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ステレオタイプの科学 影響されないための本

社会の刷り込みは成果にどう影響し、わたしたちは何ができるのか
Claude M Steele 著 英治出版 2020年4月初版 2021年12月23日読了

誰もが何らかの形で、日々「ステレオタイプ脅威」を経験している。

それは霧のように、人についてまわり、自力で振り払うのは難しい。

アメリカでの人種差別観を中心に、ステレオタイプのネガティブな影響により
日々の生活で誰しもが無意識のうちに陥る心理状況について、
心理学者である著者が様々な実験を通じて解説。

歴史的に一般通念とされてきた、

「女子は男子よりも上級数学が苦手」
「黒人は白人よりも暴力的で知的能力が低い」
「白人は黒人よりも走るのが遅い」

などの固定概念は当事者の心の中に根付いており、
学校での成績や対人関係に直接的に影響することが証明された。

それはしばしばマイノリティの立場で起こりやすい

ネガティブなイメージを反証しなくては、という過度のプレッシャーから、
マジョリティ側の人間に比べ注意力散漫になったり、
自信喪失を起こしたり、無力感を強く感じたりしてしまう。

そのような状況では本来の実力が発揮できず、
皮肉にもそのネガティブなイメージ通りの結果を招き更に自信を失うことになる。

トップレベルの成績で入学した優秀な1人の黒人学生が、
白人学生が多数を占めるキャンパスで、
数学の難題に人一倍の時間をかけて努力する例がある。

早いうちから友人同士で解法を相談し合う白人やアジア人学生に比べ、
1人で相談できずに黙々と作業した結果、不思議と成績が劣っていくのである。

ステレオタイプ脅威は、自身の出自や肌の色、
性別から生まれるアイデンティティ付随条件により発生する

ステレオタイプ脅威を取り除くには、
当事者にこれから起こる出来事がステレオタイプとは無関係で、
公正に評価される点を説明することや、
異なる立場の人間との積極的に意見交換を通じて、
マイノリティ側だけの悩みや不満ではないことに気づかせることが有効である。

また、自らのアイデンティティを見つめ直すことで誇りを持ち、
周囲の他のアイデンティティと劣ることがない点に気づくことも効果的である。

書中での実例でも特に、「リーダー職に女性が向かない」
というステレオタイプが一般的である部分に共感した。

会社の中でも唯一の女性リーダーが働く場合、
どの男性リーダーよりも優れていなくては、
次の女性リーダーの模範とならなくては、など多くのプレッシャーがかかる。

これはマジョリティ側の男性にとっては意識することのないプレッシャーであり、
耐えられる人間は少ないだろう。

当然、無意識にネガティブな影響を受けた女性リーダーは本来の実力を発揮できず、
男性リーダーよりも低い評価を受ける事態となる。

予め評価者が女性リーダーに対し、
忌憚なく意見を述べられる環境や心理的安全性を確保することが必要である。

アメリカ社会での「ポスト人種社会」とも言われたオバマ大統領誕生を経て、
トランプ支持層が2016年の選挙時に約35%にも渡ったことには驚く。

それにはいくつかの背景が語られているが、
ステレオタイプ脅威疲れ」が一因であると考えられている。

「これ以上気を使うのはごめんだ」
「マイノリティなんか気にせず言いたいことを言えばいい」

という気になった有権者が、トランプのことを正直者だと判断したのである。

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