【小説】田町クリーンキャンペーン

「クリーンキャンペーンにご参加の町内の皆様! お忙しい中ようこそお越しくださいました! 本日はどうぞよろしくお願いします!」

初参加となる私はげんなりな表情を発言者こと町長に向けた。誰が喜んで貴重なお休みを自治体のイベントに費やすというのだろうか。まだ寝れる時間だし帰ったら子供の相手もしなくてはいけない。まったく嫌になる。

「カウントダウンいきますよー? 3.2.1...! スタート!」

クリーンキャンペーンというものはその地区のゴミを拾い、ゴミステーションに積み上げていくだけのつまらない作業だった。どうにかこうにかその役割を躱していたが、とうとう回覧板に自身の指名まで頂いて参加することとなってしまった。

全く。何がカウントなのや──


──ら。

と思う刹那には、周囲の人たちが消え去っていた。
今目の前で人が忽然と姿を消したのだ。
私は咄嗟に振り返る。既に豆粒のように小さく映るほど遠くまで駆けて行ってしまった住人たち。そこには私と仲の良いお隣の奥さんも含まれていた。
私は、いや私たちはゴミを拾いに来たんじゃなかったのか。

一瞬、私以外の全ての人達が逃げ出したのか、とすら思った。しかし目の前の光景でそれは覆される。

突如、ゴミステーション内にL字のデスクが出現した。

「これは……?」
「高町さん! これ!」

呆然としていると、お隣の奥さんから棒状の何かを放り投げられた。訳も分からず受け取り、適当にゴミステーションに放り投げる。どうやら洗濯物を干す為の竿のようだった。

それからも、私がいると分かるやいなや、話したことも無い人々からゴミを投げられる。私はバケツリレーのアンカーとして、それらを受け取ると必死にゴミステーションに投げ入れていた。

どの拍子だったか。

やたら左に偏りすぎているなと思ったから、右手に正六面体のクッションを投げた時、そのゴミが丸々消失した。

否、そのゴミを含む横一列が全て消失し、山高く積まれた左側のゴミたちが大きな音を立てて地に着いたのだった。
私はその瞬間に、全てを理解した。


「高町さん! すごいよ! 初参加でしょう!?」

クリーンキャンペーンが終わり、お隣の奥さんははしゃぎながら私の両手を握ってくれる。

ダメだ。まだまだダメなんだ。

「ハードドロップで逃げ出さなかっただけでも大したもんだ」

町内会長が笑いながら言うが、最初から言って欲しかった。

「次も来てくれるかな?」

期待一杯にお隣の奥さんは言う。

「次は、勝つ」

私はそう言い残すと、我が家のゴミを増やす為に自宅へと舞い戻ったのだった。

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