賭けをしているかのようだった。
その後、人間たちは振り返り黙って部屋から出て行った。

その日の朝、彼らはオーディンのオーデンセへと車を走らせていた、彼らのバッグはレンタカーのトランクに詰め込まれていた。
あの夜、彼らはコペンハーゲン迄走り続け、アメリカに帰るつもりだった。
ヨハンナはバックミラーで不満そうなレオを見ていた。
次の年には、彼は前に乗れるくらい背が伸びていただろうが、今の所後部座席に座っていた。
「選ぶのはあなたよ、」と、彼女は言い、ヴァイキング村への旅行が彼の選択だったと信じ込ませようと望んでいた。
彼女が彼のために耐えてきたことを!
3日間の退屈な博物館めぐり。
彼らはちゃんと一緒に旅行をし、彼の幼児期以来初めて同じ部屋で眠った。
今、ダメになってしまった。
彼女は彼女が感じているダメになってしまったことが彼女自身の不安定な心情の為であると知っていた。

 車のナビは彼らを赤いタイル屋根と商店街のない、郊外へと連れてきていた。
「これは正しくなさそうだよ、」と、レオが後ろから、そうではなければいいのにと思いながら、言った。
しかしナビは自分が何をやっているのかが分かっていて、彼らはそこにいたのだった。
オーディンのオーデンセだ。

 彼らは入館場所とお土産屋さんと水洗トイレのある、小さなヴァイキングらしくない現代的な建物を通り過ぎなければならなかった。
ヨハンナはアクセルの名前を出して尋ねるべきかしらと考えたが、もし彼がヴァイキングの名前を持っていたとしたらどうだろうか?
カウンターの中の老女は、彼女の地図を押し付けて、促すように眉をひそめた。
世界中の博物館は、誰も彼らの知識や忠告を聞いてくれない事に怒っている老女たちでいっぱいだ。
彼女は、万一無駄になった場合に備えて、彼らがここにいる理由をレオに言わなかった。

ヨハンナは彼に地図を手渡した。
「どうぞ。英語で書いてあるわよ。」

 彼はそれを調べて、「入ってみる価値ありそうだね。」と、さりげなく言った。
「それは手ごろかもしれない。」

 彼らは、ある明るい日差しの一日、ヴァイキング村に足を踏み入れた、空は真っ青で、雲は雪のように白く、全ての物が作り物の様だった。
しかし、何故そうなのか?
自然が最も美しい時、人間にはそれが人間の仕事の様に見えると思えるのだろうか?

 彼女の探査システムは、未だにアクセルの周波数に合っているのだろうか?
ある時期、彼女は部屋に入り、彼がその部屋のどこにいるかが分かった。
今や、彼女は何も探査することはできなかった。

 ヴァイキングの小屋は89%藁製で、ぶかぶかの帽子をかぶった小人の様だった。
チュニックを着、編み上げブーツを履いた青年が両手で丸太を運んでいた。
彼はヨハンナを不満そうに見、彼女は彼が彼の母親に対して怒っている事を理解した、彼女が何処にいようと、どの国にいようと、それだからこそかれは全ての母親たちに対して怒っているのだと理解した。

 レオもだった。
彼は屋根のない小さな建物を指さして、陰気に、「これは古い鍛冶屋だと思う。」と言った。

そこには古い鍛冶屋らしさは何もなかった。
ヨハンナは彼女の心臓が体で絶え間なく脈打っているのしか感じられないくせに、まるで彼女が鍛冶に興味を持っているかのように、自分の両手をお尻に当てた。
彼女は、彼女とレオがお互いに許し合えるだろうと分かった。
彼女は誰にでも許しを請うのは彼女の義務だと思っていたが、ちょうどその時彼女は彼女よりも大きな感情の男たちにうんざりしていた。
彼女はまるで自分がそんな感情の釜の中で育ち、決して抜け出せないように感じていた。

