「探偵犬」任璧蓮

「探偵犬」任璧蓮
From The Best American Short Stories 2022

「政治はだめよ、お金を稼ぐだけにしなさい、」ベティーの母親、ティーナはそう言うのが好きだった。
そして中国の事になると:「見ざる、聞かざる、言わざるよ、私の言うこと分かってる?」

 「私は何にも聞いていないわ、」と、ベティーは時々言いたくなっていたものだ。
いや、そうね、実は何度も。
しかし彼女はその代り何も言わないで、指示された様に、大金を稼いだ。
結局彼女は善い娘だった。

 そして雨傘革命が香港で起こった時、彼女がバンクーバーに快適な場所を持ったのはそんな風なことからだった。
そしてバンクーバーに人種差別が起こった時彼女がニューヨークに移ったのもそんな風なことからだった。
金持ちであることは便利なことだった、と人は言うべきだった。
ニューヨークでは、彼女はアパートを買う必要さえなかった。
彼女と彼女の夫と男の子達は彼女の姉の古い場所に移っただけだった、そこは彼女たちがとても気に入っていて彼女たちのアパートの隣を買って、その後もう一方の側のアパートも買っていたところだった。
彼女たちはその余分の台所を浴室に変更したところだったと説明した。

 「もう一つ買いなさい!」ベティーの父親ジョンソンはアリゾナからオンラインチャットで怒鳴った。
「その階全部を買いなさい!」
ずっと買収大好きだったジョンソンは「世界のゴーストタウン」と呼ばれるリストを作り始めていた。
ベティーの夫、クエンティン、ジョンソンは何時の日かそれらを全部買ってしまうつもりだ、と言った。

 クエンティンは「彼は何時も「中国には人が多すぎる、」と言っていて、かれの怒鳴り声が聞こえるようだよ、」と声に畏敬の念を込めて言った;彼はジョンソンが天才だと思っていた。
「今や自分たちの住んでいるところが気に入らなければどっか別の所に行けるんだ。問題ないよ。」

 ベティーは笑った。
「てことは、ゴーストタウンができるってこと?」

 「たぶんね。」
クエンティンはこの事を真剣に考えているようだった。

 しかし気にすることはない。
「4家族のために3つのアパートは充分だわ、」と、ベティーは今、ジョンソンに笑いながら、しかし真剣に言った。
「私たちはもう買わないわ。」
そして、彼が異論を唱えたとき、彼女は彼の写っている画面を半分に小さくした。

 バンクーバーでは、彼女の隣人は彼女にその事を文句を言っていた。
「中国人たちが乗っ取っているさ、」と、彼らが言っていた。
「中国人は全部買いつくすつもりだ。」
その事は彼らが「お前らは来た場所に帰れ!」と叫んでいなかったとき、ベティーが彼らを説得しようとしていた事だった。
もし彼女がバンクーバーを買ってバンクーバーに住みたくないような種類の中国人なら、彼女がバンクーバーの空の家、空のアパートに責任を持つ種類の中国人なら、彼女は正にそこに立って彼らが叫ぶのを見ていただろう、そうだろう?
所で、そして、彼女は侵入者ではなかった、彼女は彼女の11歳の息子が彼の友達と一緒に抗議をするのに出かけるのを心配する両親だったのだ。
じゃあどうなったかって?
その後、彼は催涙ガスを浴びせられて、そんな風なことだ。
そして、ところで、催涙ガスは2012年の暴動の際に養子にした赤ん坊にとってもそれほど素晴らしいものではなかった。

 しかし、一人の中国人は中国人だと言う事は、彼らにとっても彼女が一人の中国人であることにかわりはなかった。

 「人々が叫びたいとき、彼らが聞くことができる全ての事は、彼らが叫びたいことの内容を聞くことができると言う事だけだ、」と、言うのがティナのお気に入りの言いっぷりだった。

 その事が、5年後ベティーと彼女の家族がバンクーバーからニューヨークに引っ越して来た理由で、そこでは全ての人々が「私たちはあなたが喜んで新しいエレベーターのためにチップを出してくれて幸せです。」とか「ビルに新しい屋根が必要だと知っていたの?」と言っていた。

 「はい、」と、彼女は言った。
「はい、はい、」「他にありますか?」

 今、ロビーの縞模様の椅子のそばにある金色の鏡に映った彼女は、自分自身にとても幸せそうに見えました。
少し太った、それは本当だった;
彼女の顎が彼女の首に近づくのは好きではなかった、まるでそれらが一緒にいる必要があるとでもいうように。
しかし彼女は自分のショートヘヤーと明るいカシミヤのフード付きのパーカーと、彼女の大きめのサングラスを額の上にかけた時の見た目が好きだった ― そうしていると彼女の腫れぼったい目は隠れないのだけど。
香港警察が大学に乱入した時、彼女と彼女の家族はニューヨークのライラック色の皮のカウチに座ってパソコンを見ていただけだった。
美容院の女性たちのように1,2,3,4人並んでいた。
コロナがやって来た時も、彼女たちは病気や死

 勿論、今17歳のテオはいつも心配していた。
彼の香港にいる古い友達はみんなその抗議に巻き込まれていた。;時々彼は画面上で彼の友達を見つけていたが確実に彼らだと言うのは難しかった、というのは彼らは成長していたし、みんなガスマスクをかぶっていたからだ。
実際、彼らが彼の指を頭の上の長い髪に走らせ、横の短い髪を掻きながら彼のやり方でスクリーンショットをとったりズームインさせたりするのは正気の沙汰ではなかった。
「あれはヴィクターか?パクか?あれはパクだと思わない?」と、彼は言った。
それとも、「あれはウイングマンに違いないよ、僕はあの傷に見覚えがある。」

 救急車のサイレンがあれほどずっとなり続けていなかったらテオがあれほどイラついていたかどうかわからない。
たった9歳のロバートでさえ「人工呼吸器(ventilator)」の綴りは「or」が付いている事を知っていた事はベティーにもショックを与えた。
;彼女は彼が「死体安置所(morgue)」の綴りはちゃんと覚えていなかったのは喜ぶべきことだった。
しかし、彼は想像力豊かで強烈だったので、彼は自分の英語の教室でミステリーの単元の時、踊る死体安置所についての話を書いていた。
それは殺人事件のミステリーなんだ、と、彼は彼の静かでやる気のないような言い方で、彼女に言っていた。
彼は他の少年たちとは全く違っていた。
彼が最後に書いた話は、普通の毛皮の帽子のように見えるが人の心が読めるようになる帽子だが、その後、頭皮を通し人から考えを盗んでしまう帽子についてだった。
どんな風にしてそうやるのかがミステリーだった。

 ベティー自身はほとんど物語をすることはなかったが、西洋の創造性が好奇心という土から花を成長させるような本を読んでいたので、少なくともたくさんの質問をするようにしていて、何でもいいから質問するというのではなく正しい質問をできるだけたくさん質問した。
つまり、「一晩中外出していたというのはどういう意味ですか?」というような質問ではなく、テオが興味を示すような質問をしがちだった。
「死体安置所はダンスをやめないの?」みたいな。
遊び心も、― 彼女は自分の本に下線を引いた。
彼女は遊び心を示す質問もしようとした。

