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話したいと思ったときに、病気のことを安心して話せる社会へ。口唇口蓋裂支援団体 笑みだち会代表・小林栄美香さん

学童の児童指導員として、小学生の子どもたちと関わりながら、口唇口蓋裂支援団体である特定非営利活動法人笑みだち会(以下、笑みだち会)の代表をつとめる小林栄美香(こばやし・えみか)さん。どのような経緯で今の活動を始めることになったのでしょうか。栄美香さんが子どもの頃に感じていたことや、現在のご活動、これからについて伺いました。

口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)
何らかの複雑的要因により、生まれつき、唇・歯茎・上あご等に裂け目がある疾患を指します。ミルクが飲みづらい、言葉が発音しづらいなどの症状があることもあり、日本では約500〜600人に1人の割合で出生すると言われています。複数回の手術が行われ、治療は長期間にわたる場合が多いです。

病院に行く度にストレスで腹痛にー病気の影響は精神面や学校生活にも

子どもの頃から、手術や矯正治療を繰り返し受けてきたのですが、私の場合は精神的な負担が大きかったです。毎月病院に行かなければならなかった小学生の時期は、病院の玄関が見える度にお腹が痛くなりました。「今から治療を頑張らないといけないんだ」と治療を受けることにプレッシャーを感じていました。

でも、嫌でも今より症状を良くするには治療を受ける必要があり、その事実を受け止めるのに、たくさん時間がかかりました。毎月お腹が痛くなりながら、病院で治療を受けているにもかかわらず、数年毎に手術をしなければならないことにも、大きなプレッシャーを感じていました。一回の手術を受け終わっても次の治療の話が始まり、楽しい思い出もたくさんありますが、病院は「怖い場所」というイメージでした。

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(提供写真:中学生の頃の栄美香さん(写真左)。「自分に自信が持てず笑顔が少なかった」と当時を振り返る。)

精神面だけでなく、学校生活にも病気の影響がありました。小学生のとき、友だちと公園で遊んでいると、知らない子に外見を指摘されることがあり、萎縮してしまった経験があります。そんな状況の中で育ってきたので、中学2年生になったときに、「口唇口蓋裂を持っている自分はみんなと違うんだ」と思い、クラスに馴染めず学校に行けなくなりました。

高校は仲の良い友だちに巡り会えたので、頑張って学校に通うことができましたが、一緒にいる友だちに迷惑をかけるのではないかと思っていました。例えば、友だちと遊びに行ったとき、知らない人に二度見されることがありました。周りから指をさされたとき、自分のせいで友だちが嫌な思いをしているのではないかと感じました。高校生のときは、そう考えてしんどくなることもありました。

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学童で病気について子どもたちに説明するー病気について知る機会の必要性

学童で働こうと思ったのは、口唇口蓋裂のある子どもも含めた今の小学生が、どのような気持ちを抱えながら学校生活を送っているのか知りたかったからです。笑みだち会での活動で、保護者の方の話を聞かせてもらうこともあるので、子どもたちがいろんな気持ちを抱えながら頑張っていることを代弁できる人になりたいと思ったからです。その思いから、児童指導員として働くことに決めました。

私は小学生のときに、2回手術を受けました。また、中学や高校に入ってから受けなければいけない治療について考える時期も、小学生のときでした。私は当時治療のことを嫌だと感じたり、友だちに自分のことをどう思われるか考えたりしたので、今の子どもたちもそのようなことを感じているか学ばせてもらいたいと思いました。

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今はマスクをつけていて、子どもたちに手術の傷は見えませんが、これまでは子どもたちに手術の傷跡について尋ねられることがありました。最初私に質問をしてくれた子どもは、意地悪ではなく単純に気になったという理由で、私に声をかけてくれました。

子どもたちに病気について聞かれたとき、「今伝えるべきだ」と思って、口唇口蓋裂について一つひとつ説明するようにしていました。そうすると、子どもたちは病気について理解して「そうなんや」と話してくれます。他の子が私に質問したとき、私の病気について知っている子が「先生の顔の傷は手術で頑張った証拠やねんで」と言ってくれて。こういう会話が社会に溢れたらいいなと思いました。

子どもの頃から口唇口蓋裂という病気について知る機会を持つことが、病気のある人にとってより生活しやすい社会の実現につながると思いました。私の話の後に、自分の病気について話してくれる子どもたちもいて、こんな会話をもっと広げていきたいと思った瞬間でした。

私は口唇口蓋裂についていろんな人に話していますが、誰もが自分の病気について打ち明ける必要はないと考えています。自分の病気について話すか話さないかは、それぞれの方の思いが尊重されてほしいです。

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同じ立場の方やかぞくに、オンラインでピアサポートの場を届ける

笑みだち会では、口唇裂・口蓋裂疾患のある方やファミリーに、横のつながりをつくることを意識して交流の場を設けています。今活動の柱となっているのが、オンラインで交流する「オンライン笑みだち会」です。

月に1度のペースで開催していて、本人の部とファミリーの部があります。本人の部は、当事者の方を対象にしていて、感情に共感することを大切にしています。ファミリーの部は、口唇裂・口蓋裂疾患のお子さんを育てる保護者の方を対象にした交流会で、子育てに役立つ情報を共有したり、悩みを聞いたりしています。

徐々に横のつながりができていっていると、活動の中で感じています。オンライン笑みだち会がきっかけとなって、手術や通院を決めたという声も聞きました。私自身もオンライン笑みだち会での出会いが勇気になって、手術を受けようと決心でき、今年の3月に手術をしました。

交流の場以外に、今後も啓発活動に力を入れていきたいです。当事者の自己肯定感にも影響する病気への偏見・差別を断ち切りたいという思いがあるからです。

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個人の活動として、傷をメイクでカバーする方法を伝える講座も開催してみたいです。メイクに救われた経験を届けていきたいです。

口唇口蓋裂は500〜600人に1人の割合で発症すると言われているほど身近な病気。それにもかかわらず、口唇口蓋裂のことを話すには、勇気が必要だという声がまだまだ聞かれます。もっと口唇口蓋裂について話しやすい社会になってほしい。そのために、これからも笑みだち会の活動を続けていきたいと思います。

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関連情報:
・小林栄美香さん Twitter Instagram ブログ
特定非営利活動法人笑みだち会

(聞き手・写真:田中美奈)

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