 「いいよ。次は何?」
「薬師の女の小屋。」

 女薬師の小屋の中には、60歳ぐらいの目を細めたきつい顔つきの女性が低い長椅子に座って、箸で焚き火を掻きまわしていた。

 「ヘジ、」と女性が言った。
これはデンマーク人が、こんにちわ、という時の気取った言い方だったし、ヨハンナはその言葉を言い返すときは、自分が数秒間の間デンマーク人として通用するかどうか、いつもどきどき感じていた。
アメリカ人とばれるのと、嘘をついているままなのがいいか、どっちだろう?
それは、焚き火と前後のドアから差し込む陽の光に照らされた、大きな空間だった。
焚き火は藁ぶきの天井の真下にあったあ。
:ヴァイキングの防火方法だ。
「ご挨拶なさい、」とヨハンナはレオに言った。

 バカげた命令だ。
彼は挨拶しなかった。

 薬師の女は彼女の前の長い背の低いベンチを指示した。
その女性は、石器時代のような声で、「いらっしゃい。どこに滞在しているの?」と、英語で聞いた。

 彼らも古代人のつもりなんだろうか?
 レオはそれを感じようとしてみた。
デンマークに来る前は、彼は自分がどれほど古代人になりたいと思っていたのか気が付いたことはなかった。
デンマーク人である事にも。
今、そうである事には・・・、さもなければ理由があるはずだと。

 彼の母親は「昨晩、スヴェンボリの近くよ。」と、言った。
 薬師の女は、その知恵を認めるかのように頷いた。
「そこは美しい所ね。」
彼女は自分の杖を持ち出して、その端を調べ、元に戻した。
「あなた方はロングランドに住んでいましたか。
あなたがたは「大きな島」と呼ぶんでしょ?」
 「いいえ。」
 彼女はもう一度うなづいた。
「そうに違いないわ。」
 彼女は女薬師だった。
:彼女が言う言葉の全てに治療と呪いの感情が含まれていた。
そうなのだ。
:彼らは大きな島に行くだろう。
それは見えないのだった。

 大きな島の上で、ヨハンナは大きな間違いを忘れるかもしれない。
;大きな島で、彼女の父親の遺灰ではないにしても、彼らは彼らの記憶を、ばらまくつもりだったのかもしれない。
彼らは父親の遺灰は持ってきていなかった。
そこにはあまりにも多くの物があった。

 「そこには素晴らしい冷戦博物館があります、」と薬師の女が言った。

 ヴァイキングの国の中の、冷戦とは何だったのか?
 「潜水艦を持っています、」と、薬師の女がレオに言った。
「それはヨーロッパでもっとも大きなものだと私は信じていますよ。
私は息子を連れて行きました。近くにミニゴルフコースもありますよ。
もしあなた方がここに来なければ休日としては良い場所です。
何時か休日にここに来てみたいと思いませんか?
それが私たちがやっている事です。
私たちはその服を着て、プッ!私たちはヴァイキングです。」

 「そうですね!」と、レオが言った。
「ということは、あなたはここに泊まっているってこと?
ここで寝ているの?」

 「勿論よ!」
彼女は小屋の隅に向いて、毛布の塊に向かって一言二言、言った。
多分それは太古のまじないだった。
何も起こらなかった。
彼女はそれをもう一度言った。
それ等には音節に沿って語源の同じ単語は一つもなかった。

 毛布の塊が動いた。
動物だろうか?
いや。毛布がひとりでに組み合わさって人影になった。
 影は現実の人間になり、起き上がった。
 現実の男はアクセルだった。
 彼は11歳、年をとっていてより痩せていた、そして彼は今はヴァイキングなのにもかかわらず髯をそっていた。
彼は何時も目を細めていた;彼らは荷物鞄を手に入れていた。
彼は顎の全筋肉を使って、クマのように欠伸をした。
;つまり、彼は、ヨハンナと大学作品の「本物の西武」を一緒にやっていた時にヨハンナが恋に落ちた外国人が、ずっと昔の恋人の様に欠伸をした。
ヨハンナはプロップミストレス(プロダクションに関わるすべてのプロパティー部門を統括する女性)で、27台の使い物になるトースターをガレージセールやグッドウィル(リサイクルショップ)で買い集めていた。
アクセルはディレクターをやっていて、これらのトースター全部を、たった一回の俳優への熱のこもった演説の間に、テーブルから叩き落としながら、「俺はお前らに演技をしてほしくはない、反応してほしいんだ、熱中してほしいんだ。」と宣言しながら、壊してしまったのだった。