 「死体安置室はダンスを止める事は無いの?」と今、聞いた。
 
 「そうだよ、そして彼らがダンスするのを止めた時に全ての人々が外に出て来るんだ、もう一度生き返って、」と、ロバートが言った。
彼はもし自分の髪を自分で刈り始めなければ髪は完全なマッシュルーム・カットになっていただろう。
今は、彼はまるでマーク・ザッカーバーグのような格好に変わりつつあったが、気持ちの方は半分しか変わっていなかった。

 「それで、それからどうなるの?」と、ベティーが訊いた。
彼女は「それで、それからどうなるの?」に頼りすぎる傾向があるとは知っていたがそれ以外に尋ねる事を思いつかなかった。
「彼らは呼吸は大丈夫なの?」

 「大丈夫さ、だけど彼らは少し眩暈がするだろう、」と、彼が言った。

 「面白いわ。」
彼女はもう一言いい過ぎたが、それは良いでしょう。
「それで、その人たちは何を言うの?」

 「彼らは『生き返ってよかった、俺の電話はどうなったんだ?』って言うんだ。」と、彼は言った。
「でも遺体安置所が何て言い返すか分からない。」
彼は舌で鼻に触った;彼は犬のような舌を持っていた。

 「『私物については責任は持てません』って言うのはどうかしら?」と、彼女は、それがどういう意味か彼は分からないだろうと思ったが、言った。
しかしロバートは事実と呼ばれるものを熱心に追いかけ、その意味を知っていた。
彼は舌を引っ込めて、文章を書きながら笑った。 ― 彼は鉛筆で描くのが好きだった。

  「生きているのは素晴らしい、俺の電話はどうなったんだ?」
  「私たちは私物については責任を負っていません。」
  「お前たちは何という死体安置所なんだ?お前らの母親は何も教えなかったのか?」
  「いいえ、私たちは悪の中でも最悪の物たちです。
   ウイルスによって、入れ物の底までかき回してやっとこれだけの人数を集めてきたんです。」

 ベティーは笑った。
「素晴らしいわ!」と、彼女が言った。

 「僕はそのミステリーが何なのかを説明しなきゃいけないんだ。」

 「ミステリーはこのすべてのコロナの狂気がどんな風に起こっているかということね、」と、彼女が言った。

 ロバートの手書きは、彼がアメリカに来て以来、悪化したことがあったが、ベティにその事について文句を言う気力があったにもかかわらず、もはやそうすることはなかった。
遠隔学習!
ロバートの学校は、理論的には8時25分から2時25分まで学校に行っていたが、90分の自習時間と30分の昼食時間と、30分の休み時間があった。
休憩が必要なのは親なのに、なぜ子供たちが休憩を取ったのだろうか?
それに先生たちはどうして彼らがたくさん働くと文句を言えただろうか?
なぜ彼らは子供たちにズームで彼らの顔を見せることさえしなかったのか?
正に今、例えば、テオは三角関数の授業を受けながら同時にコンピュータで「香港の解放」をプレイしていた。
どうしてそんなことが許されるのか?

 テオは「遺体安置所の話しは現実ではないって分かっているよね、」と、ゲームを見ながら言った。
 
 「だから、実際の仮想監視カメラをあたかも実際の抗議でもあるかのように妨害するのも正常ではないんだ、」と、ロバートが言った。

 「ぼくはほんとに実際の抗議者なんだ。」

 「カウチから『ガァーヤウ!』って叫ぶようなね。」

 「もし僕がそこにいるとしたら、僕はその通りにいただろう、」と、テオが言った。

 「コロナの今はできないわね、」

 「今でさえ、僕はそこにいるだろう。
そして物事がもう一度本当に始まったら僕は火炎瓶を投げているよ、心配しないで。」

 「あなたは僕達が本当の兄弟じゃないって言えるね、」と、ロバートが空気を読んで言った。
「僕はそんな暴力的なことは言わないだろうから。」

 「養子の兄弟だって兄弟だよ。」
クエンティンの鼻腔は、彼がまじめなことを言う時には開いた、そして今日もそのことが少年たちの騒ぎを沈めた。
テオが抗議の横断幕のある「動物の森」を始めた時、クエンティンは「君は授業中じゃないの?」とさえ言った。

 テオはふてくされてフルスクリーンに戻した。

しかし、ロバートの言った事は本当だった。
彼は彼の兄の様に暴力的ではなかった。
彼はベティとクエンティンに、香港の友人たちが "抗議トラブル "と呼ぶものから遠く離れた地球の反対側にいることを神に感謝させるようなことは言わなかった。
「この世代は、彼らは爆竹のようなものだ。一つが爆発するとそれに繋がっている全部が爆発するんだ、」と、彼らはウイチャットに投稿している。
そして、「彼らは張子の虎を扱っているんじゃないって気が付いているのだろうか?これは牙を持った本物の虎なんだ。彼らは彼らを殺そうとしている。」
抗議活動に賛同する友人もいた。
:「私は毎日彼らが分けて食べられる食べ物を自分の子供に持たせています。
瓶入りの水も大切ですし、彼らが家に帰ってきたらすぐ服の匂いを取るために洗います。」
しかし他の人々は、彼らにスポーツに興味を持たせておけば良かったと願っていた。
「彼らの健康のために、彼らの大学出願書類のために、すべてのことのために、」と、彼らは書いている。
「しかし、運動能力は必要だ。」

 「あなたは、あなたのおじいさんが何時も言っている事を知っているでしょう?」と、ベティーはテオに言った。
「政治はだめ、お金を稼ぐだけしなさい。それが適切な助言よ。」

 しかし彼女は耳を傾けたが、テオはそうしなかった。
テオは彼女の生物学的な子供だったが、彼の暴力は彼女に彼女の姉を思い起こさせた ― ボビーだ、 彼女は信じられない事に、先週彼らに手紙を出そうとしていた。
もう何年も経っているのに。
ベティーはショックを受け不安になった。
そして、多分心配のために、イライラした。
今時、誰が個人的なファミリーメッセンジャーを通じてではなく本物の手紙を送るだろうか?
ボビーだけが、何故かまるで彼らがスパイ映画の中にいるかのように、アーニー叔父さんを彼の上海の会社を通してリストに入れていたのだろう。
彼女は明らかにアーニー叔父さんに彼の靴の中にその手紙を隠すように指示しさえもしたが彼は結局そうしなかった、;彼は空港の保安係が彼に靴を脱がせるんじゃないかと恐れたのだ。
その代わり、彼はその手紙を破ってトイレの水洗で流した。 ― というのは、彼はそれが問題を起こすと知っていて、後でベティーに言ったのだが、彼はティナとジョンソンを困らせたくなかったからだった。
なぜ彼がベティーにその手紙についてさえ言わなかったのかについては、彼が自分が正直すぎたからだと言っていたが、ベティーは真実を知っていた。
:手紙の中には、彼が隠しきれなかった何かがあった。
彼はそれを破る前にその事を読まなかったと誓っていたが、勿論彼は読んでいたのだった。
彼は読んでいた!
それでボビーは何処にいたの?よ、彼女は聞いた。
彼女の両親はここ数年とても知りたがっていたの、家族全員がよ、と彼女は言った。
アニー叔父さんは自分は知らなかったと言い張った。
手紙といくらかの指示書が簡単な封筒の中に彼のために残されていた、そして、監視カメラには工場に忍び込んだ誰の形跡も見られなかったと彼は言った。

