「風」ローレン・グロフ

The Best American Short Stories 2022 (71)
“The Wind" by Lauren Groff (1)   The New Yokerより
母はその夜娘の部屋に忍び込んだ時、明日は単にいつも通りの日よ、そのふりをしてね、と言った。

 だから娘はいつも通りに起き顔を洗い彼女の弟たちのためにトーストを作りミルクを温め、彼らが食べている間に彼らのおもちゃ箱の中の通学鞄を空にして服、歯ブラシ、慰めの為の本を一冊を詰めた。
子供たちは暗い朝を静かに通り抜けて玄関の外で靴を履いた。
犬が冷たい庭の中の犬小屋に尻尾をごつんと当てたが、老犬だったので起きてはこなかった。
子供たちの息がバス停まで歩いて行く間、道に奇妙な存在として後を引いて低く白く漂っていた。

 彼らが郵便箱のところで止まった時、小さい方の弟が小さな声で、彼女は死んでいるの?と、言った。

 年長の方の少年は、シッと言って、「黙って、起きちゃうじゃないか」と言い、3人全員は凍るような暗闇の中、丘に張り付いた、去年の夏に半分だけ取り付けられた緑色の壁板、段ボールが貼られたこわれた前面の窓の付いた家を見た。

 姉は小さな子供の頭を触り、囁くように言った、「いいえ、心配しないで、彼女は生きているわ。
私は彼女が羊に餌をやりに出かけ、その後仕事に出たのを聞いたわ。」
少年は猫のように彼女の手に寄りかかった。

 彼は6歳、彼の兄は9歳、少女は12歳だった。
これらは子供の頃の、私の叔父さんと私のお母さんだった。

 ずっと経ってから、彼女の手足が重すぎて動かせない時、長い間冷蔵庫になかをじっと見つめて、夕食に何を作ればいいのは決められない時に、その時代のこの日の出来事を私に語るのだった。
あるいは、太陽が一つの窓を回って差し込んで来て他の窓から出て行き、彼女が息をすること以外何もすることが無くなって自分のベッドに腰を下ろしている時に。
そして私は彼女の横にじっと座り、まるで彼女の内部の深い根っこをはった何かを引き離すようになやり方で、毎回同じように話をするのだった。

 その日は痛いほどに冷たい日で、風が強くなるはずだったが、今の所風はなく、今にも吹いてきそうな感じだった。
数時間後、年長の少年が、「子供たちはお母さんを見るとからかうよ、お母さんの顔はこんな風にくしゃくしゃだよ」と、言った。

 私のお母さんは自分の目を触ってそこの痛みにビクッとし、それから肩をすくめた。

 彼らは町からとても離れていて、バスは彼らが着くより前に早くから走って来ていたが、町からの道のりは長かった。
ついにバスが、道の端に火の出の様に黄色い姿を現した。
バスが停車するまでには苦痛になるほどの時間がかかった。
私の母の心臓の鼓動が速くなった。
彼女は彼女の弟たちを先に乗せて彼らに前の席に座るように言った。
運転手のパーマー夫人は、体格の良い婦人で教会ではオルガンを弾いていて、彼女が後ろの席のいたずらっ子たちに掛ける彼女の声はソプラノの歌声の様に高音だった。
彼女はバスのドアを閉める時に私の母を見て、歌うような声で、「ミカエル、あそこではあなたは輝いていたわよ。」と、言った。

 バスは止まっていた位置からシューッと言う音を立てて発進した。

 「そうね、」、と、私の母が言った。
「聞いて、あなたの助けが必要なんです。」

 そしてパーマー夫人が彼女の言うことが分かって頷いたので、母はヨーダーの子供たちを乗せる時に三人を下ろしてくれるように急いで頼んだ。
彼らの母がそこで待っているだろうから。
お願いします、と、彼女は静かに言った。

 少年たちは驚いた顔をしていたが、その後恐ろしい程の仕方ないなと言う感情が彼らの胸の中に生じていた。

 パーマーさんが、「ああ、勿論良いわよ」と言い、彼女が道の方に目を向け直す迄にはちょっとした沈黙があった。
「そして、あなたが行方不明になった事も帳面には付けないつもりだから。」
「そうすれば、彼らは2時限目ぐらいまであなたの家に電話することができないでしょう、少しあなたに時間をあげるわね。」
彼女は鏡を覗き込んで少年たちを見て、元気よく彼らに「私はブルーベリーマフィンを持っていたわ。ブルーベリーマフィンが欲しい人?」と、言った。

