一敗of一杯〜オニオンリングを添えて〜

今日も俺のイカは楽しそうに水鉄砲を携えて空中から飛んで行く。
背中のインクタンクから繋いだブキからインクを射出し、自分たちの色に染め上げていく。
インクに潜ったり敵を撃ったりして3分間で縄張り面積が広い方が勝ちだ。

海生軟体動物であるイカの少女を、哺乳類の成人男性が画面の前で一生懸命操作している様は傍から見れば異常に映るかもしれない。
しかし傍から見られる可能性は限り無く低い為、今日も俺は一生懸命イカで縄張りを取りに行く。


ある日、タルタル総帥が言っていた。
「無意味なナワバリ争いを繰り広げるばかりではないか」
その通りだ。だがイカである私の存在意義であり、ナワバリバトルこそが己の生きる証明なのだ。
というか、それ以外に特に興味は無かった。イカしたイカになることがこの街で生きていくのに求められるのだから。


ヤガラ市場で針に糸を通すかの如き隙間からリッター4Kで撃ち抜かれ、タマシイに変えられた哀れな俺のイカはすごすごとリスポーン地点へと戻っていく。俺は小さく舌打ちし、テーブルの上にある缶ビールに手を付ける。一口煽ってもう一度と地上へとイカを飛ばす。
あの野郎イカリングにしてやろうか。
短射程ブキを持つからだなどと言われるかもしれないが、こいつで勝った時気持ちが良いのだ。浪漫がある方が良い。


ある日、クマサンが言っていた。
「何かを塗るには何かを消さずにはいられない」
なにを当たり前のことを。でも何故だろうか。イカであるはずの私の胸の底を深く刺してくるその言葉が私の中から抜け切ることはなかった。
だって、今が楽しいんだもん......。


ナワバリバトルをやると分かるが、こいつは本当に3分間もあるのだろうかと思うほど濃密な3分間を過ごすことになる。だが5分間でも10分間でも長過ぎる。丁度良い長さなのだ。1試合が終わるとカップ麺が出来上がるというのも実にバランスが良い。
俺のチームは結局敵のイカをイカリングにすることも、敵のタコをたこ焼きにすることも出来ずに30%以上の差を付けられて大敗した。

敵チームのイカタコがそれぞれのモーションでドヤ顔を披露する。可愛らしかったり腹立たしかったりするが、それも含めて勝者への賛美としてしっかり見ることにする。


台所から母親が俺を呼ぶ声がする。晩御飯が出来たようだ。

キリが良いのでゲームを終了し、食卓につく。
おぉこれはと一口齧ったイカリングと思われたそれはオニオンリングだった。

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