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2005年、企業型DCの導入をきっかけに投資を始めた60代女性会社員が今感じる幸せ

コツコツ投資家さんのインタビュー。今回は大手建設会社に勤務する早川友子さん(仮名・62歳)のストーリーです。

早川さんは著書『臆病な人でもうまくいく投資法-お金の悩みから解放された11人の投信投資家の話』に登場するおひとり。当時50代だった早川さんは60歳で定年を迎え、そのまま同じ会社でフルタイムで働いているそうです。

やわらかい雰囲気をまとう早川さんは「特別なことは何もしていない」と謙遜されていましたが、投資を始める際に目標金額を設定したり、最近は後輩の社員に企業型拠出年金を活用するようアドバイスしたりと、参考になるお話が満載でした。

仕事帰りにお時間をいただき、東京・表参道のカフェでケーキセットを食べながら、投資のこと、ライフプランなどについてお話をききました。


きっかけは会社で確定拠出年金が導入されたこと

――改めて、投資を始めたきっかけは何ですか。

早川:勤務先の会社の企業年金制度が確定給付型から確定拠出型(以下、企業型DC)に変わったことがきっかけです。2005年に、広い会場に従業員が集められて、担当者から企業型DCの制度や運用する商品について説明を受けました。

説明のあと、「あとは自分で(資産配分や運用する商品を)決めてくださいね」と言われたものの、内容がまったく理解できず、「どうしたらいいの?」と途方にくれました。

――それまで、投資経験はなかったわけですね。

早川:はい。補助がでるので持ち株会には入っていましたが、それは投資という感覚ではなかったですし。

自分で竹かごを編むのが趣味。1つ作るのに3カ月かかることも。
取材当日も一つ持ってきてくれた

本を読んでセミナーに参加

――そこからどんな行動をしましたか。

早川:翌年(2006年)にDCが開始されるまでに少し時間があったので、書店に足を運び、目にとまった渋井真帆さんの『女を磨くマネー塾』と、新聞広告でみた内藤忍さんの『資産設計塾』を購入。おふたりのセミナーにも参加しました。

経済や政治の状況によってお金の流れがどう変わるのか、資産運用をするための具体的な方法やポートフォリオの作り方、分散投資の考え方などを教えてもらいました。

当初は企業型DCの運用だけを考えていましたが、勉強するうちに「72の法則」を知って、自己資金でも運用しようと思うようになりました。

――72の法則というのは「72÷金利」で計算すると、お金がおよそ2倍になる期間がわかるというものですね。

早川:そうです。例えば、定期預金だけに預けた場合、金利が0.02%なら「72÷0.02」でお金が2倍になるに3600年もかかることに愕然としました。でも、仮に3%で運用できれば約24年、6%で運用できれば約12年で2倍になります。

証券口座を開設し、投信の積み立てを開始

早川:そこで、マネックス証券に口座を開設。勉強代だと思って、まずは10万円で投資信託を購入してみました。仕事をしているし、それくらいのなら減ってもリカバリーできるかな、と。

資産配分は『資産設計塾』に掲載されていた「国内株式、国内債券、外国株式、外国債券を4分の1ずつ均等に配分する」というモデル例を参考にしました。そのあとは毎月積み立てをしていきました。

――投資信託の積み立てを選択したのはなぜですか。

早川:私、結構面倒くさがりやなので、何かしくみ作りをしないと続けるのは無理だと思ったからです。

幸い、経理担当の人からすすめられて、新入社員時代から給与天引きで社内預金を続けてきたため、まとまった預金がありました。そのうちの一部を証券口座に入れて、そこから毎月自動的に投資信託を買い付けていくしくみにしました。

――順調なスタートですね。

早川:じつは最初の2年くらいはこれでよかったのか自信がもてず、ずっとモヤモヤしていました。

その頃、FP(ファイナンシャルプランナー)のカン・チュンドさんが主催するポートフォリオを組むセミナーに参加したところ、自分がどれだけリスクを取れるのか、どれだけ時間をかけたいのかが明確になりました。たくさん持っていた商品も集約し、スッキリしました。

――現在はどのような投資をしていますか。

早川:マネックス証券で、そのまま投資信託の積み立てを続けています。その後、運用管理費用(信託報酬)の安い商品もでてきましたが、スイッチング(預け替え)などはせず、そのまま同じ商品を保有しています。

友子さんが保有する投資信託など
◆マネックス証券
・日経225ノーロードオープン(アセットマネジメントOne)
・三井住友DS・海外株式ETFファンド(三井住友DSアセットマネジメント)
・SMT 新興国株式インデックス・オープン(三井住友トラストアセットマネジメント)
・米ドル建てMMF

◆直販
・さわかみファンド(さわかみ投信)

・自社株

ずっと同じ商品を保有しているが、運用会社が合併したり、バンガードが日本から撤退したりして、商品名や運用会社名は変わったものも

リーマン・ショックで泣きたい時も

――運用を続けてきて、これまでで最大のピンチは2008年のリーマン・ショックでしょうか。

早川:そうですね。マネックス証券はログインすると、投資している商品ごとにスマイルマークが表示されます。損益がマイナスだと泣き顔で、損益がプラスだとにこにこマーク。そのときは日本債券に投資する投資信託を除いてすべての商品が泣き顔で、それをみて私が泣きたくなりました。

