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春の心臓 THE HEART OF THE SPRING ウィリアム・バトラー・イエーツ William Butler Yeats 芥川龍之介訳に変えて

“The Heart Of The Spring” by William Butler Yeats 
https://americanliterature.com/author/william-butler-yeats/short-story/the-heart-of-the-spring
https://www.aozora.gr.jp/cards/001085/files/44_15231.html

鳥の脚の様に皴だらけの顔の老人がギル湖の最も広い部分が広がるハシバミの木に囲まれた岩だらけの浜辺で瞑想して座っていた。
17歳の小豆色の顔色の少年が彼の横に座り、静かな水面でツバメがハエを取っているのを見つめていた。
老人はすり切れた青いビロードの服を着ており、少年は厚いフリースのコートを着、青い帽子をかぶっていて、首に青い数珠を付けていた。
二人の後ろには半分木に隠れるように修道院があった。
それはずっと昔、女王派の不謹慎な男たちによって焼け落ちてしまっていたが、老人が最後の日々での避難所を見つけるかもしれないと、その少年によって新しく屋根が葺かれていたのだった。
しかし彼はその周りの庭には鍬を入れなかったので、僧侶たちのユリと薔薇が狭いシダのある所に入り込み、混じる所まで広がっていた。
ユリと薔薇の向こうはシダが、子供がそこを歩いて、つま先立ちで立っても隠れてしまうくらい深くなっていて、シダの向こうはたくさんのハシバミと小さな樫の木が生えていた。

「お師匠様、」と、少年が言った、「この長い断食と、夕方からの、生命を付与する杖によって水の中やハシバミと樫の森に住む者を招き寄せようという苦行は、あなたの力には過ぎる事です。
少しこの苦行をお休みください、というのもあなたの手は私の肩の上で重くなっていますし、今日は、脚は私がいつも知っているよりずっとフラフラになっています。
あなたは鷲よりもお年を召していると人々は言いますが、年相応の休息を求めようとはなさいません。」
彼はその瞬間、まるで彼の心がその言葉と考えに取りつかれているように熱心に衝動的に、語った。
;そして、老人は、彼の心が遠く離れた日々に、ずっと昔の行為の中にあるかのように、ゆっくりと慎重に答えた。

「私が何故今まで休息をとらなかったかを話そう、」と、彼が言った。
「おまえが知るべきだと言う事は当然だ、というのは、おまえはここ5年間以上、私に忠実に、愛情さえ持って、いつも賢者に降りかかる孤独の運命を少しでも取り除こうとして、仕えてくれた。
私の苦行が終わり、私の望む勝利が手に入ろうとしている今こそ、おまえはこのことを知ることが必要なのだ。」
「お師匠様、私があなたを疑っているとはお思いにならないでください。
火を絶やさないのも、雨が振り込まないように屋根をしっかりと強く葺くのも、風が木々の間から吹き込まないようにするのも私の務めなんです。
又、重い本を棚から持ってきて、|妖精≪シデ≫の名前の書かれた大きな絵巻物をその隅から持ち上げて、少しの時間にしても面白みのない敬虔な心を抱くのも、私の為なのです、というのも私は神が神の豊饒さ故、生きている全ての物に、別々の知恵をお作りになったと言う事を私は充分知っているからなのです、そしてこれらの事を行うのは私の分別なのですから。」

