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値段を3割下げてもシップスは復活しない

先日、某製造工場の経営者がこんな感想を漏らしました。この経営者は国内工場経営者としては非常に柔軟に現在に市場に対応できているのですが、それでも「ぼくの親父は職人としての腕はぼくよりも上だった。親父の世代は良い物を作れば必ず売れた。しかし今はそうではない。良い物を作ったうえで、うまく売ることを考えないと物は売れない。そういう時代になっている。それに対応できていない工場やアパレルブランドが多すぎる」とのことで、これは本当に的確な分析であり指摘だといえます。

2000年頃までは、アパレルブランド、雑貨ブランドは「良い物」を作ればそれなりに売れたのです。正直なところあまり物を考えなくてもそれなりに売れたし、工場は仕事が舞い込んだのです。2000年を過ぎたころからその構図は如実にそして急激に崩壊してしまいました。もちろん、その前兆は90年代後半からすでにあったのですが・・・。

98年頃にユニクロの1900円フリースブームが起きると、物事を深く考えるくせが付いていないアパレル各社は雪崩を打ったように追随しました。そうです。価格を一斉に下げたのです。これまでの社会構造や消費動向で判断すれば、値段を下げれば必ず物は売れたのです。ですから、アパレル各社の経営陣は経験則から値下げをすれば必ず売れると考えたのです。結果的にはそれは大間違いで、値下げしても商品は売れませんでした。これはGMSと呼ばれる大手総合スーパーも同じで、大手総合スーパーは今でもその錯誤から抜け出せていません。ですから、イオンもイトーヨーカドーもアホの一つ覚えのようにユニクロと同じ価格で似たような商品を発売し続けて負け続けているのです。

軽量ダウンしかり、保温肌着しかり、1000円未満ジーンズしかり、フリースしかりです。

もちろん、品質が良いとかデザインが素敵だとか機能性に優れいているとか、そういうことは衣料品や服飾雑貨品には必要ですが、もはやそこの競争ではないのです。さらにいえば価格競争でもありません。品質が良くてデザインが良くて機能性も高くて安いけど売れていない商品は掃いて捨てるほどあります。例えば、ハニーズは最近勢いを失っています。しまむらも減益に陥っています。この2つは「それなりにデザインが良くて安い」にもかかわらず業績を落としているのです。そのほかにも枚挙にいとまがありません。GAPジャパンは投げ売りセールを繰り返しても業績は上向きませんし、オールドネイビーは日本から撤退してしまいました。H&Mの売れ行きにも陰りが見えていますし、フォーエバー21は鳴かず飛ばずで近いうちに撤退もありえるのではないかと見ています。

アパレル業界人もメディア業界人も勘違いがはなはだしく、ジーユーやユニクロだけを見て「安ければ売れる」「安くて品質が良ければ売れる」と考えているのですが、それは大きな間違いだといえます。

この手の「マス向けブランド」だけではなく、業界では先端に位置すると思われているブランドの多くも同じ考え方なのです。その結果がワールドやオンワード樫山、ファイブフォックス、三陽商会、TSIホールディングス、イトキンの凋落や経営破綻なのです。そして、大手セレクトショップも同じで、現在業績が伸びていないところは同じなのです。

その一つにシップスがあります。セレクトショップの草分けとして知られていたシップスですが2010年代に入ってからは業績は伸び悩んでおりパッとしません。かつて3大セレクトショップとしてビームス、ユナイテッドアローズ、シップスと並び称されましたが、現在の売上高は2社に大きく水を開けられています。ビームスが700億円台、ユナイテッドアローズは1000億円強なのに、シップスだけが300億円未満で足踏みを続けています。ビームスにダブルスコアを付けられてしまっています。

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