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囲碁棋士の対局中の飲食事情、今と昔

囲碁のタイトル戦で盤面のこと以外に注目される要素として「対局者の食べ物」があります。

棋聖戦や名人戦は高級な旅館やホテルで打たれることが多く、食事が豪華です。対局にかかる時間も2日制だったりして長いため、デザートも午前に1回、午後に1回など定期的に出されます。

そのように名人や棋聖が食べた素敵なメニューたちの画像が、新聞社のサイトやSNSで発信されています。それらは碁の内容を伝える記事よりもアクセスが多いと聞いて、最初はとても驚いたものです。

このようなプロ棋士の対局時に提供される飲食のサービスは、かつてはタイトル戦でなくても普通にありました。

リーグ戦、本戦以上の対局になると午後と夜にデザートが、熱いおしぼりと一緒に頂けるの楽しみでした。それは主に「メロン」「いちご」「みかん」「グレープフルーツ」などでした(私の好きだった順に並べてます)。

本戦やリーグまで勝ち進むのは大変ですが、若手棋士にとって一番近い機会は「新人王戦」でした。私の頃は30才以下(今は25才)だけが参加する棋戦で、予選を2回勝てばデザート付きの「本戦」が打てるのは、本当に嬉しいことでした。

今はタイトル戦以外は持ち時間が3時間以内の碁が殆どですが、20年くらい前までは持時間が5時間、6時間が普通でした。となると終局は夜遅くになります。

昼と夕方の休憩時には外に食べに行くか、出前を取ったりもしますが、
重いものを食べたくない時もあります。そんな時にフルーツで補給出来るのも心強い。
ベテラン棋士はデザートが出されても手を付けないことがあり、記録係の院生にどうぞ、とあげることも良くありました。院生君は歓喜したでしょう。

対局中の飲み物は、ポットに入れたほうじ茶が置いてあって、自分で注いで飲んでいました。開始時、休憩から再開時には緑茶を入れてもらえます。
コーヒーが飲みたい棋士は、出前で頼むことが出来ました。
昔は日本棋院の1階に和食のお店があって、そこから運ばれていたのです。

デザートが出ない予選の対局で、重い食事を避けたい棋士が「ヨーグルト」を注文して、席で食べることも良く行われてました。
スーパーで良く売っている3つ入りのやつです。ベテランの先生がよく使う手でした。

そして対戦相手が若い棋士だったりすると、1つあげたりする。10代、20代の頃はこういうのが結構、嬉しかったです。



バブル経済がはじけて、経費節減という言葉を頻繁に聞くようになり、徐々にデザートが出される棋戦は少なくなっていって、現在は番勝負の時だけになりました。

対局日にお茶を出してくれたり、食事や飲み物の注文をしてくれるおばさん達も人件費カットのため居なくなりました。
いまは対局室の外にある自販機で、僕らはペットボトルを買って飲んでいます。

AIカンニングを防ぐために外食は禁止となり、食事休憩も廃止されました。もちろん出前も無理で、対局中の飲食のためにコンビニで何かを買っておく、という形に変わりました。

昔よりも少ない持ち時間内で、軽食を摂りながら対局をしています。
ベテランは良いですが、若い棋士は空腹対策が大変でしょう。

私が20代の頃、対局中にデザートが運ばれてきた時のじわっと来る嬉しさを、いま書きながら思い返しています。
もしあれが今復活したら、若手棋士たちから大歓声があがると思うのですが。


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