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イチゴとチョウザメ|#シロクマ文芸部

 舞うイチゴ。
 葉をはためかせ、群れをなし、青空を舞う。
 その水影を揺らし、泳ぐチョウザメ。

 ここはスカイファーム。「アクアポニックス」という、魚と植物を同時に育てる循環型農業の施設だ。天井に映し出された青空。タワー型のプランター。足元のプールにはチョウザメ。白いキャンバスにコラージュされたような異質感。
 社会科見学がこの場所に決まったとき、クラスは大騒ぎだった。池袋のサンシャインにオープンしたこの施設は、なかなか予約が取れないほどの人気なのだ。
 説明中も構わずタブレットをかざすクラスメイトたちを眺めながら「舞うイチゴだ」と思った。賑やかで甘酸っぱくて、遠い。僕はチョウザメだ。イチゴたちは気付かない。水影の奥に佇む僕には。
 施設の説明が終わり、イチゴ狩りが始まった。僕は近くのイチゴを素早くパックに詰め、そっと離れてタブレットに向かう。レポートは明日提出だ。なるべく早く仕上げたい。はしゃぎ声が葉擦れの音に聞こえる。ざわざわ、さわさわ。

 レポートを仕上げてタブレットをリュックにしまう。そろそろ集合かと足元のイチゴパックに手を伸ばしたとき、チョウザメと目が合った。イチゴがひと粒プールに転がり落ちて、こつん、とチョウザメ鼻先に当たる。
「ねえ」
突然肩を叩かれ、驚いて振り返ると同じ班の宮下さんが立っていた。
「集合かかってるよ、行こう」
パーカーの袖を引っ張られた僕は、そっと自分の鼻先を撫でた。こつん。


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