 「私たちは結構よ、」と私の母が言い、彼女の小さい弟の横に座った、そして彼は彼女の腕に頭を持たれかけた。
原野は灰色に明るくなり、木々のてっぺんがほんのり金色に輝き始めた。
バスが体を左右にゆすって、横揺れをしながら、小さなヨーダ―達に会うために速度を落とす直前に、母は古いダッジの自動車がヘッドライトを消して浅い溝に押し込まれているのを見た。

 彼らが降りる時、「ありがとう、」と、母はパーマーさんに言い、パーマーさんは「お礼はいらないわ、当然のことをしたまでよ。あなたの事を神様にお祈りしておくわ、みんなの事もね;私たちは皆、救いを切望する罪人なのだから。」
その朝目を覚ましてから初めて、私の母は喜んだ、というのは、そのバスの運転手の様な音楽にあふれた人物が確かに神の耳を持っていたからだった。

3人の子供たちはバスが大音響を立てては慣れていく排気ガスの中を走って行った。

 彼らは彼らの母親がハンドルを握っている暖かい車の中に滑り込んだ。
彼女はとても青ざめていたが、彼女の髪は見慣れた小さなふわふわした髪だった。
母は私の祖母が朝とても早く起きて鏡の前で髪を整えるのに費やしたに違いないと言う苦痛について考えると気分が悪くなった。

うまくやったわね、子供たち、と、祖母は力の限りできるだけ上手に言った。
彼女は車の向きを変えた。
子牛が彼らの横に沿って柵の中で数歩駆け、私の年少の方の叔父が笑い、彼の手を車のガラスに押し付けた。

 笑っている場合じゃないぞ、とジョセフ叔父さんが厳かに言った。
彼は異常なほど清潔で、無駄に効率的な生活を送りながら、コミュニティーカレッジで数学を教えながら真面目な男に成長するのであった。

 「彼のことは放っておきなさい、ジョーイ、」と、私の母が言った。
彼女は彼女の母親に低い声で、「可愛そうなラルフィーはあなたが死んじゃったと思ったのよ。」

 「まだ死なないわよ、」と、私の祖母は言った。
「ギリギリのところでね。」
彼女は少年たちに向かって鏡の中で笑おうとした。

 「僕たちは何処に行くの?」と、ラルフィーは言った。
私は何処かに行く事になるとは、私には分からなかった。

 「町にいる私の友達に会いに行くのさ、町の外で電話を見つけたら電話するつもりよ。」と、私の祖母は言った。
彼女は口に煙草をくわえたが、私の母がライターを受け取って彼女の煙草に火をつけるまで自分の震える手でライターをいじっていた。

 彼らは二度とその家を通り過ぎることが無いくらい長い時間車で走って来ていたので、私の母は一秒ごとに自分の心の中が引っ張られるのを感じながら、ダッシュボードにある時計の分針を見つめていた。

 「もっと早く、お母さん、」と、彼女は静かに言い、彼女の母親は、「まず私たちに必要なことは彼の友人に停められることよ。私たちのお給金を受け取らなくっちゃ。」と言った。

 優雅な石の外壁の病院が川沿いの丘の上に迫って来て、私の祖母は病院の後ろに回って大型のごみ箱の横に車を止めた。
「あなたと別れる危険を冒すわけにはいかないわ。」と、彼女が言った。
「あなたの荷物を持って私に付いてきなさい。」
しかし彼女が歩き始めると、彼女は一歩ずつゆっくりとしか歩けなかったので私の母は祖母が母にもたれかかって一緒に早く歩くことができるように、彼女に近寄った。

 彼女たちは食堂のお勝手を通って階段を上がって行った。
緑色のキノコの様な変な格好のヘアネットかぶった男がぬるま湯に付けた皮をむいたジャガイモの入った洗面器を運んでいた。
彼は祖母の顔も見ずに「遅いぞ、ルビー。」と、言った。
しかしその後、子供たちが彼の眼にとまり、彼らの状況を理解し、ジャガイモを下におろし、近づいて、彼の暖かいごつごつした手で私の母の顔に優しく触れた。
「おやおや、彼女もそれを分かっているのか?」、と、言った。
「彼女はまだ子供じゃないか。」