 「どちらにしても、政治はだめ、金もうけだけ。
それがあなたのお母さんが言っている事だろ?」と、彼が話を結んだ。

 別の言い方をすれば、その手紙は政治に関するものだった。
多分、もし彼女がアーニー叔父さんなら、彼女もまたそれを捨ててしまっただろう。

 彼女の母親の言葉がどれ程たくさんの事を意味しているかは驚くべきことだった。
例えば、テオに関しては、その言葉はベティーとクエンティンは地獄に落ちようとしていると言う事だ。

 「それがあなたが生きようとしている人生ですか?」と、彼は叫んだ。
「それがあなたのモットー? お金を稼ぐことだけ?」

「それが意味している事の全ては安全である方法なのよ、」と、ベティーが言った。
「それは『一番高い木が全ての風を受ける』ということなの、それは低い木が良い木だという意味じゃないのよ。
高い木は高く立っているために対価を払わなければならないって言う意味なの」

 彼女はテオが息子が彼女に大声を出して、母親が一週間泣き続けだったことをどう説明すればいいのか分からなかった。
彼女はとにかくロバートがきっと分かっていたと確信していたが、その事を心に秘めたままにしていた。
彼が養子だってことは気にしない事だ ― ロバートは暗闇の中で単なる信号でしかないような光の瞬きの様に、素早く彼女に目線を投げかけただけだった。
彼は、テオが理解していた事の全てが彼の家族に関する提案だったが、彼女を理解していた。

 例えば、「僕は君が嫌いだ、」と、彼は言うだろう。
「僕は君の価値観が、君の生き方が嫌いだ、それに僕は君の事を尊敬できない。
何が起ころうと、違う見方をして、何を今までやってきたのですか?
本当のことを言った事がありますか?
声をあげたことがありますか?
誰が殺されたり監獄に入れられたりしたとしても?
あなたは世界があなたのような人々で出来ているって分かっていますか?
その言葉は『共犯者』ということです。
私はあなたがウイグル人についても気にかけていないって私は誓って言えますよ。」

 そして彼は ― まるでコロナのためにメイドとコックがいなくなるかもしれない時にベティーが言ったときに始めて不満をぶちまけた様に、 ― 何度も何度も不満をぶちまけた。
ニューヨークにはとても良いテイクアウトがあり、彼女が自分で料理を多少は作れるにもかかわらず彼は反対した。
そしてテオは毎日、以前話し合っていた大学よりもはるかに遠い大学を持ち出してきました。
アラスカにある大学とか。スコットランドとか。ニュージーランドとか。
彼は秋までは応募していませんでしたが、未だにずっとその可能性について議論しました。

 クエンティンは「南極の学期どうだろう?」と、夕食のときに提案した。
「南極には海外学期があるはずだ。」

 ベティーは睨みつけたが、クエンティンはウインクしただけで話を続けた。

 「君はペンギンを学ぶことができるよ、」と、彼は言い、彼のスマホにある記事をテオに見せた。
「彼らは研究者たちが気が狂う程の笑気ガスのおならをするって知ってた?」

 「そうなの?」と、ロバートが言った。
「僕にも見せて、それってクールだね。」

しかしテオは彼がレシピを見つけ彼女に作ってみてくれるように頼んだ、彼のために特別に作ったオレオ・ムースケーキを一口も食べず立ち上がった。

 結局彼らはアパートをもう一部屋買うべきなのか?
家族の健康の為に?
クインティンとベティーはそれを話し合った。
しかし彼らがそうだと決定したちょうどその時、テオはもっと空間、もっと独立、が必要になった、もっと何か、オンラインのポーカーのコツをつかみ始めていた。
ベティーは彼女の友達のスースーからオンラインポーカーの事は聞いたことがあった、スースーの息子はそれをやって大金を稼いだのだった。
スースーはそんなことで動揺するとは思えないだろうが、動揺した。
というのは彼女の息子が大金を稼いでしまったので彼女は彼を制御できなくなってしまったからだった、彼女は、彼がドラッグをやらなきゃいいと願っていた、と言った。
その事を聞いてベティーは同情に首を振ったし、後で、その話をクエンティンにして、テオが数学が得意じゃなくてよかったわ、と言った。

 「計算が速いってことが100万ドルを意味する事も有るにしてもだね、」と、クエンティンは指摘した。

 「それでも、かわいそうなスースー」と、彼女が言った。

 「かわいそうなスースーというのは正しいね、」と、クエンティンが同意した。

 しかし、今やテオは彼らが思ったよりも数学が得意だった。

 「僕は自分自身を過小評価していたよ」と、彼は言った。
「僕はもっと努力すべきだったと思うんだ。」
そして、「僕に必要なことはそれにもっとたくさんの時間を使う事だったんだ。」

 彼は今、時間を持っていた、コロナに感謝。

 彼が100ドル稼ぐことを励ますべきか心配するべきかを知るのは難しい。
その後、彼は100ドル稼いだ。
その後500ドル失った。

 「有難いことに彼は教訓を得たんだ、」と、クエンティンは言った。
「少なくともマカオでは、ギャンブルをやるにはホテルの部屋を予約しなければならない。
コンピュータ上では諸経費無しでかけ事ができる。」

 「恐ろしいことよ、」と、ベティーが言った。

 それでテオは5000ドル稼いだのだった。
その後、1万ドル稼いだ。
その後、もう1万ドル稼いだ。

 「ビギナーズラックだよ、」と、彼は謙遜して言った。
そして彼は自分が稼いだ全額を賭けですってしまわないように車を買った。

 「車ですって?」と、ベティーは言った。
「どうやって車を買うのよ?」

 「現金でさ、どうやってって、そうやってさ、」と、テオが答えないでいると、ロバートが言った。
 
 彼は小さな赤いマツダロードスターを選び、それは燃費が良いと彼は言っていて、スースーもそれは良い取引ね、本物のコロナとの取引ね、と言っていた、と言うのも彼女は彼女の息子が契約書の連帯保証人に署名していて(彼は成人していたので保証人になれた)、テオがコロナの前に免許を取っていたので、郊外にいる友達を訪問できるのでそれは良いと考えていた。

 「少なくともそれは麻薬じゃないわ、」と、スースーは言った。

 ベティーとクエンティンはテオが怒っている方がいいのか金持ちの方がいいのかについては、意見の一致を見る事はなかった。

 「それはまるで彼の心が隠れているようだわ。
誰も見えない毛布の下に消えてしまったのよ、」と、ベティーは言って、さらに「彼は単に私達から逃げたいだけなのよ。」と、付け加えた。

