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2022年12月の記事一覧

生の音

ゴロゴロと鳴るお腹の音を 他人のように聞いていた 生きたいという私の声 私はそれを無視したい 体と心は別物だ 私は停止を願うのに 体は再生を求めている 仰向けになった部屋にひとり 無防備に毛布にくるまって 胎内で眠る赤ちゃんのように こんこんと眠り続けたい 誰にも起こされず誰にも産まされず 孤独に死と生を感じていたい 向こうで鐘の音のような風が吹く 温かい冷風が流れては 街の体温をめちゃめちゃにする 荒れた世界と止まった時計

生きる

剥き出しのナイフひとつで 世界へ立ち向き合うのだ 私達はただ個で孤で唯一 見えるものは自分の世界だ 神すら敵すら自分のもの それは有刺鉄線で守られた まるで柔らかな鳥の巣のよう そこに御座すは天使か悪魔か どちらにもなれる卵がひとつ 子犬の舐めるミルクの匂い 仔猫の鳴き合う甘高い響き 囀る雀のじゃれあいと 羽音煩い蠅の飛び合い 世界はどんどん広がってゆく Z軸を超え軸を増やし 私が歩むスピードより速く 勝手にその裾を広げてゆく 天使か 悪魔か 神か 敵か 私が出会う者

雪が降る頃

舞い散る枯れ葉が白い雪に変わる頃 お元気ですか 風邪など引かれていませんか 粉雪が牡丹雪に変わるのを見てふと あなたのことを思い出しました 積もりそうにない粒子状の氷は 溶けるより早く多くくっついて 冷たい土台を作ります その上に大きく柔らかな わたあめのような雪が積もり 朝には地面や屋根を真っ白に染め上げていました ワイパーが上がった車や 駐車場の隅に寄せられた雪山や 雪の重さで下を向いた木の葉や ざりざりという雪と氷の混じった足音が 冬はこういうものだったと思い知らせるよ

ウェアラブルデバイス

こちらの体調のしんどさなどお構いなく ウェアラブルデバイスは定期的に運動を促してくる 余計なお世話だ 私は無駄に飲み込んでしまう空気と 無意識に食いしばってしまう奥歯と 頭の奥から響いてくる鈍痛と それらをどうにかしてやりすごそうと 一生懸命なのだ 運動してこれらがなくなるなら喜んでするが 生憎マシになったことはない 運動は体にいいというそれは間違ってないだろうが 少なくとも今すべきことではない この高性能の腕時計だって 今私がすべきことを正しく指示できるわけもなく 私自身そ

そして、息をする

忙しい日々は呼吸することを忘れてしまいそうになるほどだ 息抜きというがその時間さえ満足に酸素を吸えてない そして夜になって息苦しくなって そこでようやく息を吸う お腹が 胸が 膨らむ 呼吸をしている 明日は息をしよう いつもそう思って いつも忘れている

冬の寒さ

気づけば冬になっていた 水道の水が冷たくなり 唇が乾燥しカサカサになり 体に力がこもって肩こりになり それでも僕は冬に気づいていなかった 鼻水が出て咳が出て 頭痛がしてやっと気づいた 寒さは僕を覆っていた 毛布を被っても寒さはその下に入り込んで 僕の体を冷やそうとする 冷たくなっていく僕の体 死んだらこの冷たさよりもずっと 冷たくなるんだろうか 試しに毛布を剥いでみた 一度気づいてしまうと不思議なもので 僕の体は寒さに震えた

冬の不思議

ほうと息を吐けば白く染まり 自分が生きていることを自覚させられる 己の体温で温まった空気 外気に晒されればすぐに冷えて透明になる けれど私の体は どれだけ冷えても透明にならない 宙に溶けて消えていかない 白い雪の上に続く足跡 私が歩いてきた証 冬は不思議だ 自分の生を実感させられる

年の瀬

スーパーはもうクリスマスを通り越して正月気分で シャンメリーと鏡餅が並んで売っている 今年ももうすぐ終わるのだ 終わりは新たなはじまりでしかない 私たちはいつも何かを終わらせている ずっとその繰り返し その繰り返しもいつか終わる 私たちは終わりに向かって ずっと歩き続けている

吐息

吐く息は白いのに 吸う息はどうして白くないのだろう それは吐く息に その人の体温が含まれているからだ 吐く息の白さはその人のあたたかさ 吐く息の白さはその人が生きている証 かじかむ手にはーっと吹きかければ その手には生きたあたたかさが伝わって 少しだけ熱を取り戻す それは生の循環