変わる時がきた【シロクマ文芸部】
変わる時がきたよ。ポッポー。
鳩時計が鳴った、13回。
眠れないままベッドの中で息をひそめていたわたしはそれに気づく。
それでもまだじっとしている。
そのまま一時間が過ぎた。
また鳩時計が鳴る。
早く変わりなよ、ポッポー。
14回。
わたしはあきらめて布団から出た。
黒い靴下をはいて部屋を出る。
鳩時計は階段の下、台所へとつながる真夜中の廊下で鳴いている。
私は鳩時計の下に立ち、向き合った鳩たちの目をじっと見る。
いつのまにか彼らの目は赤いルビーだ。
わたしもルビーの目が欲しい。
ルビーの力が欲しい。
ルビーがあれば変われるから。
わたしがつぶやくと、鳩の目が零れ落ちる。
わたしはそれを拾って急いで口に入れる。
甘い苺の味がする。
なんだ、ドロップだ、いちご味の。
とつぜん耐えられない眠気に襲われ、
わたしは大急ぎでベッドに戻る。
鳩が鳴く。
ポッポー、ポッポー、ポッポー…
何回まで数えても終わらないその鳴き声を聞きながら眠ってしまった。
まぶしい朝陽で目覚めた私は変わっていた。
苺味のルビーの力。
鳩時計の力。
ほんとうはない二時間の力。
たくさんの力を目に入れた私はもう昨日の私ではない。
私は蜂蜜トーストと目玉焼きをふたつとベーコンを食べ、
人生で初めてのブラックコーヒーを飲んだ。
もう何にも負けない。
自分にも負けない。
自分の中にいる自分をいじめる自分にも負けない。
朝いちばん最初に会うあの子にも負けない。
「おはよう、お姉ちゃん」
起きてきた双子の妹が私にいう。
私は黙ってにっこりして席を立つ。
「お姉ちゃん、私、鳩時計にルビーをもらったわ」
妹は右耳のピアスを私に見せる。
「私だってもらったわ」
私は自分の澄んだ左瞳を妹に見せると家を出た。
(了)
小牧幸助さんの企画に参加します
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