のら

辛い時、ほっとしたい時にはいつもそばに物語がありました。誰かのこころに響く物語が描きた…

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辛い時、ほっとしたい時にはいつもそばに物語がありました。誰かのこころに響く物語が描きたい。

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短編『アンモナイトになりたいぼくは』

ぼくはアンモナイトになりたい。 ぼくは、9歳の誕生日を迎える一日前に母さんを亡くした。 母さんが亡くなって、一年経った日、 「今日から、この人が君の母さんだよ」 と、父さんが言った。 ぼくは、びっくりして冗談かと思った。 今日からぼくの母さんになる人が、ネーサンなわけがないじゃないか。 ネーサンは、ぼくが生まれる前から、ぼくと母さんのお世話をしていた。 母さんは、臨月になるまで家の中の事を全部一人でやっていたけど、子どもが産まれたらそういう訳にはいかないからと、ある日、お

    • 短編『ノラ』

      「これ、なんて読むん?」 「あ?つみとばつ」 「ん、ありがと」 ノラは古本屋で帳簿をつけている。 古いレジスターが置かれたカウンターで作業をする。 カウンターは木製で固いのに、肌がぴたとすいつくようにやわらかい。ひんやりとしてつるつるで、ノラは作業の合間に腕を投げ出してみたり、頬をくっつけてみたりする。 「なにしとるん?」 「きもちいいよ」 店主のおばちゃんは、やれやれという風に鼻から息を大げさにはく。 「いらっしゃいませ」 いい声でおばちゃんは客の相手をす

    短編『アンモナイトになりたいぼくは』