 私の母は自分に泣かないように言った。
;彼女は見知らぬ人が彼女に優しくした時は何時も泣いていたのだった。

 「私たちの間に彼女自身を置いて下さい。彼女は良い子なんです、」と、私の祖母が言った。

 「俺は自分でやつを殺すつもりだ。」と、その男は言った。
「もし君が望むなら俺は彼を絞め殺してやる。そうしろって言ってくれ。」

 「その必要はないわ、」と、私の祖母は言った。
「私たちは出て行くつもりなの。
だけど私は私の小切手を受け取らなくちゃいけないの、ドーギー。
今あるのは4ドルと、ガソリンが半分だけ、もしそれだけで生きて行かなければならないとしたらどうすればいいのか分からないわ。」

「できっこないよ、」と、ドーギーが言った。
小切手は家に送られるのは知っているだろう?
申し込み書にそう書いただろう。
その項にチェックを入れたよね。」

 私の祖母は彼の顔を真っ直ぐ見た、多分それが初めてだっただろう、というのは彼女は小さな声の、臆病な、世間では影の薄い女性だったから。
彼はため息をつき「俺に、何ができるか分からないけど、」と言って、事務所の方に消えて行った。

 病院の食堂のドアから2人の女性が急いで出てきた。
一人はガムを噛んでいる小太りの可愛い十代の女の子で、もう一人は私の祖母の友達の、そばかすのあるずんぐりした不愛想なドリスだった。
彼女は小遣い稼ぎのために、菖蒲やデルフィニウムのような花を生クリームでトッピングした見事なケーキを作っていた。
彼女の様な頑丈な女性がそんなデリケートさを彼女の中に持っているなんて信じがたいことだった。

 「ああ、ルビー、」と、ドリスは言った。
「さらに悪化したようね、自分の顔を見てごらんなさい。」

 「今度は彼の銃を私の口に押し込んだの、」と、私の祖母が言った。
彼女はそれを小声で言う必要は無かった、何故なら子供たちはそこにいて、それを目撃していたからだった。
「私は撃たれると思ったわ。
だけど、そうじゃなかった、彼は何本かの歯を折っただけよ。」
私の祖母は彼女の腫れた血の付いた歯茎を見せるために、慎重に自分の唇を指でめくった。
ドリスが彼女を抱きしめようと足を前に踏み出した時、私の祖母は触られないようにびくっとして遠ざかった、そしてドリスは私の祖母の胃とあばら骨の所に青あざを見つけて、彼女のスカートの縁を掴んで持ち上げて「まあ、大変、」と、言った。

 「上に行って医者に見てもらった方がいいわ」と、会計係は彼女の湿気を帯びたピンク色の口を開けて言った。
「それは酷そうに見えるわ。」

 「時間が無いの、」と、私の祖母は言った。
「ここに来たこと自体がもう既に危険なの。」

 ドリスは黙ってフックから自分のひびが入った革の財布を取って財布の中の全ての現金を私の母の手の上に置いた。
会計係はガムの泡を膨らませ、考え、その後ため息をつき自分自身の財布を引っ張り出し、同じことをした。

 「あなた方に祝福があります様に」、と私の祖母が言った。
その後、震える声で、「ある意味これは私のせいなんです。」と言った。
「私は私たちが羊の毛刈りが終わるまではここにいると思っていたの。
彼が羊の扱いが乱暴なのは知っているでしょ。
私は少しでも羊たちが出血しないようにしたかったのよ。」

 「お母さん?」
私の年少の方の叔父さんが戸口から言った。

 「いけないわ、そんな馬鹿なことを言うものじゃありません、それが正しくないって分かっているでしょ。」と、ドリスが厳しく言った。
「それは彼のせいよ、他のだれのせいでもないわ。」

 「お母さん?」ラルヒィーはもう一度大声で言った。
「彼だ、彼がここにいるよ。」
彼は窓の外を指さした、そこには祖母のダッジの後ろに止めるためやって来ていたクルーザーの機首だけが見えた。

 「伏せて、」と、ドリスが言って、彼らは全員タイルの上に屈みこんだ。
彼らは車のドアがバタンと閉まるのを聞いた。
ドリスは思っていた以上に速く動き、ドアの所に行ってドアの鍵をかけた。
30秒後にドアの取っ手がガチャガチャと言い、その後ドスドスと言う音がして、私の母は彼女の耳の中で血が流れて聞くことができなかった。