 「僕達から逃げるだって?」と、クエンティンは驚いて言った。

 「スースーはこれは17歳に、特にアメリカで、ありがちなことだって言っていたわ。
彼らは離れ離れになっているんだって。それが彼らの心理的段階なんだって。」

 「僕達から離れてだって?」

 彼女は答えなかった。

 「それで何時彼らはそれを止めるんだい?」

 彼の質問は中国大陸から漂って来て彼らを窒息させていた種類のスモッグのように空中に漂っていた。
彼らは眠ろうとした。

テオが自分の車を彼らの所からいなくなるために使うとは彼らは予想しなかった。
しかし彼は車を買って2日後にそうしたのだった。

 「あなたは何処に行くつもりなの?」と、ベティーが聞いた。

 「君は私たちのチャージカードは使えないよ、」と、クエンティンが警告した。

 しかし、今や自分の金を持っているテオは、眉をひそめただけで荷造りを続けた。
大きなダッフルバッグ、二つ、三つ。
彼の年齢の子供たちはスーツケースを信用していなかった。

 そして次の日の朝、彼は本当に出て行ってしまった。

 「彼は自分の寝場所を作ったんだ、」と、クエンティンが静かに言った。

 勿論、彼らはとにもかくにも動揺していたのだった。
しかし、寝場所だなんて!
彼らはテオが自分の寝場所のつくり方を知っていたなんて知らなかった。

 「共犯者、」彼は彼らをそう呼んでいた。
そして、彼が叫びたかったのは何だったのか?

 ベティーは思い出していた。
「私はそれは『あなたは本当のことを言った事があるの』と彼が言った事だと思うわ。」

 「何の真実をだって?」と、クエンティンは言った。

 ベティーは彼女が内面に多くの事を持っているということを言わないでいた。

 そうする代わりに、彼女はテオのベッドに、あなたは何処にいるの、テオ?と訊ねた。
彼女はキッチンカウンターにも、アパートのブザーにも訊ねた。
あなたは何処にいるの?
あなたは何処にいるの?
彼女は友達の誰にも何が起こったのかは言わなかった。
ウィチャットにも何も投稿しなかった。
彼女は彼の学校には彼は病気だと言った。
熱と咳があり、味覚の消失はないが検査を受けさせている所だと言った。
そして、そうです、勿論彼を自分の部屋に閉じ込めていると。
学校側は主にこの物語の監禁部分に興味を持っていた。

 それ以外に、彼女とクインティンは期待を込めて彼らのチャットを見つめていただけだった。
テオはすぐに帰って来る、と言う事で彼らの意見は一致していた。
それにどんな場所もニューヨークよりは安全だった。
だからそれで良かったのだ。
彼の友達を探すアプリの友達の中に彼らがいるだけで良かったのだった。

 「彼は誰かを訪問しに行った、」と、彼らはロバートに言った。

 「だけど、彼は家にいる事になっている、」と、ロバートは言った。
「みんながね。」

 「あなたの言う通りよ、」と、ベティーが言った。
「彼はそうだったの。マスクを充分持って行っていればいいんだけど。
注意深くしてくれていればいいけど。
手指消毒剤を使ってくれていればいいんだけど。」

 彼女は、ロバートがテオが誰を訪ねて行っているのか聞かなくていいくらい充分物がわかっている事を望んでいたが、有難いことに、彼はそうだった。

 その代わり彼は「僕はコロナが大嫌いだ。僕はサッカーがしたいよ。
友達に会いたいよ。」
それに、「僕は新しい犬が欲しい。」

 「ボンボンに何かあったの?」と、ベティーが訊ねた。
 「アップグレードしたいんだよ。」
 「アップグレード?」と、クインティンは言った。
 「僕は同じ種類の犬の他のは欲しくないんだ。僕は、うーん、オリジナルの犬が欲しいんだ。」

 彼はボンボンが最初の犬ではなかったのでこう言ったのだった。
ボンボンは彼らがヤッピーが死んだ後で置き換えた犬で、みんなが愛していたヤッピーの複製品だった。
しかし、勿論、「みんな」にはまだ生まれていない、ましてや養子にさえなっていないロバートは含まれていなかった。
ベティーにはある意味彼の言いたいことは理解できた。
それにしてもだ。アップグレードだなんて?

 何という考え方だろう。

 ロバートが自分のベッドを整えるのにお金を払ってほしいと言った時、彼らは彼のお金を払った。
というのは、メイドは有償でやっていたじゃないかと彼は言い張って、その事は本当だったからだ。
それは公平なように見えた。
その後、ベッドを整える準備のためにベッドから出るのも有償にしてほしいと言った。
それに対してクインティンはベティーに訊ねることもなくOKと言った。
今や彼は自分の歯を磨くのさえ有償にしたがっている。

 「その値段には歯間ブラシを掛けることも含まれているのか?」と、クエンティンは聞いた。

 暫くの間、ティナとジョンソンはテオに関して聞いたとき、ボビーのちぎり捨てた手紙についてベティーが言いさえもしなかったことに、ましてやボビーが、彼女が、香港の反対派の多くががやっていた様に、彼らに何か起こった場合に備えて、一度ベティーに手紙を書いたことも、言わなかったことに慌てた。
その手紙は、彼らが抗議をする人々で自殺したんじゃないと宣言していた ― 刑務所にいるよりもどれほど多くの人々が拘束されているかを考えれば、そう書かなければいけないと感じていたのだった。
つまり、どれほど多くの人々がいなくなったのかと言う事である。

 そして後でベティーは彼女の両親に彼らの「フェイスタイム」チャットで、事の全てを話すべきだったと考えた ― 彼女はそうすべきだったのだった!
しかし、当時彼女はどうすべきか分からなかったし ― 彼らはボビーの様にテオがいなくなることはないと安心させることに忙しかったのだった。
彼はそうしない、と彼らは言った。
彼はそうできるはずがない。
しかし、 ― 5日?
彼女は直ぐに私立探知を雇うべきだった、ボビーの時そうすべきだったようなやり方で。
「彼女があまりにも遠くに行く前に。」
ここ数年の間でさえ、ティナの声は引きつけるものがあった。

 「一つの良いことは、マツダロードスターを香港に送ることは難しいってことだ。
だから多分テオはそこには行かなかっただろう、」と、ジョンソンが言った。

 「もしあなたが自分で電話したくないのだったら、私たちがあなたのために電話するわよ、」と、ティナが言った。

 「実際、僕たちは今すぐ電話できるよ、」と、ジョンソンが言った。

 ベティは、ロバートがすべての代金を支払うよう要求していることに話をそらすのが精一杯だった。
しかし結局、ティナは「あなたは誰がその全ての付けを払うのは誰だか知っている?」と言った。

