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マツユキソウをどうぞ

寒い寒い夜の公園を少し悲しいような気持ちで歩いていた。
寒い時はたいてい意味もなく悲しくなる。
夜の道もときどき悲しくなる。
「マツユキソウをどうぞ」
ふいに、土から掘り出したばかりのマツユキソウを
油紙で包んだものを目の前に差し出された。
マツユキソウ…
頭の中にロシアのお話『森は生きている』が浮かぶ。
わがままな女王様が凍てつく大みそかにマツユキソウを欲しがる。
それを雪の森の中に、
ごほうび目当ての継母に探しに行かされた優しい女の子が
12月の精霊達からマツユキソウをもらうのだ。
私はあの子みたいに優しくもないし働き者でもないし、継母にいじわるされている女の子ではない。だたの50代のおばさんだ。こんな素敵なマツユキソウは受け取れない。
そういって首を振った。そもそも植える庭もない。
「でも、悲しいのが治りますよ」
茶色いコートのフードを深くかぶったその人は、まだマツユキソウを私の方に差し出している。私はそんなに悲しそうに歩いていただろうか。誰からも悲しそうだなんて言われたりしないのに。
「それじゃあ…ありがとうございます。鉢植えでもいいかしら…」
手袋のままの手を出して油紙の包みを受け取ると、それは一瞬の重みを残して消えてしまった。フードの人も消えてしまった。
寒い道に立っているのは私一人だ。
たぶん夢をみたのだろう。いつも夢みたいなことを考えすぎている自分をバカみたいだと思うけど、本当にバカみたい。
「はぁ」と一つ、自分を罵る息を吐いてまた歩き出した。
でも「悲しいのが治る」と言われたことを思い出すと、確かに悲しくなくなっていた。

何年か経った冬、小さな庭のある家に移り住んだ。
その庭の隅にマツユキソウの白い花が咲いた。

(了)


*素敵なおまじないを見つけた!試したい✨
何もしなくてももうすぐ2月1日がくるけれど




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