 ドリスはポテトの鍋を取り上げて、恐ろしい顔をして窓の所にやって来た。
「あなたは一体何がしたいの?」と、彼女が叫んだ。
「ここで敢えて顔を見せてよ。」

 囁き声があり、その後ドリスがガラス越しに、「ここじゃない、ER(緊急処置室)に見てもらいに行ったわよ。
あなたは彼女に相当なことをしたでしょう。
ほとんど歩けないくらいだったわよ。」
彼女は睨みつけながら、こう不快そうに言った。
その後、彼女は窓の方に引き返して来て部屋の中央のステンレスのテーブルの方に行った、そこでは会計係がドリスの肩越しに窓の外を見ていた。

 彼らはエンジンがかかる音を聞き、ついに会計係が重々しい声で「いいわね、彼は入って来たけど今は車で周りを動き回っているわ。
でも、あなたがERにいないと分かるとカフェテリアを通って台所に入って来るわ、分かるでしょ。そのドアには鍵はないし私たちは彼を止められないわ。」と、言った。

 ドリスは鋭い声でドーギーを呼び、ドーギーが、少し恥ずかしそうに、顔を赤らめて、封筒を持って、急いで事務所から出てきた。
彼はそこに隠れていたのだった、と私の母は理解した。

 「あなたがた皆さんの親切は決して忘れません。」と祖母は言ったが、祖母の手はとても震えていたので私の母が給料を受け取らなければならなかった。

 「着いたら私たちにはがきを送ってね。さあ、行きなさい。」と、ドリスが言った。

 私の祖母は又私の母にもたれかかり、出来るだけ早く車の方へ行った、そして車は発信し、後ろに下がり、川にかかった緑色の橋の所まで降りて行った。
彼らがやっとの思いで病院が見えないところまで来ると、祖母は車を止めて、彼女の側のドアを開けて道に嘔吐した。

 彼女はドアを閉めた。
「大丈夫よ、」と、彼女は言い、指で慎重に口を拭き、又、車を発進させた。

私の母はダッシュボードの上の時計を見た、ちょうど8時を過ぎたところだった。
先生たちは今頃出席を取っている。
すぐに女の子が出席簿を回収して、職員室に持って行く、彼らは正しいことをしているのだろうけれども、そこで誰かが、子供たち3人全員がいなくなってしまった事に気付き、無断欠席をまず家に電話した、そこでは電話が鳴り続けた。
しかしその後、誰も捕まらず、彼らは駅に電話をかけ、直ぐに彼に無線連絡されるだろう。
そして彼は彼の妻だけではなく彼の子供たちも一緒にいなくなったと知るのだった。
彼らには1時間、多分もう少し、あった、と私の母は計算した。
多分、彼の管轄範囲から出るには一時間かかるだろう。
彼女は私の母に、想像上のアクセルを踏みながらこの事を告げた。
祖母は今や裏道を通ってより速く車を走らせていた。
鋭い突風が車を押していた。

 暫くの間彼女たちはそれぞれ別々の考えに浸っていた。
私の母は現金を数えていた。
「123、」彼女は驚いて言った。

 「ドリスの食料品店のお金よ、きっとそうよ、」と、私の祖母が言った。
「彼女に祝福があります様に。」

 ラルフィーが哀しげに言った、「バッチを連れてこられたら良かったのに。」

 「そうだね、お前がそうして欲しかっただけだろう、お前の臭い老犬なんて、」と、ジョーイが言った。

 「僕たちは何時か彼を連れ戻しに帰れるの?」と、ラルフィーが言ったが、祖母は何も言わなかった。

 私の母は彼女の兄弟を見るために後ろを振り返って苦々し気に言った、「私たちは決して帰らないのよ。
彼が中に入ったまま、一緒にすべて燃え落ちてしまえばいいのよ。」

 「おい、」と小さな少年は弱弱しく言った。
「それは良いことじゃないよ、彼は僕のお父さんだ。」

「僕のお父さんでもあるけど、僕は彼がネズミ捕りの毒を食べればいいと思っているよ」と、私の叔父さんのジョセフが言った。
その後彼は前に屈みこんで、床を見て、そして彼の横の席を見て言った、「ああ、何てことだ。ラルフィーおまえのナップサックはどこにあるんだ?」と、言った。

