マーダーミステリーゲームの強みと弱み

 マーダーミステリーゲームを30~40個くらい遊んでみたけれど、そこで感じた雑感をつらつらと述べてみる。

マーダーミステリーゲームって何?と聞かれたときに一言で答えるとすれば、「名探偵コナンみたいに事件の登場人物の一人になって、事件の謎を解いたり、犯人だったら逃げ切ったりするゲーム」と説明することが多いと思う。
推理小説好きな人がこれを聞くと、自分が小説の中の名探偵のように難解なトリックを解く体験ができるのか!と過剰な期待をさせてしまう気がしている。私も推理小説が大好きで、学生時代は割と読んでいたので、最初はそんな風に思っていた。
しかし、いくつかマーダーミステリーゲームをプレイし、自分でも「黒と白の狭間に」を作ってみて、何となくちょっと違うのではという違和感を覚えた。推理小説に出てくる密室トリックとかアリバイトリックを使ったシナリオを考えようとしたけれど、どうも上手くいきそうにない。いろいろと考えた結果、自分なりの一つの結論にたどり着いた。

プレイヤーは名探偵ではなく凡人だから!

個人的に名探偵に必要な推理能力というものは下記の3つから成ると考えている。(もちろん小説の名探偵によってはもっと別の能力がある場合もあるけれど)
A.観察力:周囲のちょっとした違和感を見つける能力
B.知識:医学(死体の状況)や薬学(毒物)などに対する豊富な知識
C.AとBから得た情報を組み立てる想像力
マーダーミステリーゲームでは上記のAとBをシナリオ上でプレイヤーにある程度提示してしまう。結局、プレイヤーに求められるのはCだけということになると、人によっては「思ってたのとなんか違う」という印象を受ける人がいるかもしれない。ゲームではプレイヤーはアハ体験のような閃きによる快感を求めていると私は考えているので、Cだけをプレイヤーにやらせたとして、それは果たしてプレイヤーの120%の満足につながるのだろうか・・・と。
また、トリックが難しくなればなるほど、1つ1つの手掛かりは重要になり、プレイヤー同士が情報を隠しあうマーダーミステリーゲームには馴染みにくいという問題点もある。
Aに関しても情報の提示の仕方は非常に難しい。例えばXのシナリオに「Yとすれ違ったとき、彼は青い顔をしていた。」という表記があるとする。議論中にXはYに「すれ違ったとき、様子がおかしかったけど、どうしたの?」と聞きに行くだろう。現実であれば、Yは「そんなことないよ」とか「ちょうどお腹を下していて…」とか適当な言葉を返せる。しかし、ゲーム内ではシナリオ上に「Yは青い顔をしていた」という厳然たる証拠があり、シナリオに書かれているならどうでもいい事ではないはずといったメタ読みも発生してしまうと、Yの言い逃れは難しくなる。
上記の理由で、トリックを主に置いた事件の謎解きは(私自身はやったことはないけれど)ミステリーナイトの方がふさわしいのではという気がしている。このマーダーミステリーゲームの弱点を克服するアイデアもいくつかあるけれど、私自身はシナリオを書くのがとても遅いので、「大分から来ました。」メンバーに任せようと思う。(アイデアは投げてあります。)


と、ここまではマーダーミステリーゲームの弱点ばかりをあげつらってしまったが、「マーダーミステリーゲームはミステリーナイトの簡易版なんだ…」という誤解を与えてしまっていると申し訳ない。私はマーダーミステリーには他の推理ゲームにない強みがあると考えている。それは、

事件の関係者の1人になれること!

である。名探偵コナンでは「真実はいつもひとつ!」という有名な決め台詞があるけれど、私はどちらかというと田村由美さんの漫画の「ミステリと言う勿れ」内のセリフ、「真実は1つじゃない。2つや3つでもない。真実は人の数だけあるんですよ。」の方がしっくりくる。
(※注:決して名探偵コナンをディスっている訳ではないです。コナンの漫画もアニメもとても楽しく見ています。)
起こった事実は1つだとしても、それを見聞きした人の数だけ、その人にとっての意味付けされた真実があるということ。これを体験し、そこから発生した謎を解くのはマーダーミステリーゲームがピッタリだと思う。物事は見る角度によっては180度違ったものに見えることもある。その絡まった糸を解きほぐして、最終的な1つの真実に近づいていくのも醍醐味の1つだと考えている。例えば恋愛小説でも、両片想い状態の登場人物がいるとき、読者は第3者視点から(早くどちらかが告白してしまえばいいのに…)というじれじれ感を味わうのだけれど、簡単に告白して解決してしまっては物語にならない。自分が登場人物の1人になって、自分のことに興味がないと諦めていた片想い相手が実はずっと自分を想ってくれていた…というのはとてもドキドキして盛り上がるシチュエーションではなかろうか。

私が作るマーダーミステリーゲームはこの強みを生かしたい…と思っている。(どれくらい生かせているかは分からないけれど。)当初、「黒と白の狭間に」を頒布した時にRP(ロールプレイ)重視と書いたのは、それぞれのキャラクターを演じて欲しいという意味合いではなく、それぞれのキャラクターの気持ちになりながらプレイしてほしいという意味合いが非常に強い。なので、自分は演技できないんですけど…という人には「キャラクターを演じるのではなく、キャラクターの気持ちに寄り添ってプレイしてもらえれば十分です。」と伝えたい。

つらつらとまとまりもなく書いてきたが、上記はただの個人的な印象であるので、違うと考える人もいるだろうし、そこは議論するつもりもない。上記のことを違うとどうしても主張したいというのであれば、是非そんなマーダーミステリーゲームを作って欲しい。定義をあれやこれやと議論するよりも、いろいろな方向に尖ったゲームがたくさんできてくる方が建設的だし、それが引いてはマーダーミステリーゲームの盛り上がりに繋がると思うから…。

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