 女薬師は「アクセルのお母さんが私たちにあなたがその子を連れてここに来ているって言ったの。」

 ヨハンナは頷いた。
彼女は彼らが何千年記の中にいる事になっているのかまだ分からなかった。
「ここでメールを受け取ったってわけ?」

 「アクセルのお母さんがメールを打ってくれたのよ。」
女薬師は親指でメールを打つ真似をした。

 「ヨハンナ、」と、アクセルが言った。
あの不要な、hを愛おしいと思わせるような言い方で。

 彼女はどれほどたくさんの時間、その画面の中へ入っていたのだろうか?
大学、20代半ば、石器時代、前世紀の転換期。
彼女は、彼が彼女を識別できないことを心配していたが、ちゃんと見分けがつき彼女をいとしいと思っていた。

 「君はここで何をしているんだ?」と、彼が真剣な声で聞いた。

 それは良い質問だった。
彼は彼女の父親の様ではなかった。
その事が彼女をここに連れてきた理由かもしれなかった。
;腕時計は郵送することもできた。
;レゴランドは何処にでもあった。
しかし彼女が正に失ってしまった男のような男は一体どこにいただろうか?

 彼女の実際の心臓は、彼女の比喩的な心が隠れていた場所の後ろのドアを見つけ、心臓は心をそこにじっとしているベッドから引きずり出したのだった。
数年前、彼女は正に選ばれた愛、が何だったのだろうかと思った。
彼らが一緒に暮らしたその全ての10年は緊急事態だったのだろうか?
その建物が燃えているわけでもなく、その船が沈みそうになっているわけでもなく、ハリケーンが沿岸まで近づいて、ヤシの木が倒れそうになっているわけでもないのだ。
知識と言えば:最悪の事が起きたとしても、彼女には逃げ出す計画もなく、安全対策の一つもなく;彼女は燃えやすく、沈みやすく、ガタガタで、地図からはじき出されがちだった。
彼女はその時もそう考えていたのだが、その感情は愛で、そして今でもそうだと思っているのだった。

 「私の父が死んだの、」と、彼女が言った。
 「ああ、ウォルター、」と、アクセルが言い、悲しげに顎をこすった。
「それはお気の毒に、最近の事?」

 「一年前よ。
あなたに渡したいものがあるの。
私たちは決めたの ― これはレオよ ― 私たちはこれがそれをあなたに渡すためにデンマークに来る、いい機会だと決めたの。」

 「こんにちは、レオ、」と、アクセルが言った、彼は半分夢の国いるように見えていたが、たまたま古代のデンマーク人、昔のガールフレンド、13歳未満のアメリカ人の少年が一緒にそこに住んでいたのだった。
「お会いできてとてもうれしいです。」

「あなたは私のお母さんを知っているの?」
「私が言っていた例の友達よ。」
そしてアクセルに向かって、 「私はあなたのお母さんとフェイスブックを通じて連絡を取ったけど、あなたにはもう連絡を取れないと思ったの。」

 「僕はとても気になっていたんだ、」と、彼が言った。
「君が単に僕のアドレスを知らなかっただけさ。」
彼は又、レオの方を向いて女薬師の背中を肘で突いた。
「こちらヨハンナ、」と彼はヨハンナの事を言った。
「こちらはフローラ、」と、彼は女薬師の事を紹介した。
「散歩に行かないかヨハンナ?ほんのちょっとだけ。」

 女薬師はレオの方を振り向いた。
「ゲームはしたくない?私の息子がやっているわ。
いらっしゃい、彼が教えてくれるわ。」
彼女は立ち上がって前のドアを通って案内し、ヨハンナとアクセルは後ろから出て行き、火は煙を出していて、火災の危険があったが、ヴァイキングは自分たちがやっている事については分かっていたに違いない。

