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桜の咲く夜の公園

桜の咲く夜の公園はいつもの夜の公園じゃない。
ひろい公園じゅうが桜の花でとてもふくらんでいる。
山にも桜がピンクというよりは白いので、まるで大きな手のひらで雪をすくってきたようにこんもりしている。
ぼんぼりを灯されて、ライトアップされて、夜なのにたくさんの人がざわめきながら歩くので、桜たちは少し様子がおかしくなっている。
誇っていいのか、恥ずかしがればいいのいか、くつろぐことが出来なくてみな心がざわざわしている。
桜たちが静かにみえるのに静かではないので、私も静かになれない。
いつもなら気持ちが凪ぐ夜の公園なのに心がざわざわしたまま歩く。
ざわざわしたままつい桜を写す。でもうまく写らない。ぼんぼりのピンク色も、桜たちのふくらみも写らない。

そのうちにふっとライトアップが消え、ぼんぼりが消える。
いつもの街灯だけの静けさに桜たちも私もほっとする。
でもまだ心のざわめきが残っている。
昼間、鳥がつつき落とした桜の花を拾ってみる。
手のひらに乗せてみる、じっとみる。
手のひらのツボにお灸をのせたようにじっとしている。
やっと静かな気持ちになってその花をベンチにそっとおろし
私は家に帰る。
おやすみなさい桜たち、と私は桜を見上げる。
おやすみなさい寝ないけど、と桜たちが笑う。
今からが桜の咲く公園のほんとうの静かな夜だ。

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