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恋人

noteに書いてみたいことはたくさんあるのだが、やはりまずは自分の中でとても大きな存在である、わたしの恋人について書くことを決めた。家族でも親友でもなく、恋人のことを最初に書こうとするあたり、自分は本当に恋人のことが好きなのだなあ、と思う。長くなることはもはや最初から分かり切っているが、読んでいただけたら幸いである。




わたしが恋人と出会ったのは、2023年1月18日。もう1年も前のことなのでそこまで鮮明には覚えていないが、どうやら偶然Tinderでマッチしたようで、なんとなくやり取りを始めた。当時の私は完全なるヤリモクでTinderをやっていて(この時のことに関してはまた追い追い別の記事に書こうと思う)、恋人のこともたまたま右スワイプをした、というくらいだった。恋人は「あおい」という名前でTinderをしていたので、仮に「あおいくん」とする。


あおいくんはTinderに顔を載せておらず、雰囲気写真だけだった。一年前のわたしは、「音楽好き」「雰囲気or顔が好み」「ドライブ好き」という条件のみで相手を探していたので、そのときもあおいくんの雰囲気とプロフィールだけを気に入って右スワイプしたらマッチした、という程度である。
そして人生を舐め腐っていたわたしは、あろうことか「男からメッセージが来ない限り会話をしない」というクソみたいなルールを作っていた。そして平日の夜に来たメッセージを適当に返していたとき、たまたま返信が速かったのがあおいくんだった。


その日は課題もなく、暇をしていた。あおいくんも暇だったようで(あとで聞くに筋トレをしていたらしい)、メッセージのやり取りは30分近く続いた。Tinderで即メッセージが返ってくることがあまりなかったため、珍しいな、と思いながらしばらく話す中で、面白いことが分かってきた。「どこに住んでるの」と聞かれたので「駅前」というと、「駅前にアパートないよね」と返ってきた。そのためシェアハウスの話をしたら、なんと徒歩10分もかからない場所に住んでいた。しかもあおいくんは某ガス会社で働いており、シェアハウスのガス乾燥機を設置するなど工事に関わっていた。管理人さんも知っているという。



話しているうちにだんだんと楽しくなってきてしまったわたしは、とうとうあおいくんとLINEを交換した。クソルールの2つ目に「会った人としかLINEを交換しない」というのがあったが、このときから既にあおいくんは例外だった。そして話すこと1時間弱。軽いノリで「今からでも会えるよ」と言ったら、なぜか会うことになってしまった。これがすべての始まりである。



駅前で待っていたら、ガタイのいい男がおずおずと近づいてきた。第一印象は「おとなしい、清楚、身長高い」。正直顔はタイプではなかったが、優しい雰囲気を持つ人だった。特に行くところがなく、車に乗って少し遠くのドンキに行くことになった。


今思えば、Tinderで会った人にすぐ住所や家その他を教えるなんて、とても危険だし絶対そんなことはしない方がいい。でも、その時のわたしは、なんというか、狂っていた。貞操観念なんてものは生憎持ち合わせていなかったし、自分なんてどうでもよかった。何も守るものはなくて、ただゆらゆらと生きていたように思う。



ドンキに向かう車の中で、いろいろなことを話した。その時に他の人とは何か違うものを感じたことだけうっすらと覚えている。ともかく楽しくて、気が付いたら会話に夢中になっていた。そして気が付いたらドンキに着いていた。


特に目的もなくドンキの中を2人でふらついて、わたしの好きなブルーハムハムのガチャを2人でやって。「こんなの出た!」って2人で笑いあって。きっと周りからしたら初対面とは思えないほどの仲の良さだったと思う。


車に戻った後、あおいくんが黙ってやけに真剣な顔をしていたので「どうしたの?」と聞いたら、「水面ちゃんのことが好きかもしれない」と言われた。正直「え、」と思った。わたしはその時、Tinderで会った男に1か月も経たず捨てられた後で、彼氏など欲しくなかった。それどころか人を信じられなくなっていた。他にも告白してきた男はいたが、そういう男は面倒なので全員連絡を絶っていた。このときもまたか、展開が速いな、くらいであまり大げさには捉えていなかった。どう返したかは覚えていないが、おそらく「ありがとう」くらいだったように思う。



そして本当にあおいくんとの時間が楽しかったわたしは、あろうことか次の日も会うことを提案する。





「どこに行きたい?」と言われたので、以前別の男と行った夜景の綺麗な公園に行きたいと言った。そして本当に連れて行ってもらった。1月19日のことである。その日は晴れていて星も綺麗で、夜景を見るには最高だった。



暗いところに2人。その距離数十センチ。男に対して謎の偏見を持っていたわたしは、てっきり手でも繋いでくるものだと思っていた。他の男だったら絶対そうしてきた。大胆な奴だったらキスまでしてきたかもしれない。


