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舞う苺を見たのが私の最後【#シロクマ文芸部】

舞うイチゴ。
それが私が最後に目にした光景。
脇道から飛び出してきた車に自転車ごと跳ね飛ばされ、衝撃で宙に浮いた私の目に映る、空を舞うイチゴ。自転車のカゴに乗せていた赤いイチゴたち。それが私と一緒にゆっくりと宙に散らばった。
ああ、ゆっくりなんてはずはない。これが走馬灯というやつの一種だ、きっと。車にはねられて死んでしまうんだ、私。音もない、痛みもない、ただ瞳に映る、青い空と赤いイチゴ。十代で死んでしまう私になんてふさわしい美しい最後なの。
そんなこと思うなんてアリスはいつまでも中二病だね、と友達のリコの声がどこかから聴こえる。そうだよね、私はいつまでも中二病。違う、高二病かな…高二だから。それにリコ、知らないでしょ、このイチゴ、どうしたと思う?〇〇君とイチゴ狩りに行ってきたんだから。え、どうして言わないのかって?だってあんまり嬉しすぎて絶対に誰にも言いたくなかった。どっちが誘ったのって、誘われたの、向こうから。嘘でしょ?って噓じゃないし。嘘ついてどうするの。だってもう私、意識が消えていくよ…ああこんな幸せな日がこんなふうに終わってしまうなんて。おかしいと思った。幸せ過ぎて。彼は悲しむかな。家まで送ればよかったって後悔するかもしれない。責任なんて感じないで。悪いのは車なんだから。私はもうこれで死んでしまっても悔いはない。正直言えばもっといろいろなことをしたかったけど、でも一緒にイチゴ食べれただけでも嬉しかったから…リコ、〇〇君にそう伝えておいてくれるかな…お願いね、リコ…。

幸い死なずに病室で目を開けた私はすぐに思い出す、舞うイチゴ。
あれは本当のこと?頭がぼんやりして分からない。身体じゅう痛くて分からない。誰か教えて。私が彼とイチゴ狩りに行ったのが本当だったのかどうか。誰か。
身をよじった私の目に、イチゴが映った。
舞っていない、サイドテーブルの上の、イチゴ。

(了)


小牧幸助さんの企画に参加しています。


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