 「僕はよく君の事を考えていたよ、ヨハンナ、」と、アクセルが言った。
彼は陽の光の中で素晴らしかった、彼の色はそれほど良くはなかったが、彼は美しく、美男子だった。
彼の服は煙の臭いがした。
彼は娯楽としてのヴァイキングである事以上の犠牲者であるように見えた。

 「あなたは休暇中なのね、」と、彼女が言った。
「あなたはプロのヴァイキングになっちゃったのかと思ったわ。」

 「いや、違うよ。僕はソフトの開発者だよ。
フローラ、彼女は足の治療の専門家だ。 君は?」
 「帳簿係よ。」
 彼は頷いた。
「君は何時も帳簿を付けていたね。君が僕に持ってきたものについて話をしよう。」

 彼女は財布から時計を出す瞬間、その重さになつかしさを覚えた。
彼女はジップロックの袋を開け、突然時計は呼吸するものだろうかと心配になった。

 「ああ!」と、アクセルは穏やかに言った。
彼は時計を受け取ってベルトに付けているポーチの中に入れた、まるで現代的なものの印が恥ででもあるかのように。
「ウォルターは僕がこの時計にあこがれているのを知っていたんだ。
そのことが君が僕に渡したいって言う事なのかい?」
「それは私のお父さんがそうしたかったことなの。」
「これだけよ。」

彼は歩きだし、彼女はついて行った、彼女のずっと昔の恋人、彼女の失恋の相手、もし沼に|縁<ふち>があるとすれば、犠牲の沼の縁まで。
「だけど、男の子じゃなかった。」と、アクセルが言った。
 「男の子じゃなかったですって、何?」
 「彼は僕の息子じゃないよ。」
 「何ですって?いいえ!彼は10歳よ。」
 「ああ!」と、アクセルが言った。
「僕の母が、君が少年と一緒に来るって言ったんだ、そしてフローラはもしかしたらそうだと思ったんだ。
彼女はこんな事には鋭い感覚を持っているんだ。」

 彼女は彼の顔に古い感情を見た、失望が苦痛に変わっていくのを。
「あなたは何と思っていたの?」

 彼は沼の方に振り向いた。
「僕は気に入ったのかもしれない。フローラには息子がいたんだ。
それは僕を救ったのかもしれない。

 「あなたを救った、ですって? ヴァイキングのあなたを、それともあなたのあなたを?」

 沼は何も言わなかった。
アクセルが「僕は誰でも愛すことができるんだ、」と言い、彼女の手を取った。
これは彼が彼女に触れた第一回目だった。
ちょっと前に彼女はそれがその呪文の最終段階になるだろうと考えていた、魔法の言葉、その魔法の杖を振って。
だがそれはそうではなかった。

 私は嘘をつくことができる、と、彼女は思った。
彼女は今までに一度も嘘をついたことはなかった、こんな風には、見破らなければならない嘘を、でっちあげに至る第一段階の、事実とデータと数字がでっちあげられるような、まるで違う人生の。
レオはアクセルが原因で存在していた。
彼はそれ以外ではありえないだろう。

 しかしその後アクセルはまるで冗談を言っていたかのように彼女の手を下した。
「女は運がいいよ。神は彼女たちの愚かさに終止符をお打ちになる。
しかし男たちは、自分たちの終わりの日まで悩み続ける。」

 彼女はできるだけの多くの愛をこめて、「くたばれ。」と言った。

 「分かったよ、ヨハンナ。」
 「何故いなくなったの?」
 「僕はそうしたくなかった ― 」
と言ってそこで彼は話すのを止めた。
バイキング村が彼らの周りにあった、空気中の煙、何千年そこにいたのかもわからない羊たちのメーメーいう鳴き声。
それとも、それらはヤギだったのかもしれない。
彼女は何時もそれ等の区別がつかなかったのだった。