「お前は恐れている、」と、老人は言い、彼の眼は一瞬怒りに輝いた。
「夜、時々、」と、少年が言った、「あなたが生命を付与する杖を持って読書をなさっている時、私が外を見ると、今や灰色の大きな男がハシバミの木の間に豚を追っているを見、赤い帽子をかぶった多くの小人たちが湖から出てきて白い小さな乳牛を追っているのを見ます。
私はその灰色の男ほどはこれらの小人たちを恐れはしません:
というのは、彼らは家の近くに来ると牛の乳を搾り、その泡の立ったミルクを飲み、踊り始めるからです;
それに私は踊りを愛する心には善があることを知っています;
しかし私はそれらすべての事を恐れています。
そして私は背の高い、白い腕の女性が空中から出現し、薔薇、百合の花をかぶり、あちこちゆっくり動き回り、生き生きした髪を振るのが恐ろしいのです、というのは、私は彼らがお互いに、彼らの考えとともに集まり、広がり彼らの頭近くに集まり、話をするのを聞いたことがあるからです。
彼女たちは温和で美しい顔をしていますが、フォービスの子エンガスよ、私はこれらすべての存在を恐れているのです、私はシデの人々を恐れ、私たちのまわりに彼らを描き出すその技を恐れているのです。」

「何故だ、」と、老人が言った、「お前は、お前の父親の父親たちの槍を、戦場で強靭なものにした太古の神々を、夜湖の底からやって来てコオロギとともに暖炉の前で歌う小人たちを恐れるのか?
そして我々の邪悪な日にも地球のすばらしさを見守っているのだ。
しかし、私はなぜ私が他人が年齢の眠りに沈み込んでいる時に、断食をし苦行をしてきたのかをお前に告げなければならない、そうしないと、お前の助けがなければ、わたしのもう一度の断食と苦行は旨く行かないだろうからだ。
お前が私のために最後の事を行った時、お前は去り、小屋を建て、畑を耕し少女を妻に娶り、古の神々を忘れてもよい。
私は彼らの邪悪な目から、魔女たちの愛を織りなす魔法から、隠すすことで、伯爵と騎士と郷士が私にくれた、全ての金と銀の塊を保管し、伯爵と騎士と郷士の妻たちが、|妖精≪シデ≫の民の家畜の乳を干からびさせ、彼らのバターを作る桶からバターを盗んだりしないように守ったんだ。
私はそれらをすべて、私の仕事に終わりが来るまでためて置いて、終わりが目の前になった今、お前は、お前の小屋の屋根木を丈夫にし、地下室を維持し、食糧庫を一杯にするするのに十分な金と銀の塊を欠くことはない。
私は私の全人生を通し生命の秘密を探し続けてきた。
私は若いころは幸せではなかった、というのは私はそれが過ぎ去るものだと分かっていたからだ;
男盛りの時も幸せではなかった、というのは私は時は過ぎ去るものだと知っていたからだ。
;だから私は私自身を、若い時も男盛りの時も、年をとってからも、その偉大な秘密を探すことに身をささげたのだ。
私はその個体が、数世紀の間満たされることを希求し、80年の冬の人生を軽蔑した。
わたしは、多分、いや必ず大地の古の神々のようになるのだ。
私は若いころスペインの修道院でヘブライ語の手稿で、太陽が不滅の力の歌で震える獅子を通り過ぎる前に、雄羊に重なった時、何人もこの瞬間を見つけ、その歌を聴く者は不死の力そのものになる、と言う事を読んだ。
;私はアイルランドに帰って、妖精や牛の医者に、それが何時なのか知っているかどうかを訊ねた。
;しかし、全員が手稿に書かれている事ついては知っていたが、それが砂時計の時間で言えば、どの瞬間なのかは見出すことはできていなかった。
だから私は魔法に身を委ね、私の人生を神と妖精を私の側に連れて来る断食と修行に費やした。
;そして今、ついに、妖精の一人が私にその瞬間は手の内にあると告げた。
赤い帽子をかぶり新しい牛乳の泡で口を白くした妖精が、その事を私に耳打ちしたのだ。
明日、夜明け後の一時間少し近く前、私はその瞬間を見るだろう、そしてその後、私は南の国に去って行き、オレンジの木に囲まれた自分自身の白い大理石の宮殿を立てるだろう、そして私の周りに勇敢で美しい人々を集め、私の永遠の若さの王国に入るのだ。
しかし、私は、口に新しいミルクの泡を付けたその小人から、おまえは多量の緑の枝を持ってきて、部屋のドアや窓の周りに積み上げて、床に新鮮な緑の|藺草≪いぐさ≫を置き、テーブルと藺草を修道士の薔薇と百合で飾らなければならないと言われた。
お前はこれを今夜やらなければならない、そして夜明け後の最初の一時間の最後にやって来て私を見つけ出さなければならない。」
「あなたはその時全く若くなっているのですか?」と、少年が聞いた。

