見出し画像

第22回 敗れはしても 服部直明

 この四半世紀、水俣フォーラムで仕事をしている。わずか数名からなる事務局の職員であり、経営の一端を担う立場だ。
 無念だが、2023年度も大きな赤字を出してしまった。3年連続の赤字決算で、特にこの2年は続けて約600万円の赤字になった。会員会友からの借入金1300万円により、この10年は資金ショートに陥ることなく活動を続けてこられたが、資金繰りの状況によっては、さらに借入をお願いしなければならなくなるかもしれない。
 大きな赤字決算になりそうだとわかった時は、背筋がすっと寒くなる。そういう事態はできるだけ避けたいのだが、一方で「でも」と改めて自分に問う。使うべきところには資金をつぎ込み、一人でも多くの人が水俣と出会う場をつくることこそ、水俣フォーラムの存在意義ではないのか。機会があるのにその可能性を小さく見積もり、こじんまりとした場でよしとすることは勝負の土俵に上がってすらいないのではないのか、と。活動の継続を不可能にするような赤字は避けなければならないし、楽観を基にした経営は厳に慎むが、勝負には挑んできた。その成果が、けして少なくはない人たちの共感や信頼だと思っている。
 水俣フォーラムに対しては「いつも知らない人がいる」「たくさんのボランティアをどう募ったの」「講師の顔ぶれがすごい」などとよく言われる。いずれも人とのつながりに関連することであり、大切にしている財産である。閉じた集団でやっているわけではないし、そう思われないように努めてきた。事務局として大変な時でも表面上は涼しい顔をしながら、願う状況を実現しようとしてきた。催しの来場者、ボランティア、登壇者、さまざまな協力者など、人との接点が多い私たちがもっとも忌避すべきは、惰性や倦怠に陥り、挑む心を持たなくなることだ。小さな事務局だが、役割も責任も得られる果実も、自分が考えてきたよりずっと大きいと今は感じている。

(はっとり・なおあき 水俣フォーラム)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?