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「地域で障害者が活躍できる場をつくりたい」フリーランスの講演家として活動する、脊髄性筋萎縮症(SMA)当事者の鈴東裕己さん

「障害とは何だと思いますか?」

インタビュー中そう問いかけてくれたのは、学校や企業で障害者理解をテーマにした講演活動を続ける鈴東裕己(すずひがし・ゆうき)さん。筋力が落ちていく進行性の難病である脊髄性筋萎縮症(SMA)の当事者として、参加者との対話を大切にした講演を行っています。2017年には初の著書となる『MADE IN MYSELF』を出版。そんな鈴東さんに講演にかける思いやこれまでの経験、挑戦したいことを聞きました。

価値観を見つめ直せる時間を届けたい

—— 鈴東さんは学校や企業で講演をされています。どんな思いで活動を続けているか教えてください。

今の社会では障害のある人と出会う機会が少ないんです。人間は知らないことに対して、不安を感じやすいですよね。僕は知らないがゆえに感じる恐怖が障害だと思っています。全てを理解するのは難しいかもしれませんが、少しでも知ることで障害はなくなっていくのではないでしょうか。だからこそ、講演では出会って知ることが大事だと伝えています。僕との出会いを通じて、障害を身近に感じてもらえたらいいなと思っています。

—— 知ることが大きな一歩なのですね。

僕は講演を通して、価値観を見つめ直せる時間を届けたいんです。自分を見つめ直す時間ですね。僕の話を聞いて「障害って自分とそんなに遠いものじゃないんだな」と感じてもらえたら嬉しいです。新たな視点に気づく時間になったらいいなと思っています。

だからこそ、僕は講演の中で質問することを大切にしているんです。考えてもらうきっかけをつくりたいんですよね。講演というと一方的に話を聞くイメージがあるかもしれません。でも、それだとどうしても話が自分ごとになりにくいんです。

質問をすることで、参加者の方が自分の考えを深められるようにしています。そうすることで、自然と自分との対話が生まれるんですよね。「あなたにとって障害とは?」など、いろんな問いかけをするようにしています。

—— 具体的に、講演ではどんなお話をされるのですか?

これまでの経験や僕が感じてきたことを話すことが多いです。例えば、外食するときにどうお店を選んでいるかを話したこともあります。「みなさんは外食するときにどうやってお店を選びますか?」と問いかけたうえで、僕のケースを伝えました。僕の場合「車椅子で入れるお店か」「お店の中や近くに多目的トイレがあるか」「自分が食べられる食事があるか」を考える必要があるんですよね。

ホテルのスタッフさん向けの講演では「介助者だけと話すのは避けてほしい」など、障害のあるお客さんと接するときに気をつけてほしいことを話したり、実際にロールプレイをやったりしました。他にも、僕がどんな1日を過ごしているかや社会の中で感じてきたバリア、周りの人にどんな接し方をしてもらったとき嬉しかったかなど、いろんな話をしていますね。質問やクイズを交えながら講演をしています。

—— 社会の中で感じたバリアについても話されているのですね。

僕は大きく分けて3つのバリアがあると感じています。ひとつは、物理的なバリアです。車椅子に乗っていると移動が大変なんですよね。まだまだ車椅子ユーザーが移動しやすい環境が整っていないことが多いんです。

心理的なバリアもあります。障害に対してネガティブなイメージを持っている人は多いので、障害者は受け入れてもらいにくい現状があります。お互いを知り合える機会がまだまだ少ないのかなと思いますね。

制度上のバリアもあります。例えば、重度障害のある人がひとり暮らしをしたいと思っても、365日24時間続けてヘルパーを利用することが難しかったり、深夜対応ができる事業所が少なかったりします。需要と供給のバランスが取れていないために、家族に頼らざるを得なくて、ひとり暮らしが難しいケースも多いです。

自分にしかできないことがある。フリーランスとして独立

—— 講演活動を続けるモチベーションは?

