目蓋の裏#1

エスカレーターがあるとして、上へ向かっていく階段には人が乗っていて、下へ向かっていく階段には犬が乗っている。
人は上昇中、イヤホンで音楽を聞いていて階上の突っかかりが近づいていることに気が付かない。
犬は下降中、家の主人を食べることに夢中で、階段の境に涎が染み込んでいることに気が付かない。
その時、建物の屋根からカラスが落ちてきて人の頭蓋に衝突した。
人は、上昇中の階段からバランスを崩し、下降中の階段の犬の上に落ちてしまった。
犬はその時涎を垂らしていたので、足が濡れていることに夢中で、頭上で何が起きているのか気が付かない。
下降中の階段の犬の上に落ちてきたカラスに衝突して落ちてしまった人は、階段が下降中なので犬の真後ろの段の角に頭をぶつけてしまった。
そして、人の体は足で犬の首を挟み、胸は下降中の階段の境に、腕はエスカレーターの横の耐ガラスを突き破り、股関は犬の下半身の排出する部分に収まってしまった。
犬は中に入れられた衝撃の余り、それまで垂らしていた階段の涎を全て舐めとり飲み込んでしまった。
その時、エスカレーターのレーンの中にある電子部品も飲み込んでしまったため、人体と犬体は、人体の脳と犬体の中で仲介役と化した電子部品と犬の中の脳が送受信し合い、人と犬の複合体が誕生した。
その後、8足で歩く複合体は、犬のように歩く度、涎を垂らしていたので、外の音を聴きながら、主人を殺しに行ったのだった。

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