 ラルフィー叔父さんは周りを見回して、最後に、目を丸くして「台所に持って行ったんだけどそれを置いてきちゃったと思う。」と言った。

 この事がみんなを一瞬で襲うのには長い時間がかかった。

 ああ、これはまずいことよ、と私の母が言った。

 「ごめんなさい、」と、ラルフィーが泣きながら言った。
「お母さん、僕、おしっこ。」

 「きっとドリスがそれを隠してくれるわ、」と、私の祖母が言った。

 膀胱を押さえて、ラルフィー。
でも、間に合わなかったら?、と、私のお母さんが言った。
もし祖母が彼が漏らす前にそれを見つけられなかったら?
そして彼は祖母が私たちを連れて行ったことを知っていた。
そして彼は彼らはら目を離さないように無線で呼びかけている。
今にも彼らは私たちを見つけ出せるだろう。

 祖母は、静かに悪態をつき、バックミラーを見た。
彼らは今や田舎道のカーブを猛スピードで走っていた。
後ろの少年たちはドアの取っ手に掴まっていた。

 私の叔父さんのジョーイは小さな古代人の様に自制心のある態度で、「ラルフィー、大丈夫だよ、お前はバッグを置いてくるつもりはなかったんだから」と、言った。

 私の若い方の叔父さんは小さな手を伸ばして、愛情を示すことの嫌いなジョセフはその手を握りしめた。
ラルフィーは私が10代の頃魚釣りで事故に遭って、私の冷淡でドライなジョセフ叔父さんは葬儀の席で泣き崩れ、鼻水を流しながら、グロテスクに苦痛で体を歪めていた。

 「お母さん、私達は州の外に出なきゃいけないわ」、と、私の母が言った。
私達は州境を超えれば安全になるでしょう。

 「シッ、考えなくちゃ、」と、祖母が言った。
彼女の両手はハンドルの上で真っ白になってしまっていた。

 「いや、私たちがやるべきことは車を捨てる事だ、」と、ジョセフ叔父さんは言った、「彼らは車を探しているだろうから。
多分、既にそうしているだろう。
私たちは既に食料品店か何かの様な、たくさんの車が駐車している駐車場を見つけるべきだ。」

 「そしてどうするの?」と、祖母が押さえつけるような声で言った。
「バーモントまで歩く?」
彼女は鋭い声で笑った。

 「いや、その後僕たちはバスに乗るんだ、」と、ジョセフは彼の硬い理性的な声で言った。
「僕たちがバスに乗る、そうすれば彼らは僕達を見つけられないよ。」

「いいわね、」と私の母は言った。
「いいわね、そうね、ジョ-イは正しいわ、それはいい計画ね。いい考えよ。
アルバニーから15分行った所にバス停があるわ。」

 かつて彼女を一度、パトカーでそこに連れて行ってくれたのは彼女の父親だった、というのは彼女の中学校の聖歌隊が競技会のためにニューヨークに行くのにバスに乗るためだった。
彼はイチゴミルクセーキを買うため車を止めた。
これは彼女が彼に対して持っている良い思い出だった。

 「いいわね、」と、私の祖母が言った。
「そうだわ。他には考えられないわ。私はこれが私たちの計画の変更だと思う。」
だけど、前の夜以来初めて彼女の目が潤み、涙が彼女の傷だらけの頬を伝い、彼女はそれに耐えるために車の速度をゆるめなければならなかった。

