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朝の卵サンドの相手

朝、早く起きた。
心地よい、静かな秋の朝。
静かなのってほんとうに幸せ。
コーヒーメーカーをセットして
ミルクパンで卵を茹でる。
茹で卵が出来たら刻んで
マヨネーズとあらびき胡椒をぱらっと混ぜて
十枚切りの食パンにはさんで
卵サンドを作る。
パンの耳は切り落とす。
卵サンドとコーヒーとパンの耳をトレイに乗せてベランダへ出る。

「ねえ聞いて。
昨日までお祭りで本当にうるさかったわよね。
朝から夜までマイクで大きな声で鳴り物も」
私は離れた場所にパンの耳をおいて
私がいなくなったら食べようと屋根の隅で待っているカラスを相手に愚痴をこぼす。
「あなたたちだってうるさかったでしょ?
あなたたちの鳴き声のほうがよっぽどいいわ」
「カー」
「合図の煙火もうるさかったわよねえ?
山にもひびくでしょ?
小鳥たちも怖がるでしょうね?
野良猫だって見かけなくなるわ」
「カー」
「今朝は静かで本当に幸せねえ」
「カー」
「うるさくていやなのに接待もあるのよ」
「カー」
「町内で片付けだってあるのよ」
「カー」
私はここまでで気が済んだ。
卵サンドも食べ終えたので部屋の中に戻った。
カラスがバサバサッと降りてきて
パンの耳を一本くわえて静かな朝の空へ飛び去っていった。

注:これはもちろん創作です。なにもかも。
カラスにパンの耳をあげないし、
お祭りがうるさいなんて文句も言いません。
創作です。


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