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鎌倉シャツのビジネスモデルが秀逸なポイントを考えてみた

 鎌倉シャツがニュースピックスで取り上げられていて、「成功したSPA」という観点からいくと、至極当然だと思うのですが、コメントを見ているとどうも的をはずしている(わざとはずしている?)ようなファッション・繊維系プロピッカーもいるので、個人的に鎌倉シャツのポイントだと思われるところをまとめてみたいと思います。どなたかの参考になればよいのですが。

現在の展開アイテム数は増えていますが、当初、メンズシャツ一本に絞ったところが秀逸なポイントの1つです。メンズシャツ、とくにビジネス向けシャツはトレンドの変化がほとんどありません。もちろんその時々によって微妙にトレンドが変化しますが、その多くは襟の形や色柄くらいで、全体的なフォルムはほとんど変わりません。その変化も数年単位の長さなので、1シーズンで必ず売り切らねばならないという縛りはありません。

この考え方はかつてのジーンズメーカーやジーンズ専門店に近く、ジーンズメーカー各社(ビッグジョン、ボブソン、エドウイン、タカヤ商事など)が自社縫製工場を構えて大量生産していたのは、トレンドの変化が少ないから少々在庫を積んでいても数年くらいで売りさばけるからという理由がありました。また、濃紺のノンウォッシュや糊だけを落としたワンウォッシュで残しておけば、洗い加工で色を落とせば在庫を別商品として出荷できたという点も大きな理由でした。

今はジーンズというアイテムはそんな悠長なことは言っていられませんが、メンズビジネスシャツ(ドレスシャツ)に関しては依然として数年サイクルでの商売が可能です。

そして、シャツ一本に絞った(当初は)ビジネス形態はトレンド変化が緩慢なために効果的だったといえます。

次に秀逸だったのは、生地の調達システムです。メンズビジネスシャツは、白無地や薄ブルー無地などが定番として圧倒的な数量が売れます。チェック柄やストライプ柄などの柄物はトレンド品、ファッション品という要素が強くなりますが、数量的にたくさん売れるわけではありませんし、同じ柄物をたくさん作って売りすぎるとユニクロのように、「かぶって」しまう人が多数出現してしまい、買い控えの原因の一つにもなりかねません。

そこで、鎌倉シャツは、白無地やブルー無地などの定番生地を工場に作らせ続けています。こうすることで生産ロット数を増やし、1メートルあたりを割安な価格で仕入れることができます。生地も縫製もそうなのですが、欲しい時だけに工場に注文すればそれで良いと考えている業界人は多く、自意識ばかりが過剰な似非デザイナーなんていうのは、実に自己中心的な発注を工場に投げかけます。

工場サイドからすると、1年間を通して平均的に発注があるのがもっともうれしく、例えば今月だけ山ほど注文はあるが、残り11か月は注文ゼロというようなブランドとの付き合いには旨味を感じません。むしろ工場サイドからすると迷惑な発注者です。

定番生地を作らせ続けると、工場サイドには年間を通じた仕事を与えられることになり喜ばれますし、大量に作ることで1メートルあたりの生地値は安く抑えられます。また年間を通じての仕事を発注しているので、工場サイドに対して、鎌倉シャツ側は多少のわがままを聞いてもらいやすくなります。まさにwinwinの関係です。これは縫製工場に対しても同じことがいえます。

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