 「誰なの?」と、ベティーが言った。

 「アメリカの子供たちよ、」と、彼女が言った。
「そして、もしあなたがロバートがアメリカ人になるのを許せば、あなたは後悔するでしょうと言う事は言わせてね。」

 「あなたはそう思うの?」と、ベティーは言った。

 「君はきっと後悔するよ!君のお母さんは正しいよ。」と、ジョンソンが大声で言った。
「アメリカの市民になることは素晴らしいことだ。
アメリカのパスポートを持っている事も素晴らしい。
しかし、ロバートにアメリカの考え方を持たせてはいけない。
それがどんなものか知っているよね、アメリカの考え方が?」

 ベティーはジョンソンが次の言葉を発するのを待った。

 「20世紀だよ、」と、彼は言った。
「彼らの考えは100%20世紀なんだ。」

 彼女が、何故ロバートがお金を欲しがっていたのは黒人を支援するためだと言う事を両親に言うべきだったかについては、なぜ彼女はそうしたのだろうか?
彼らが「黒人!黒人を気にするのはアメリカ人だけだよ!」と言うのを知っていながら。
しかしこれは子供たちをニューヨークの学校に送った時に起こった事で、 ― 彼らは有色人種の会に入ったのだった。
政治的ではない!
ティナは言っただろう、そしてベティー自身は「私たちは有色人種じゃないのよ、ロバート。」と、彼にそう言いたかった。
私たちはお金持ちだ。

 しかし不幸なことに、彼はそのクラブの会長だった。
コロナのおかげで、子供たちはズームと彼らが人種差別主義者であるかどうかを議論する以外何もしなかった、その結果、中国系であるロバートが、多分もっとも差別主義者であると全員が同意したので、ロバートが会長に選ばれたのだった。
「中国人は最悪だ!」と、幸せそうに同意するロバートに彼らは言った。

 ベティーはロバートに関してテオが彼の年齢では決して抱かなかった種類の受け取り方を見出していた事が幸せだった。
未だにスースーの様にみんなが香港に留まれば良いと思っていた。
香港には、全員が同じ色だったので、有色人種の会はなかったし、もし白人に対して悪いことを言ったらそれは差別主義ではなかった、それは彼らの面前で言わない限り、抵抗だった。。
それからそれは権力に対して真実を語っていたのだった。

 今やクエンティンは「もし僕がロバートが朝起きる事に5ドル、歯を磨くことに5ドル、払うなら、少なくとも彼はいくらかのお小遣いを得て、ポーカーは始めないだろう。」と、考えていた。
 しかしベティーはクエンティンのやり方が気に食わなかった。

 「私の意見は、その事が他の人と同様、あなたも含めた家族の中で、彼をお金キチガイにするだけだわ、」と、彼女は言った。
「お願い、お願いだからもうこれ以上彼にお金を払わないで。」
しかし、母親とは、誰も止めることができない人以外の何ものでもない。

テオが出て行く前に、彼らは夜、救急車が頻繁なことに気付いていた。
しかし、サイレンは同様に一日中鳴り続けているようだが、今は叫び声は少なくなっていた。
これ、このニューヨークの「一時停滞」状態はどれくらい長く続くのだろうか?
そしてアメリカではマスクをつける事が何故そんなに大問題だったのか?
香港では人々は眼鏡が曇ることに対して文句も言わず、彼らは鼻がそんな風に突き出していないので、ちゃんとマスクを付けていた。
勿論、クエンティンは、彼らの鼻は小さくて平らなのでマスクの下に収まるのだと言っていた。

 ベティーはロバートの先生に、「彼に何か余分の仕事を与えてくれませんか?なぜならあなたのレナペ族の中のカナルシー部族に関する宿題は、書き終わるのに30分しかかかりませんでした。
それは15分しかかからなかった重力の宿題よりも良かったのですが、気にしないでください。
お願いします ― 私達父兄は気が狂ってしまいます。」

 勿論、彼女はミス・ストレンジがいつも「強引な父兄」と呼んでいるみんなに言っている「カリキュラムは年齢に合わせたものです」と言うであろうことは知っていた。
そして、彼女はそう言ったが、今回は「子供たちがどんなにたくさん追加の宿題をやっても、今学期の成績評価無しの方針によって「変更はありません」と言う事を付け加えた。
アジア人の父兄の中には本当に不満を述べていたので、ベティーは実の所彼女がそういうのを責める事はできなかった。
それに加えて、ミス・ストレンジ自身が不満を述べていたように、彼女ができたせい一杯の事は全クラスをオンラインに変更する事だけだった。
彼女は書いていたのだが、父兄たちはそれがどれほどストレスがかかる事かは考えもしなかった、特に3人の子供がいて4匹の犬がいて、夫がいない、科学技術に恐怖症を持っている彼女にとって、それがそもそも彼女が教師になった理由なんだから。
しかし、この一回だけは興味を持つ生徒に彼女は特別の課題を与える事にしたのだった。

 「有難うございます、」と、ベティーはキーボードをたたいた。
「有難う。」
というのは、彼女は本当に感謝でいっぱいだったのだった。

 その特別の課題と言うのが、ペットに家族の謎を語るという課題さえなければ。

 「ペットに、ですって?」と、ベティーは言った。
「あなたはペットに謎を語らなきゃいけないの?」

 「それは本物のペットである必要はないよ、」と、ロバートは言った。
「それは想像上のペットであってもいいんだ。」
それに、「ミス・ストレンジは父兄に手伝ってもらっても良いと言っていたよ。」

 ベティーはため息をついた。
それは復讐だった。
それはミス・ストレンジの復讐だった。

 「あなたのおじいちゃんの話しはどうだろう?」と、クエンティンが言った。
「イエイェとボンボンが天国で会うと言う話はどうだろう?
イエイェはボンボンに餌をあげられるし、ボンボンはイエイェに地上で食べ物をそんな風に食べられなかったかを聞くことができるよ。」

 「そんなこと謎じゃあないよ、」と、ロバートが言った。

 「それはボンボンにとっては謎だよ、」と、クエンティンが言った、ボンボンはクッキーをくれるんじゃないかと期待し彼を見上げながら大人しく座っていた。
彼の白い尻尾はまるでその中に特別のチップが入っているかのようにパタパタと揺れていた。

 「それに、もうボンボンは使いたくないんだ、」と、ロバートが言った。
「ボンボンは小型犬だ。僕はアップグレードした犬を使いたいんだ。」

「例えばどんな?」と、ベティーが言った。

「盲導犬のジャーマンシェパードのような、」と、ロバートが言った。

「盲導犬がなんだかわかっているの?」

「超能力を持った犬だよ。」
それに、それは真実を見つけられる、それは権威を持った雰囲気を備えているんだ。

 「それじゃあ、盲導犬のジャーマンシェパードは物語をもっと興味深いものにするでしょうね、」と、ベティーは譲歩した。
それは長い宿題の時間になるだろうと、彼女には分かった。

 クエンティンは部屋を出た、「やらなきゃいけない仕事があるんだ」と、彼は言った。
どうして彼が彼の強硬な反対を押し切って設立した仕事のボスが今彼なのか?
彼のお尻はカウチに合う薄紫色の革張りの椅子に跡を残した。;それは装飾をした人がそうしたからだった。