 「あなたは何が嫌だったの?」と、彼女は彼に聞いた。
 彼は首を横に振った。
「大騒ぎだよ。」
 「何てことなの。その時計、返してちょうだい。」
 「僕たちは結婚していたかもしれない、」と、彼が言った。
「でも、最初にそうすべきだったような気がする。」
「その時計を渡して。私はそれを沼にいけにえにささげるわ。」
「それはとても価値があるものだ。」
「じゃあ、レオが持っているべきだ。僕の息子の。
僕たちは鉄道博物館で4時間を過ごした。
僕は自分が何を考えていたのか分からない、君に任せたんだ。」

 彼は時計をポーチから取り出し、あたかもそれを自分で沼地の方に投げようとするかのように、手の中で重さをはかった。
その代わりに、彼はそのネジを巻き ― 後で、レオが古い時計に興味を持つようになったとき、これがあなたができる限りの最悪なことであるということを発見したのだったが ― それを示した。
最初、彼はその美しい陶器の表面、その上品な黒い数字、を見せるように前面を開いた。
「動いている、」と、彼は言った。
その後彼はそれをひっくり返して後ろを開けた。
そこには、彼の掌の中には、小さな動いている情景があった。:髪粉をつけたかつらを被った男と牛の乳しぼりをする服装をした女が、彼女は脚を広げて、彼はズボンを下ろして、彼の先端が赤いピンク色のエナメルのペニスは彼女の股間で、ピンク色に白く、赤く、チクタクチクタクと動いていた。
昔それに興奮したことはばかげていた。
彼女は興奮していた。

 「昔のウォルター、」 と、アクセルが言った。
「それから彼はしばらく生きたんだ。
彼は自分自身の面倒を見るようになったのかい?」

 「いいえ、彼はどんどん悪くなっていったの。彼は80歳だったわ。」
 「彼は決してそうなりたくはなかった・・・」と、アクセルが同情するような声で言った。

「私もそれは分かっていたわ。」

 彼は時計を差し出した。
「4年も経てば、多分君の男の子が興味を持つだろう。」

 いいえ、違うわ。 
:それはだめになってしまったのよ。
そのチクタク音を立てている一物のためにではなく、別の誰かの個人的なジョークだったからなの、その上着を着てカーラーを付けた、マンガの妻はのし棒を振り回しながらも受け入れようとしたの。
漫画の妻でさえ彼女の下劣な夫を愛していたかもしれないわ。
彼女は愛していたのだった。

 「彼は理由があって、あなたにそれを持っていてほしかったのよ。」

フローラの息子とレオは鉄の輪っかを回しながら丘を下るヴァイキングの遊びをしていた。
フローラの息子は緑色の目をして|甘草≪リコリス≫の香りのする息をしていて、不愛想で器量が良く、パントマイムが下手だったので、両手をレオの両手の上に置き、輪っかを倒れないように押すやり方をやって見せ、その後レオが理解できたか知るために彼の目を見た。
レオはある種の妨げられた親密さと共に、大人の愛の前触れとしてそれを理解した。

 僕はデンマーク語を勉強しようと思う、と、レオは考えた。
僕は絶対デンマーク語は勉強する気はない。

 彼が輪っかを前に進めようとして振り向くと、そこには彼の母親が丘を登って来ていた。
彼女を10分間この少年と共に驚かせたままにしておこう、石器時代のもう10分間、― 石器時代には分という概念は存在しなかった ― この少年が彼の手首の後ろで鼻をひっかき、それから彼のヴァイキングの指でレオの手首に触れるもう10分間。
彼女をそこに留めて置こう。

 いや、勿論違う。
その歩みは彼に彼らが出発する事を告げていた。

 彼は彼女がいなくなることを望んでいたのだろうか?
只、彼は彼女が単に後で帰ってくることを望んでいただけだとしても。

 そして、彼女、ヨハンナは彼女の愛するレオがいなくなるのを望んでいたのだろうか?
只、彼女も彼の記憶が無くなることを望むことができたとしても。
彼を永遠に求める事は恐ろしいことになるだろう。

 「また後でね、」と、ヴァイキングの少年はずっと英語で話し、輪っかを集めるために走って行った。

              <おわり>

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