「私はその時、お前同様に若くなっているだろう、しかし今はまだ老人である私は、疲れていて、お前は私を椅子と本の所に手助けして連れて行ってくれなければならぬ。」

少年がフォービスのアンガスの息子を部屋に残し、ランプを灯したが、魔法使いの技によって奇妙な花の香りがした、彼は森に入りハシバミの木から緑色の枝を、小さな岩々がなだらかに砂と粘土に入れ替わる島の西の境界から藺草の束を切り取った。
彼がその目的のために、充分な量、刈り取ったのは日暮れ前で、最後の束を運び終わって、薔薇と百合を取りに帰ってきたのはほとんど真夜中だった。
その日は、全ての物が宝石によって彫刻されたように思える時で、暖かい美しい夜の一夜だった。
南側にあるスルースウッド島は緑色の宝石ベリルから切り出されたように見え、それを映す水面は淡いオパールのように輝いていた。
彼が集めていた薔薇はルビーのように輝き、百合は真珠の輝きを発していた。
その微かな炎は影の中でずっと燃え、あちらこちらと動き回り、生きているように思える、死すべき希望として滅亡すると思えるもの以外は、全ての事がそれ自体が何か消滅することのないものと言う事を受け入れていた。
少年はその真珠とルビーの輝く暖かさを放っている、一抱えの薔薇と百合を集め、老人がまどろんでいる部屋の中に運び込んだ。
彼は腕いっぱいの薔薇と百合を何度も床とテーブルの上に並べ、そっとドアを閉め、自分の藺草のベッドに身を投げ、彼の選ばれた妻と共にあり、子供たちの笑い声が聞こえる平和な男の夢を見たのだった。
夜明けに彼は目を覚まし、砂時計を持って、湖の端へ降りて行った。
彼は彼の師が旅立ちに際し食べ物に事欠かないように、パンとワインを一瓶、ボートに積み、そして夜明けが過ぎ去る時間まで座って待った。
徐々に鳥たちが歌い始め、最後の砂時計の砂が落ち切った時、全ての事が、突然、音楽であふれるように思えた。
一年で最も美しい生き生きした瞬間だった;春の心臓の鼓動さえ聞こえたかもしれない。
彼は立ち上がって、師を見つけるために歩いて行った。
緑の枝がドアを覆っていて、彼はそれを取り除き道を作らなければならなかった。
彼が部屋に入った時、陽の光が床や壁やテーブルに円を描いて差し込み、全てが柔らかい緑色の影に満たされていた。
しかし、老人は両腕にたくさんの薔薇と百合を抱えて、頭を胸に沈め、座っていた。
彼の左側のテーブルの上には、彼の旅のために、金銀のいっぱい詰まった革の財布があり、右手には長い杖があった。
少年が彼に触れたが、彼は動かなかった。
少年が老人の両手を持ち上げたが全く冷たく、重く落ちてしまった。
「彼は、彼の毎日を、自分の行いや意図した日々の中に見つけることができたものを、不死の力を探すことに使うことなく、他の人と同じように数珠を数えて祈りの言葉を唱えていれば良かったのだ。
ああ、そうだ、祈りを捧げ、数珠に口づけしたほうがよかったんだ!」と、少年は言った。
彼はボロボロの青いビロードのぼろ布を見、それが花の花粉で覆われている事を知り、若者がそれを見ている間にも、窓に積み重なった枝の間に舞い降りた一羽のツグミが歌いはじめたのだった。

                 完


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