 「犬の名前は何にするつもりなの?」と彼女はからかい気味に聞いた。

 「彼の名前はディテクティブ(探偵)だ。」
 「そして彼の姓は?」
 「ドッグ。」
 「じゃあ、ディテクティブ・ドッグ?」
 「そうだ。彼の名前はディテクティブ・ドッグ、そして彼は失踪人に興味を持っているんだ。」
ロバートは大きな丸い虫眼鏡を目に当てた ― それはクエンティンの物で彼がクロスワードパズルをやる時のために台所のカウンターに置いていたものだ。

 「テオは居なくなったんじゃないわよ、」と、ベティーが静かに言った。
「テオは帰って来るわ。」

 「彼の友達の家からね、」と、ロバートが言った。

 「そうよ。」

 ロバートは彼女をちらっと見た。
その後、彼は虫眼鏡を通して眼を細めたが、それは彼が自分で切った髪の隙間にぴったり収まった。

 「僕はあなたに僕が|謎<ミステリー>を自分で解けるように話をして欲しいんだ、」と、彼は言った。

 ベティーはため息をついた。
テオがいなくなって、彼女とロバートは、ただそこには抗議の横断幕の代わりにサイレンがあった以外は、まるでどうぶつの森のゲームの中の無人島にいるようだった。
彼はとても静かで力強かったので、アパート全体が静かで力強かった。

 「あなたがその謎を解くのをお手伝いするのが私の仕事なの、それとも私にその話を作れって言うの?」と、彼女が聞いた。

「僕にお母さんが作った話を話してくれることだよ。」

「本気?それがミス・ストレンジが言った事かしら?」

「そうだよ。」

 ベティーはもう一度ため息をついた。
「その話がどれくらいうまくできるか分からないわ、探偵ねえ。
私はあなたみたいにお話を作るのが上手じゃないわ。」

 「上手である必要はないよ、」と、彼が言った。
そして、「僕たちは今日、始めて、明日には終われるよ。質問するよ。」

 「じゃあ、どうぞ。」
彼女はどうしていやだって言えただろうか?
彼女は思った、そして、始めた、「昔々、家族の誰もが一番だと同意する一番良い娘がいました。」

 ロバートは首を振った。
「『一番いい娘』ってどういう事?」

 「つまり、3人の娘の中で最も賢いって言う意味よ。
彼女はそれらの全ての最高の学校に合格したの。
アンドーバー(フィリップス・アカデミー)高校やMITやハーバードビジネススクールに。
実際、彼女はどこに出願しても合格したの。
彼女はウォールストリートのインターンシップを受けて、ウォールストリートに仕事を得たの。
彼女は大金を稼いだの。
でも、ある日、突然、彼女は脱落して一人のアメリカ人と一緒に逃げ出してしまうの。
しかも普通のアメリカ人じゃないの。ドラマーなの。」

 「何故、ドラマーなの?」

 「分からないわ。
私に分かっている事は、彼女が後でドラマーを捨てたって聞いたとき、家族がその事を祝福したってことだけなの!
彼らは、彼女は来ることはできなかったが、彼女のために夕食を取ったの。
だけど、その後、彼女は完全に消えてしまったの。」

 「テオみたいに?」

 テオは居なくなったんじゃないわ、と、彼女は言いたかった。

 その代わりに、「彼女は何処か言ってしまった ― 誰も何処へだか知らなかった。
彼女の両親は長い間泣いていた。
その後、何が起こったと思う?私は又彼女に会ったの。」

 「あなたは話の中にいるの?」

 クエンティンはポテチの袋を持って台所から戻って来て、それはお弁当箱の大きさではなく大きなサイズの物で、僕のことは気にしないで、という意味だった。

 「あなたは話の中にいるのですか?」
探偵犬はクエンティンがいなくなった時にもう一度聞いた。

 「そうです、探偵さん、」と、彼女が認めた。
「私が数年後に彼女を見たのはほとんど間違いだったの。
私たちはニューヨークに移ろうとしていたけど、あなたも覚えているように、まだ崑山市に仕事があって時々上海に泊まっていたの。
フランスの疎開地にはたくさんのヨーロッパ風の建物やレストランやカフェやヨガのスタジオがたくさんあったの。
あなた、覚えている?」
彼は頷いた。
「上海は素晴らしかったよ。」

 ベティーは笑った。
「そうなの。
そして、そうね、ある日私はカフェに出かけて、誰を見たと思う?。
彼女は、私が最後に見た時の様じゃなかったわ。
私が最後に彼女を見た時は金髪で刺青をしていて、ガスマスク・ポーチを持っていたの。
今は、変装でもしているかのように、普通の髪をして普通の服を着ていたわ。
私たちはコーヒーを飲んだの。
勿論、彼女も私を見て驚いたわ。
私は彼女が何をしているのか教えてくれるのを待ったの。
でも、彼女は直ぐには言わなかったわ。
その代わりに、彼女は眉を上げて顔を傾けたの。
あちこちにカメラがあるって言う意味よ。
私は彼女に自分のアパートに立ち寄る必要がある、って言ったの、そしてそうしたの、私が自分の携帯をそこに「忘れ」て、誰も携帯で私を追跡できないようにするためよ。
その後、私は公園で彼女と会ったの。
私は彼女が警察から逃れようとしていると聞いても驚かなかったわ、何故なら私は、彼女が香港で抗議活動中、実際に前にそうするのを見ていたから。」

 「あなたは彼女を見たけど誰にもいわなかったの?」

 ベティーは顔をそらした。
 「何故?」
 「私が約束したからよ。」
 「じゃあ、あなたは彼女が知っていた他の人々も知っていた。誰が知りたいと思った事でしょうか。」
 ベティーは躊躇したが、結局頷いた。
 「でも、あなたは今私に話している。」
「それはあなたの宿題だからよ、」と、彼女は言った。
しかし、彼女が本当に言いたかったのは「あなたは何時か分かるわ、わたしは分かっているの。
あなたは心が読める帽子の様ですもの。」そして、「私はあなたにいつかテオのように去っていってほしくないからなのよ。」
 「そして、なぜ彼女はあなたにしゃべってほしくなかったの?」
 「何故なら中国政府はあなたの家族を知りたがったからよ。
そうすれば、もしあなたに圧力をかけるだけで充分じゃなかった場合、彼らは家族に圧力をかけることができるからよ。」
 「つまり、あなたが言わなかった事って、彼女の家族の事だったんだ。」
 彼女は頷いた。
「あなたの家族でもあったの。」
 彼女は頷いた。
「つまり、彼女はあなたの姉妹ってことだ。」

 なんだか声に出して聞くことはショックだった。

 「そうよ、」と、彼女は勇敢にも言った。
「分かるでしょうけど、彼女はこれ以上問題に巻き込まれたくなかったの。
それとも、少なくとも、彼女はそう言っていたわ。
彼女は自分は彼女の危険な仕事を諦めようとして上海に来たのだと言っていたわ。
実際、彼女は有能だった、とても有能だったと私は思っているわ。
彼女はとても賢かった。
それに、暫くの間は彼女は物事がうまくいくと信じていたの、多くの人が信じていたように。
だから多くの人々がその抗議行動に参加したの。
どうやって北京は彼ら全員を逮捕できたのかしら?」