でもあおいくんは違った。何もしてこなかった。触れてすら来なかった。ただ隣で夜景を見て終わったのである。


なんでだろう、と思った(非常に失礼だが)わたしは、車に戻ったあとも何故かもじもじしているあおいくんに、「なんで?」と聞いた。すると「積極的にいろいろして嫌われたくない」という答えが返ってきた。でもわたしはその時にはもうあおいくんと距離を縮めたくなっていた。散々迷った挙句、「手、つなぐ?」と言って自分の手を差し出した。珍しいこともあるものである。


あおいくんは「!」という顔をして、それからそっと手を握ってきた。

まるで壊れそうなものを扱うように、大切に、そっと。
ゆっくりと、恋人つなぎをした。

温かい、手だった。



手をつないで、勇気が出たのか、あおいくんは次の提案をしてきた。キスとハグができる場所に行きたい。ラブホに行きたいと。


ひねくれ者のわたしは、はあ、やっぱりか、と思った。ラブホに行ったら絶対セックスをする流れになるに決まっている。その時わたしはセックスのし過ぎで感染症にかかっていたため、正直ラブホにすら行きたくなかった。でもこのまま帰りたくもなかった。他に行くところもない。承諾した。



近くのラブホに入った。綺麗な部屋だった。ちょっと距離を置いたところに座って、少しずつ近寄って行った。「手をつなぐのは水面ちゃんが提案してくれたから、ハグは僕からしたい」とあおいくんが言ったので、わたしは待っていた。




あおいくんは、ゆっくりと、ハグをした。
温かった。
心の底から安心するような、不思議な感覚。


そっと、キスもした。
柔らかい、優しいキスだった。
幸せだった。
空っぽだった隙間が埋まる感じがした。





そしてあおいくんは、それ以上のことをしなかった。






わたしは、この人に、大切にされている、と思った。
自分が忘れていたものだった。






気が付いたら毎日会っていた。いろんなところに行った。カラオケもしたし、買い物にも行った。遠出もした。ともかく楽しかった。時間はすぐ過ぎ去った。セックスもした。やっぱりあおいくんは優しかった。その時にはもう、あおいくんのことが好きだった。




いろいろな話を聞いた。あおいくんは前の彼女に浮気をされて捨てられたこと。どうでもよくなって女の子と遊んだこと。家庭も仕事も苦しくて、自律神経失調症と不眠症を患ったこと。眠ろうとすると体が震えて眠れなくなってしまうこと。加えて体調も悪かった1月3日に、前の彼女が家を出て行って、すべてに絶望したこと。片手に睡眠薬をたくさん持って、遺書代わりに母親に電話をしたこと。あおいくんは全部教えてくれた。同い年なのに、わたしより何倍も苦労しているあおいくんを、わたしが守りたいと、思った。わたしが、幸せにしたい、と。









そして、1月29日。
わたしはその日、ある人に会いに行く予定があった。

わたしには、沼のような存在の人がいた。どこかつかみどころがない、でも優しくて、無邪気な笑顔を持つ人だった。名前も知らないのに、わたしはその人のことがぼんやりと好きだった。でも、その人はわたしのことを何とも思っていなかった。Tinderで出会った元彼と付き合ったときも、その人の連絡先だけは消せなかった。元彼と別れてから、すぐ連絡を取ったくらいだった。

沼と会う約束をしていた後に、あおいくんに出会ったが、まだあおいくんとは付き合う前だったので、約束を断っていなかった。あおいくんにそのことを話すと、とても不安そうな、泣きそうな顔をしていた。その時点でわたしは沼になんて会おうとしなければよかったのである。でも、その前にも再三沼との約束をいろいろな事情で蹴っていたわたしは、何故か沼に対して申し訳なさを感じて、律儀にその約束を守ろうとした。


あおいくんに「沼とはちゃんとお別れしてくるから大丈夫だよ、わたしはあおいくんが好きだよ」「後で会おうね」と伝えて、家に帰り、沼に連絡を取った。すると、車の調子が悪くて会えない、また今度にしよう、というので、好きな人ができたこと、今度こそ連絡を絶ちたいということを伝えて、ブロックさせてもらった。




あおいくんにすぐ電話をかけて「会うのやめたよ」「ちゃんとブロックしたよ」と伝えると、あおいくんは「行くね」と震えた声で言って、わたしを向かえに来てくれた。そしてそのまま近くの公園に行った。



「僕と付き合って」



そう言って、私にネックレスをくれた。お揃いの4℃のネックレス。

あおいくんは、泣いていた。精神安定剤をODしていた。








これがわたしと恋人の始まりである。
ほぼ恋人の一目惚れで始まったのに、今ではわたしの方がベタ惚れなくらいで、ほとんど喧嘩もせずにもうすぐ一年を迎える。毎日会う日々はちっとも変わっていない。


恋人のすべてが愛おしくて、食べちゃいたいくらい愛おしくて、本当にもう、なんというか、溺れている。

世界一大好きな人の隣にいられることの幸せを、日々かみしめて生きている。わたしの人生は恋人の存在で大きく変わった。何も考えずにゆらゆら生きていた日々は終わった。

これからも、ずっと、恋人の隣で笑っていたい。



恋人へ、

世界一愛しています。
あなたのことはわたしが幸せにします。
だからずっと一緒にいて。











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