ひとつは、講演の前後で相手の変化が見えることです。小学校で講演をしたときは、休憩中に子どもたちが勇気を出して僕に話しかけてくれました。そういう変化を感じられると嬉しいですね。

それと、参加者の方からもらう感想もモチベーションにつながっています。僕の話を聞いてくれる人の中には当事者の方もいて「これまでは障害のある自分が嫌でしたが、今の自分で良いんだと思いました」という感想をもらいました。

他にも「これまで自分の病気を周りに打ち明けられずにいました。障害にはネガティブなイメージを持っていましたが、もっと前を向いて生きていきたいと思いました」という声をもらったこともあります。すごく嬉しかったですね。

—— 鈴東さん自身も、障害への捉え方が変わった経験はありますか?

思春期の頃は、自分の障害に対してネガティブなイメージを持っていました。「障害があるからできない」と、できないことに注目してしまっていたんです。当時は辛かったですね。でも、20歳を超えてからいろんな人と出会うようになって、徐々に考え方が変わっていきました。「できないことがある自分もええねんな」と思えるようになったんです。

まず、専門学校時代の友だちの存在は大きいですね。これまでは「この人にお手洗いの介助を頼んでいいのかな」「ご飯を食べさせてもらって大丈夫かな」と気になって、介助を頼みにくいことがありました。でも、その友だちは僕のサポートを抵抗なくやってくれたんですよね。介助のことを気にせずに遊べる初めての友だちでした。すごく良い出会いだったなと思いますね。

前職の上司との出会いは、特に印象に残っています。フリーランスになる前は、専門学校でボランティアコーディネーターとして働いていました。そのとき、障害上うまくできないことがあって「自分はみんなに迷惑をかけてしまう」と泣いて話したことがあったんです。そのとき「そんなことない。鈴東くんにしかできないことがある」と言ってくれたのが、当時の上司でした。

—— 素敵な出会いがあったのですね。まさに、講演活動は鈴東さんしかできないことだと思いました。

フリーランスになったのは、自分にしかできないことをやっていきたいと思ったからです。病気の平均寿命を迎えたこともあって、後悔しない人生を送りたいと思って独立しました。やらないで後悔するなら、やって後悔しよう、と。元々人前に立って話すのが好きだったので、障害者理解をテーマに講演活動をすることにしました。

障害者と地域を繋ぎたい

—— これから挑戦したいことはありますか?

まず、障害者の就労をより良くしていきたいです。その理由は障害があるという理由で、僕自身就職活動がうまくいかなかったから。一般雇用の面接を受けても、落とされてしまうことがほとんどでした。

障害者雇用の職種が少ないことにも課題を感じています。今は事務職が多いんですよね。障害上、働くうえでサポートが必要なこともありますが、本人ができることはもっと多いと思うんです。

当事者と会社の間でコミュニケーションを取ることが大事なのではないでしょうか。今は当事者側はどう会社を頼っていいかわからず、会社側はどう障害者を受け入れたらいいかわからないという悩みがあるのかな、と。僕は当事者と会社の間に入って、本人が自分らしく働ける方法を一緒に探していきたいです。どうしたら障害のある人が自分のやりたい仕事をできるようになるか考えていきたいですね。

僕には事務の仕事をしている車椅子ユーザーの友だちがいます。でも、彼は営業をしたいと言っていて。彼だったら営業の仕事ができると思うんです。彼の良さを活かせていないのが、僕自身すごく悔しくて。少し工夫すればできることって本当にたくさんあると思うんです。そんなことを一緒に考えられる人になりたいですね。

—— 誰もが自分のやりたいことができる社会にしていきたいですよね。

地域の中で当事者が活躍できる場もつくっていきたいですね。障害のある人が地域に出て行って、つながりをつくっていける仕組みをつくりたいんです。そんな場を日本中につくっていきたい。それが僕の最終ミッションですね。地域の人が障害者と出会うことがすごく大事だと思っているんです。僕がやっているような講演活動を、他の当事者の方ができるような環境も整えていきたいです。ゆくゆくは会社を立ち上げたいですね。

障害の有無に関わらず、今は誰もがしんどさや生きづらさを感じやすい時代なのではないでしょうか。「そんなところがあってもいいやん」とお互いの存在を受け入れ合える社会をつくっていきたいですね。

▼鈴東さんへの講演依頼はこちらから

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鈴東裕己さん
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