 「だけど、今や彼女が考えられることは、香港が中国本土に永遠に呑みこまれる2047年の事だけです。
勿論、本土が最初に立ち上がり始めた時に遡ると、私たちは中国の人々が西側に対して立ち上がったのを見て誇らしかったわ。
いじめっ子について話しているみたいに!
西側は何時もみんなに恥をかかせなければいけなかったし、ところで、香港が助けを必要となった今となっては、あなたは分かりますか?
しかし、結局、本土は突然私たちにも襲い掛かって来ます。
彼らは天安門で彼ら自身の国民に発砲したように私たちを攻撃したんです。
勿論、あなたは赤ん坊で、何が起こったのかについてはあまりに多くを知ることはなかったの。」

 「僕は犬だよ、」と、彼は彼女に思い出させた。

 「ああ、そうだったわね。
つまり、あなたは子犬にすぎなかった、」と、彼女は、期待されているような言い方で、いたずらっぽく言った。

 彼は低いうなり声をあげた。

 「あなたはたった2歳半だった。
でもテオは決して彼の学校や友達と離れる事に耐えられなかったの、特に彼がバンクーバーでいじめられてからはね。」

 「その事が彼が自分でいじめっ子になった理由なんだね。」

 「彼はいじめっ子じゃないわ。」

 「そして上海はどうやって彼女に仕事を諦めさせるつもりだったの?」

 「私達はここで休憩を取るべきだわね。」
ベティーはオーブンにある時計にちらっと眼をやった。
「夕食を始める時間ね。」

 彼らはアメリカスタイルのツナトヌードルの入ったグラタンとマッシュルームクリームのスープ作った。
それから彼らはビデオゲームをしたり、作ってみたい新しい料理のレシピを探したりした。
ロバートはピーナッツバターとスニッカ―チーズケーキのウーピーパイを作りたがった、それはもし彼が一日一回彼女とヨガのビデオを無料でやってくれれば作って良いよと言った。
彼はそうするよと言った。

 「勿論、その本当のミステリーはテオが何処にいるのかっていうことなのよね、」と、彼女はその夜ベッドの中でクエンティンに言った。

 「彼は帰って来るよ。」

 「分からないわ。彼はあのお金を全部持っているのよ。」
彼女はキルト布を自分の顎の所まで引っ張り上げた。
夏にはとても及ばなかったが、クエンティンはエアコンを目いっぱいかけるのが好きだった、彼は、それが香港を思い出させるといった。
「それと、今はもう一つの頭痛の種があるの、ロバートの宿題よ。」

 「君が彼を手伝ってあげる5分おきにロバートに料金を請求したらどうだい?」
 「それはできないわ、私は彼の母親なのよ。」と、ベティーは言った。
 「お母さんなら請求すべきだよ、」と、クエンティンは欠伸しながら言った。

次の日、ロバートはボウルに鼻を突っ込んで、シリアルをスプーンを使わないで食べた。

 「ディテクティブ・ドッグ参上、業務でやって来たよ、」と、彼が言った。
彼は唇を舐めた。

 「家の中では犬はピュリナ・パピー・チャウのドッグフードを食べるものよ、」と、ベティーが警告した。

「ディテクティブ・ドッグは違うよ、」シリアルを噛みながら言った。
「ディテクティブ・ドッグはグラノーラを食べる。
それで、何故あなたの姉さんは上海に越して来たの?」

ベティーは彼女のデカフェのコーヒーにヴァニラアイスクリームを掬って入れながらため息をついた。
彼女はこれを午後だけ飲むことを許していたのだが、テオがいなくなって以来、朝も飲むことを自分に許していた。

 ディテクティブ・ドッグは自分の大きなコップを持ち上げた。
「彼女はなぜニューヨークに越してこなかったの?」
 ベティーは音を立てて珈琲を飲んだ。
「何故なら、|探偵さん<ディテクティブ>、もし、たとえその昔、彼女がドラマーと結婚してアメリカ国民になったとしても、他の人ならそうしていたであろうけど、出国ビザを取得するのに苦労したかもしれないからです。
それに、どちらにせよ、彼女はそうしなかったの。
彼女は中国のどこかに隠れなければならなかったの。
そして、彼女は上海の郊外の彼女のボーイフレンドの家族のところに隠れるつもりだったのよ。」

 「彼女にはボーイフレンドがいたの?」
 ベティーはコーヒーを飲み、それから答えた、「彼も反体制活動家で、ギターを弾き、ジャーナリストへの話し方、彼らにどんな風に書かせればいいのかを知っていたの。
あなたは彼を一種の広報係と呼んでも良いと思うわ。
でも、彼の家族がもともとこの小さな村の出身だったの。
それで、計画ではしばらくそこに住むことになっていて、抗議活動を止めて鶏や畑と共に簡素な生活をすることになっていたの。
勿論、たくさんの抗議活動家は捕まることを心配していて、大陸の法廷で裁かれるんじゃないかと心配していたわ。
ボートで台湾に逃げようとした人もいたわ。
でも、彼女はもし彼女と彼女のボーイフレンドが静かにしてさえいれば、政府は彼らが問題を起こすことが終わったと思うかもしれないと考えたの。
そしてその後、彼女は最後には私たちの家族ともう一度関係を復活させられるかもしれないと考えたの。
彼女は、離れ離れでいる事は苦痛だといったの、そして彼女は私たちがこんなに長く離れているなんて思ってもいなかったといったわ。」
 「その後どうなったの?」
 「そうね、ボーイフレンドの家族はお金が無かったの。
だから彼女は何かを教えようと決めたの、最初は小さな学校で、そしてその後、インターナショナル・スクールで。
英語とアメリカ史を、というのは、彼女は結局アメリカで勉強した事があったので。
そしてこれらの子供たちはジョージワシントンやエイブラハムリンカーンを超えるある歴史を使うことができる国際的な子供たちだったの。」
 「それから?」
「そうね、彼女は自分のクラスにスパイを持っていたの。
そのスパイは彼女の父親とものごとを共有することについて最前線にいたの。
『私のお父さんはこう、わたしのおとうさんはああ』と彼女が言う、正にボビーを怖がらせるためにではなく、本当にちょっと『誰かが見ているぞ』という為に。
ボビーはそれを軽くあしらった。
彼女は全ての教室に情報提供者がいると言っていたわ。」

