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(詩)リンボにて

リンボにて 

白壁の長い廊下を
健康的な白衣の看護師が先導し
重い鉄扉を開けて
画像診断室に案内する

ベッドに寝かされたまま
大きな機械のトンネルに入れられる
それはどこか焼場の炉に似ていた

「今から造影剤を注射します
 体が熱くなりますのでご注意ください」

腕に刺された針から
刺激性の薬液が入ってくる

造影……ぞうえい……

ゾーエーは
ギリシア語で生命のことだったな
そんなことを考えていると
全身が燃えるように熱くなった

頭上のスピーカーから
機械の声が降ってくる
 
「息を吸ってー  吐いてー 止めてください」

箱の中の呼吸せぬ肉となり
燃やされ
読まれ
記録され
解釈される

「はい終わりました お疲れさまでした」

火葬炉からスライドして出されると
ゾンビのようにふらふらと起き上がる

待合室に戻ると
長椅子に無表情で何体も座っている
他のゾンビたちの間に腰を下ろす

細長い待合室は
窓から差す光で半分だけ明るかった

消毒薬の匂いに混じって
微かに確かに漂う死臭
待合室のスピーカーからは
二四〇年前に死んだ男の音楽が
流れてくる

右か左か 分かれ道に立ち
生と死の境目をさまようおれたち
だが今日のところは
とりあえず生き延びることができた
のかもしれない

生老病死のワルツは続く
白く清潔なリンボの中で


*リンボ(辺獄)――カトリック教会で天国と地獄の間にあるとされる領域。

(MY DEAR 334号投稿作・改訂済)


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