そしてその後彼女は狂ったように息をして、彼女の額がハンドルにくっつくくらいにうつ伏せになり、車が突然道の真ん中で止まった。
風がその周りでうなり声をあげていた。

 「お母さん、私が運転する必要があるわね。」と、私の母が言った。
私たちは今は運転しなきゃいけないの。
私たちは行く必要があるの。

 「僕はほんとに、本当におしっこしたいんだ、」と、ラルフィーが言った。

 「それは大丈夫よ、大丈夫、大丈夫よ、」と、祖母が囁いた。

「私の体が私の言う事を聞かないだけなのよ。
私は正に今何も動かせないわ。
私は自分の足を動かせないの。ああ、神様。」

 「それは大丈夫、」と、私の母が優しく言った。
「心配しないで。大丈夫よ。落ち着くまで時間は充分あるわ。」

 そしてこの瞬間、私の母は恐ろしいほどはっきりと全ての事が彼女に掛かっている事を理解した。
その知識は彼女の首に重くのしかかり、まるで手が強く押し付けているような感じだった。
そして彼女にやって来たものは彼女が小さい時に、寝室には2人だけしかいず、この人生の中で兄弟はいず、柔らかい親切な月が窓に輝き、彼女の父親はずっと下の階下にいるときに、彼女の母親が暗闇の中で、よく話してくれていたおとぎ話のパンくずの痕跡のことだった。
それで、母はなだめるような口調で「そう、私たちが今からしようとしている事は、お母さんが深呼吸をして、私たちが線路を超えて、アルバニーまで行く事なの、飼料置き場を右に曲がって、大きなレンガ造りの教会の所を通って、その後ろの駐車場に車を止めるの。
そこから駅まで1・2ブロックしかないわ。
私たちはそこで車から降りて、出来るだけ早く歩いてどこ行きでもいいから最初に来たバスに乗ってバスの上で切符を買って、時間があればバスの中で食べる食べ物を何か買えるわ。
そして私たちはバスに乗って、バスは私たちをここから素早く抜け出させるのよ。
行先は何処でも良いわ、だけど、どこかの町には着くでしょう。
そしてその町は私たちが隠れる事ができるくらい大きいわ。
そして、町の中には博物館も公園も映画館も何でもあるの。
そしてお母さんは仕事を得て、私たちは学校に行き、アパートを手に入れて、そこには世話しなければいけないバカな羊はいなくて、安全なの。
もう、寝るための小屋に走り出さなくてもいいの。
町では誰も私たちを傷つける事はないわ、良いわね、兄弟達?
私たちは退屈な生活になり、毎日が同じで、素晴らしい生活になるの。
いいわね?」

 今では私の母は私の祖母の両手をハンドルから離して血の気が戻るようにマッサージしていた。
「良い?私たちがしなければいけない事は、深呼吸する事なの。」

「お母さん、出来るよ。」と、ジョセフが言った。
ラルフィーは両手で自分の顔を覆っていた。
外では草が強い風に舞い、撫ぜ付けられ土の上に絨毯の様にぺちゃんこになっていた。

 その後、私の母は眼を開けて祈り、彼女の両手はダッシュボードに伸び、そして私の祖母はゆっくりと車を後進のギアに入れ、喘ぎながら、進み始めた。

これが私の母が後で話した物語だった、細部に亘るまでまるで人生の中で夢を見ているように:彼女の母親が町の谷間を抜けて運転している間、風が強くポールに付けられた旗がバス乗り場の外でボキッと折れていて、レンギョウが藪の向こうに金色に芽吹き、最後の雪が醜く残り、家々の様子は未だに雪に押しつぶされ、灰色の雲が重くのしかかっていた、彼らはバス停でお尻が凍り付くほど冷たい金属のベンチで待ち、彼らは寒さ以上に震えていた。
バスはうなり声をあげて生き返り、煙の輪を噴き出して彼らを運び出したのだった。
彼女はまるでこの幸せな方の話を信じているかのように話したが、私は彼女の話しの裏にある本当の話を知っている、突然のうめき声と祖母の赤と青の傷のある青ざめた頬、それとオシッコの酸っぱい匂い。
ドアが開くちょっと前に彼女が髪を掴まれて後ろに引き戻された様子、祖母は子供たちの方を振り向いて笑おうとした、彼女の最期の姿を見せようとしたのだった。

 3人の子供たちは生き残った。
その結果彼らは自分たち自身を救った、この場所、この瞬間からずっと離れたところで、人生と愛と格闘し、それぞれに安全な港、仕事、人々、暴力のない家を見つけた。
しかし、私の母の内部にはいつも静かな風が吹いていて、その風は静まったり又吹いたりして、彼女の生涯にわたって吹き続け、この事以後を生きた彼女に折に触れ現れた。
彼女は最善を尽くそうとしたが、彼女は私の中をこの同じ風で満たさないわけにはいかなかったのだった。
それは彼女の血を通じて私に中に沁み込んでいった、私のために彼女が作ってくれた一口一口の食べ物を通じて、彼女が恐怖に心を震わせて私を待って過ごした夜を通じて、門限までに帰るように私に言い聞かせる事で、全ての私を叱ることを通じて、私の言う事や考える事やすることやあるべきことを禁止することを通じて、彼女が世界中の一人の女性としてどのように活動すればいいのかと私の教えたその全ての方法を通じて。
彼女はそれが彼女の中に吹き込んでいることに気づいた最初の人ではなかったし、そしてもちろん私が最後になるつもりもない。
私は周りを見回し、この暗く止むことのない心の奥底で猛威を振るっている風が、歴史を超えて、たくさんの女性のなかに受け継がれてゆくのを見ることができる。

              <おしまい>

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