急落直後は動揺が激しかったので、気持ちの整理がつくまでは数カ月の間、口座にはログインしませんでした。ただ、以前相談したFPさんに「積み立ては止めてはだめだよ」と言われたことを思い出し、投信の積み立てはそのまま継続しました。

そして、気持ちが落ち着いたあとは、資産配分を変更しました。

――どういうふうに変更したのですか。

早川:当初は国内外の株式・債券に4分の1ずつ均等に投資していましたが、長期的には株式市場も回復するだろうと思い、株式の割合80%、債券の割合20%に変更しました(国内と海外は半々)。

その配分のまま積み立てを継続してきたので、結果的にかなりふえました。リーマンショックのときに売らずにすんだのは大きかったですね。仕事が忙しかったこともあり、3年ほど前から完全に放置してますが(苦笑)。なので、資産配分は当初決めたものからはだいぶ崩れています。

企業型DCについては、受け取り時期が近づいてきたら、資産配分の見直しを検討したほうがよいでしょうが、それまでは自分が値動きに耐えられるなら、株式100%でもよいのではないか。今振り返るとそう思います。自分は債券も入れてましたが…。

60歳で企業型DCを受け取る

――DCは原則60歳まで引き出せないから、おのずと長期投資になりますものね。運用益も非課税ですし、値動きに耐えられるなら株式100%でもよいかもしれません。その企業型DCですが、今はどうされていますか、

早川:60歳のときに一時金で受け取りました。60歳以降も運用は継続できますが、会社からの掛金はなくなり、口座管理手数料も自分で負担する、ということだったので。

5年ほど前から、ふえた分はそのまま株式投信で運用を継続し、積立元本の部分は債券型の投信に預け替えをしました。リーマンショックのようなことが万一起きたらイヤだな、と思って。そして、受け取る手続きの前には、すべて定期預金にしました。

後輩へのアドバイス

――早川さんの会社では、会社が企業型DCの掛金を出してくれます。活用する、しないで受取額に大きな差がでそうです。

早川:そうなんです。企業型DCを活用して運用する人もいますが、(給料に上乗せして受け取る)前払いを選択している人もいて…。

若い人と一緒に仕事をすることもあるので、あまりしつこく言うのも申し訳ないんですが(笑)、「企業型DCはやってる?」と聞いてます。会社で説明はされますが、私も当時は全然わからなかったですし。

「お給料でもらうと税金で引かれちゃうよ」とか、(加入している人には)「定期預金100%なら、少しでも投資信託にシフトすることを考えたら」と言ってます。

「企業型DCの掛金、若いうちはそれほど大きくないかもしれないけど、毎年のことだから、けっこう積み上がるよ」、「退職した後の不安も和らぐよ」などと言うこともあります。それで、実際に手続きをする人もいますね。

――素晴らしい。経験してきた、同じ会社の先輩が言うと効果がありそうですね。

早川:じつはA4の用紙にまとめた「投資の超基本」というメモを渡しています。投資は「分散投資が基本」ということで、卵は1つのカゴに盛るな!、ポートフォリオ、アセットアロケーション、年に1度のリバランス、そして、知っておくとよいと思って72の法則もいれてます。これって何、と思ってもらって、「あとは自分で勉強してください」と書いてます(笑)

――これをきっかけに若い社員さんが考えてくれて、10年後、20年後に、企業型DCでちゃんと運用してきてよかった、と思ってもらえたら幸せですね。

早川:私自身、DCの導入時に”おろおろ"していた状態から勉強をはじめてよかった、と本当に思っているので。それがなかったら、今、60代になってから"おろおろ"していたと思います。

――ちなみに、企業型DCで運用してきた資産を一時金で受け取って、銀行の預金に置いているのですか。

早川:今はそうですが、NISAで少し運用しようかと思っています。マネックス証券でNISA口座を開設したので、そこで投資をしようと思っています。

まずは「つみたて投資枠」を使い、1本で世界の会社の株にまとめて投資できるインデックスファンドを積み立てていこうと思います。

「成長投資枠」では、勉強してから個別株を買ってみたいです。今は仕事なども忙しいので、もう少し余裕ができたら、個別株投資にもチャレンジしたいですね。

――以前お話をうかがったとき、投資を始めるときに、おおよその目標金額を設定された、とおっしゃってましたよね。

早川:「将来公的年金はいくらもらえるのか」「退職一時金はどのくらいもらえそうか」といった収入面から60歳以降にかかる支出、例えば、1カ月の生活費+αの趣味を楽しむためのお金などを考えて、たりない金額(準備する金額)を算出したんです。

