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芝野名人の対局スケジュールがヤバい

三村九段のミム囲碁ラジオ 第69回

放送要約

  • 2024年10月の芝野虎丸名人の
    前代未聞の過密スケジュール

  • 1週間で王座戦、棋聖戦、名人戦など
    複数のタイトル戦を連続対局

  • 長時間の対局による身体的・
    精神的な消耗の実態

  • トップ棋士が直面する激務の裏側

  • 日本のタイトル戦システムの
    特徴と課題

本文

こんにちは。この放送は、
プロ棋士40年の経験を持ち、
囲碁サロンと子供囲碁道場を
運営する三村智保がお送りしています。

2024年10月24日の収録時点で、
芝野虎丸名人の直近1週間の
スケジュールが前代未聞の
忙しさとなっています。

今秋のタイトル戦が集中している時期で
あり、芝野名人がすべての番組に
参加しているためです。

10月10日、11日の2日間で名人戦
第4局が行われました。その後の
16日水曜日には王座戦5番勝負第1局で、
芝野虎丸名人が井山裕太王座に
挑戦しました。

通常、プロの対局は月曜日か木曜日に
行われますが、この日は意図的に
水曜日に設定されています。

その後、18日金曜日には棋聖戦
5番勝負の第2局が行われ、
一力遼棋聖に芝野虎丸名人が
挑戦しました。

そして20日の日曜日、2日後には
棋聖戦の準決勝です。棋聖戦は
C、B、A、Sの4つのリーグに分かれて
おり、各リーグの優勝者を出して
パラマストーナメントを行います。

芝野名人はSリーグ2位として出場し、
A優勝の山下敬吾九段と対局しました。
勝てば井山裕太九段との挑戦者決定戦
変則2番勝負となるはずでしたが、
終盤に大きなミスをして逆転負けを
喫しました。

そして2日後の火曜日からは、
名人戦7番勝負の第5局が始まりました。

日本のタイトル戦は通常、地方の
高級旅館や高級ホテルで行われるため、
移動も伴います。

16日の王座戦は東京の日本棋院で
開催され、その2日後の18日には
北海道での棋聖戦のため木曜日に移動。

土曜日に北海道から戻り、
20日日曜日に東京で規定戦を
打ちました。

その後、名人戦のため神奈川へ
向かいます。東京から神奈川は
比較的移動は楽ですが、それでも
前日から旅館に入り、22日から23日に
かけて2日制の対局を行いました。

そして25日には愛知県での
王座戦5番勝負第2局が控えています。

私の経験上、対局をすると
体重が約1キロ減少します。
24歳と若い芝野名人でも、
これだけスケジュールが詰まれば
相当な消耗です。

王座戦は持ち時間3時間で、
朝9時から夕方5時頃まで対局が
続きます。移動も疲労の原因となります。

北海道での棋聖戦も持ち時間3時間で
朝から夕方まで。日曜日の規定戦は
持ち時間5時間のため、朝10時から
始まり夜9時、場合によっては
10時頃まで続きます。

その後の名人戦は2日制で
持ち時間8時間です。
対局中は、それほど旺盛に食事を
取る気持ちにはなれないものです。

さらに芝野名人は対局後に
眠れないと聞いています。
前夜や終局後に不眠に悩まされる
棋士は多く、私も対局後は
よく眠れません。

このような消耗が続く中、
5連戦の3局目となる規定戦準決勝で、
最後の最後に普段の芝野名人なら
起こさないようなミスをして
逆転負けとなりました。

さすがに疲れが出ているのではと
心配になりましたが、その2日後の
棋聖戦5番勝負では完勝。
一瞬の隙も見せず、いま最強と
言われる一力遼棋聖を150手という
比較的短手数でノックアウトしました。

そして2日後の金曜日には
井山裕太王座との王座戦第2局が
控えています。

私のキャリアでは、タイトル戦の
連続対局の経験はありません。
月曜と木曜の続けて対局がある
ことすら珍しく、それが4回ほど
続くだけでかなり忙しいと感じました。

35歳頃、最も活躍していた時期に
棋聖戦、本因坊戦のリーグの在籍して
名人戦の最終予選まで進出し、
あと2勝ほどでリーグ入りという
状況がありました。

リーグ戦は持ち時間5時間で
予選よりも長く、朝10時から夜9時、
10時までかかる対局を月に3回ほど
経験しました。

恥ずかしいことですが
重要な対局が月に3つあるだけでも
リラックスする時間がない気がしました。

重圧がかかる対局は月1回程度で、
残りは予選などでゆっくり過ごしたいと
思ったものです。

長時間の対局では1、2キロの
体重減少があり、若ければ1、2日で
回復しますが、年齢とともに
回復が遅くなります。

芝野名人は体格が華奢で、
食が太いわけでもなさそうです。

井山裕太九段が名人位を2期獲得した
際も過密スケジュールで、周囲から
心配の声が上がっていました。

その際、五冠を経験した張栩九段は

「タイトルをたくさん取るということは、
そういうこと。当然受け入れるべきもの。
代わってやれるものなら代わりたい」

と述べました。

経験者だからこそ言える言葉で、
とても印象的でした。これからも
芝野虎丸名人の戦いは続きます。

井山裕太九段、一力遼九段、
芝野虎丸名人による頂上決戦、
そして世界大会での活躍も
期待されます。

日本のトップ棋士の戦いがいかに
過酷なものかを、少しでもご理解
いただけたのではないでしょうか。

それでは、また次回の放送で
お会いしましょう。
囲碁棋士の三村智保でした。

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