 「じゃあ、これはボビー叔母さんの事なの?」

 少し何か言おうとしたが、黙って頷いた。
そうなのだ。
彼女はボビーの名前を言うつもりではなかったが、言ってしまったのだった。

 「誰もその事について話さない行方不明者?」
 ベティーはもう一度頷いた。

 「ミルクセーキを飲んでもいい?」
 彼女は彼女のコーヒーを前に押しやった。
それは正にミルクセーキだった、解けたアイスクリーム以外の何物でもない。

 ディテクティブ・ドッグはそれをがぶりと飲んだ。
「それで、そのスパイについてはどうだったの?」と、彼が言った。

 「そうね、ある日、ボビーは ― 良心がそれに同意しない場合はについて言っている有名な随筆、法律に不服従である事 ― ソローの随筆、「市民的不服従」を教えたの。
彼女はそれがそれ程慎重に扱うべき事とは思わなかったの;結局、議論の焦点は中国人が法に不服従であるべきかどうかではなかったのだから。
彼女はその事の様な何かをけしかけるよりも、もっと良いことを知っていたのだから。
その論点は、その考えが一部のアメリカ人にとってどれほど重要であるかであり、全てのアメリカ人がそれに同意しているわけではないということだった。
そして彼女は慎重だった。
彼女は例えば、その件名に「市民的不服従」という言葉を使わなかったの。
彼女はそれを「ソロー」と呼んだの。
幸運にも、スパイは彼女がその随筆を教えた日はたまたま欠席していたの。
でも、その後、スパイは勤務時間に帰ってきたの。
そして、ボビーがその随筆を説明していると、スパイは彼女の事を記録しました。
その結果、彼女は当局からお茶に招待されることになったの」、と言って、ベティーは話すのを止めた。

 「で、それがどうしたって言うの?」

 「お茶って言ってもただのお茶じゃないのよ。
それは脅迫なのよ。
その事は彼女をとても心配させたので、私にそれ以上何も話さないように頼んだの。
だけど彼女は私にそれを知っておいてほしかったの。」

 「その事って?」

 「彼らが、彼女は反逆者であることを決して止めないだろうと思っているかもしれないってこと。
彼らは彼女が大釜の下の火でいつも火を起こすような種類の人であると思っているだろうということをよ。
問題を起こすだけではなく問題を大きくするような人ってこと。」

 「それから?」
 
 ベティーは自分でアイスクリームをもう一掬いした。

 「それから?」ディテクティブ・ドッグはもう一度聞いた。

 「それで、私はそれから彼女は逮捕されたと信じているわ。
何時も私は彼女のボーイフレンドに手紙を書き、彼が新しい歌を書いたか聞いたの。
そしてもし彼が書いたのなら、それが幸せな歌なのか悲しい歌なのか聞いたの。
彼は何時も答えたわ、それほど幸せじゃない、って。
そして彼はあなたは今どうしているの、って聞くの。」

 「話題を変えるってこと?」

 ベティーは解けたアイスクリームを飲んだ。

「それで手紙はどうなったの?」

彼女は驚いた。
ロバートは彼女がクエンティンと話しているのを、立ち聞きしていたのだろうか?
「私は手紙は受け取らなかったの、」と、彼女が言った。

「おかしいな、」と、彼が言った。

 彼女はもう一度言った。
「私は一通も手紙は受け取らなかったわ。」

 しかしそこには彼のチラッと見る行為があり、結局彼女は認める事になった、「手紙はあったわ。でも、私は受け取らなかったの。なぜならそれは破り捨てられたから。」

 「あなたは何が書いてあったか知っているの?」

 ディテクティブ・ドッグがもう一度虫眼鏡を顔の所に持ち上げた時、ベティーはテオの声を聞いた。
あなたは今までにそれを口に出してはっきり言った事がありましたか?
あなたは本当のことを言った事がありましたか?
外ではサイレンがずっと鳴り続けていた。

 「上海で、ボビーは私に万一の場合に備えてさようならの手紙を書いたといっていたの、そして彼女は彼女のボーイフレンドにもしその時が来たら私達が必ず受け取るようにと言っていたの。
最後の手紙って彼女はそれを読んでいたわ。」

 「じゃあ、それがその手紙だったの?」

 「私には分からないは、探偵さん。」

 「何故それは破り捨てられたの?」

 ゴーストタウンよ。
彼女は彼女たちは全員でゴーストタウンに移り住むことを願っていたの。

 「私はアーニー叔父さんがそのことが私たちの心を打ち砕くことを知っていたからだと思うの、」と、彼女はついに言った。

 「アーニー叔父さんがメッセンジャーだった。」

 「そうなの。それに彼は私たちがうすうす感ずいていたと心の中では分かっていたの。」

 「じゃあ一体なぜ彼はあなたにそれを持っているって言わなかったの?」

 救急車。サイレン。
「今は、あなたは何故あなたのお祖母ちゃんが何時も「政治はだめよ」って言っているか分かるでしょ、」、と、彼女は言いたかった。
何故ならその事がこの物語の教訓だったから。
政治は無し。

 その代わり、彼女は、「何故なら、あなたは心にしまっておかなければいけないからなの。」
彼女はストロボ・ライトが窓枠の上部に沿って動くのを見つめていた。
その速さがディテクティブ・ドッグが虫眼鏡に鼻を押し付けるのに合わせて、速くなりそして遅くなりそして又速くなった。

 「あなたは何故いつも僕をロバートって呼ぶの?」と、彼は聞いた、彼の鼻はぺちゃんこで歪んでいた。
「何故あなたは僕をボビーって呼ばないの?」

 もし彼女が泣いていなければ、彼女はこたえられたかも知れない。

 「それはあなたが僕のお母さんに約束したからなの?」と、彼が聞いた。
彼はまだ虫眼鏡を持ち上げていた。

 「彼女は私たちの内で最高の姉妹だったの、」と、ベティーは敢えて言った。
「最も賢くてもっとも勇敢だったの。」

 「そうだったんだ。」ロバートは虫眼鏡を置いて、シャツの袖をひっぱって、伸びた生地で自分の目を拭いた。

 「私たちは本当のところは知らないの、」と、彼女は言った。
彼女は彼を抱きしめたかったが彼は体をもがいて離れた。

 「僕の名前はディテクティブ・ドッグじゃない、」と彼は鼻をシャツに突っ込んでいった。

 「そうじゃないわね、」と、彼女は言った。
そして、敢えてふざけた調子で、「まず最初に、あなたは犬じゃなくて男の子です。」

 「僕の名前はボビー・クーだ、」と、彼は言った。

 「彼女はあなたを守ろうとしたのよ。」

 「多分、アーニー叔父さんが私たちに彼女の居場所を教えてくれるでしょう。」

 彼女はもう一度彼を抱きしめようとしたが彼の小さな体よりも彼のシャツを抱きしめる事になった。
「そして、多分、テオは帰って来るでしょう、」と、彼女が言った。

 「中国政府はあなたの家族全員の事を知りたがります、」と、彼は言った。

 「そうよ。そして、ここではあなたは安全よ。
だからそれは有効だってことなの。
だけど、彼女は真実を愛していたの、分かるでしょう。
彼女は声をあげたの。
彼女は私とは違っていたの。」

 「あなたも声をあげる、」と、ロバートが言った。

 しかしベティーは、違うわ、と言って首を横に振った。
「ボビーとは違うの。
彼女は私たちの中で最も良かったの、あなた、ディテクティブ・ドッグさん、あなたは彼女の息子なの。」と、彼女が言った。
               おしまい

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