それがだいたい3000万円でした。投資をはじめて10年後には、金融資産は当初想定していた目標金額に達しました。

天然の竹なので使ううちに色が変わってくるのも魅力

――60代になって、今後のライフプラン、マネープランはどう描いてらっしゃいますか。

早川:今の会社で65歳まで働くつもりです。そこまでは給与収入で生活費はまかなえます。

65歳からは公的年金に加えて、若い時に加入した個人年金保険が年間50万円ほど受け取れます。あと、自社株の配当金が年に2回入ります。

私は均等法(男女雇用機会均等法)施行前の世代なので、各支店での採用でした。均等法ができて、ようやく組合にも、持ち株会にも入れるようになったんです。

自社株は毎月購入してきて、配当が出た時は自動的に再投資されるしくみだったので、かなりまとまった株数になりました。今は持株会は脱退したものの、株式はそのまま保有しているので、配当金が入るようになりました。これはちょっとしたお小遣いになるので、嬉しいです。

――投資以外に、お金の使い方で何かこだわりはありますか。

早川:この商品って、どのくらいの費用でできてるんだろう、ということは、前より考えるようになりましたね。商品の向こうには絶対作ってる人がいるじゃないですか。

ちゃんとしたモノにはある程度の費用か必要。安いから買うというよりも、その辺の裏付けがちゃんとあるものを買いたいな、と思います。まあ、全てではないですけどね…。ただ弱いところにしわ寄せがいくのはちょっと違うかな、と。

投資してよかったこと

――改めて投資をしてきてよかったと思いますか。投資以外に何かリターンを得られましたか?

早川:最近は投資自体は放置してますが(笑)、でも、投資を始めた頃に、毎日新聞を読んで、経済や社会のニュースをきちんと知りたいという気持ちは今でも持ってます。

日経平均株価やニューヨークダウ、ドル円などの為替レート、長期金利、ドバイ原油などの数字は毎日B5ノートに記録してます。ロシアのウクライナ侵攻などのイベントがあったら、そういったことも一緒に書いています。

もともとは、渋井さんのセミナーに行ったときに、毎日、日経新聞から一番気になった記事を切り取って、コメントを入れて下さいと言われたのです。ですが、そこまで時間が取れなかったので、今のかたちで続けています。1月から12月までの1年を、年末に振り返るだけでも面白いです。

――ゴールはどこにおいていますか。

早川:9年ほど前に、一番最初に立てた目標3000万円は達成しました。その後、1000万円上乗せした目標を設定をしましたが、そちらもクリアしています。結果的にちょっと驚くぐらいの金額になりました。

本当に、毎月コツコツ続けることが大事だと思いますね。私の場合、ズボラなりの継続がよい方向に転がったのかもしれませんが(笑)。

――運用はいつ頃まで続けようと思っていますか。

早川:運用は70歳までは続けるつもりでいます。今、マンションに住んでいますが、住まいのことも含めて、70歳のときにこれから先のことを一度考えたいと思っています。

独身なので、将来介護施設に入るかもしれないし、ある程度歳をとったらケア付きのマンションに入るほうが安心かもしれません。

ただ、今すぐに決めなくても、その時に利用できるサービスなどを含めて考えればよいかな、と。今よりは融通が利いて、便利になっているのではないか、と思ってます。

ひとりだと入院すると困ることもありますよね。困ったときに助け合えるしくみや、ゆるい繋がりがあるとよいですよね。

編集後記

現状把握と未来をイメージする
早川さん、ご本人はズボラだとおっしゃっていましたが、

・公的年金や退職一時金の見込額を調べたり、生活費などの支出を確認したりして、資産形成する際に目標額をざっくり算出
・65歳まで働く、70歳まで運用は継続するつもりなど、キャリアプランやマネープランをイメージ

されていることは素晴らしいです。そして、その目標の立て方もガチガチに固まったものではなく、柔軟性があるのですよね。70歳になる頃には「今よりは融通が利いて、便利になっている」と考えて、その時点でベターな選択をすればよい、という具合に。未来に対して、ちょっとした希望を抱いて、運用する、生きていくことって大事だな、と改めて思いました。

自分の学びをシェアする
早川さんは会社の後輩に「投資の超基本」というメモを渡しています。自分の学びをシェアしようとする姿勢は素敵ですし、真似したいところです。

126の法則
記事の中で「72の法則」ができてきましたが、これはまとまったお金を銀行預金に預ける、あるいは一括で投資した時にお金が2倍になる期間がわかる簡易な計算方法です。積立貯蓄や積立投資で資産形成を行う時にはこの法則は使えません。そこでもうひとつ覚えておきたいのが「126の法則」です。

これは慶應義塾大学理工学部の枇々木規雄教授が「72の法則」に対応する積立投資のルールとして提案したものです。積立投資を行うという前提のもと、積立元本が2倍になるには「年数×利率≒126」(利率は%)という計算式が成り立つそうです。126の法則についてはこちらのコラムで詳しく解説しています。

最後までお読みいただき、ありがとうございました! 今後もコツコツ投資家さんへのインタビューを続けていく予定です(毎月第2、第4金曜日更新予定)。ご意見・感想などがありましたら、お寄せください。取り入れていきたいと思います。

いただいたサポートは取材に協力してくださる投資家さんへのお土産と、遠くに住む方に会いにいくときの移動代に充てたいと思います。あちこち飛んでいきたい!