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短編 ” 金色松ぼっくり ”【シロクマ文芸部】

「金色にするから松ぼっくりを拾ってきて」とママが言った。
私は訳が分からなかったけれど、ママの言いつけ通り松ぼっくりを拾うために帽子をかぶって外へ出た。
たぶん、海辺の公園だったら松ぼっくりが落ちている。海辺に松の防風林は付きものだ。晴れているけれど風が強いので、ベンチしかない海辺の公園には誰も居ない。そして思った通り松ぼっくりが落ちている。
「何個拾えばいいのか聞き忘れちゃった」
私は独り言を言い、最初に拾い上げた松ぼっくりを投げ捨てた。だって、それは汚れて欠けた松ぼっくりだったから。
二つ目からは慎重に選ぶことにした。汚れていなくて欠けていなくて、きれいな形をしている松ぼっくり。きれいなのを拾ってきて!とは言われなかったけど。一応ね。
「しまった。入れ物を忘れた」
私は帽子を脱いで、松ぼっくり入れにした。
10個くらい拾えばいいだろう。
もし足りないと言われたらまた拾いにくればいい。
私はちょっと変わり者のママと付き合ううちに、大らかな女の子になった。
いちいち何か気にしなくていい。
いちいち機嫌をとらなくていい。
でもできることなら希望を叶えてあげよう。
パパにそう教わった。
パパもいつもママにそうしている。
私にもそうしてくれる。
私もママにそうしている。
パパにもそうしている。
家族三人仲良しだ。

「ただいま。松ぼっくり拾ってきたよ。
10個で足りる?」
ママはうなずき「ありがとう」と言った。
そしてキッチンの流しの横に新聞紙を広げて、松ぼっくりを金色に塗り始めた。
きれいに塗り終わると窓辺で乾かした。
「続きはまた明日のお楽しみ!」
ママが「お楽しみ!」というと終わりの合図だ。

私が次の日に学校から帰ってくると、
小さな洋間の天井に金色の松ぼっくりが吊るされていた。
その洋間にはお客さん用の小さめのベッドが置いてある。
「そこに寝転んでみて良いわよ」とママが言うので私はベッドに寝転んだ。
ママはカーテンを閉め、部屋から出て行った。
私は少し暗くなった部屋でベッドに寝て、吊るされた松ぼっくりをじっと見る。少し眠くなりそう。
一生懸命に目を開く。
あれ?でもママ何か言ったかな?見てろとか、寝ないでとか。
私どうしてればいいのかな?なんの意味があるのかな?
「まあいいや」
私はじっと松ぼっくりを見上げていた。
カーテンの隙間から午後の金色の太陽の光が細く差し込んでいる。
それが松ぼっくりの金色と重なったとき、松ぼっくりが星のように思えた。
金色の「松ぼっくりぼし」には、金色の「松ぼっくり星人」が住んでいる。
隙間が住まいになっているようだ。
ときどき小さな松ぼっくり星人が見える、ような気がする、と思いながら寝てしまった。

かちゃかちゃと、ママが紅茶茶碗を用意する音がする。
「どうだった?面白い夢が見れた?」
ママがそういって紅茶を注いでくれる。
「見れた、かな。でもなんで?金の松ぼっくりと関係あるの?」
「あるの。なんか、そういうおまじないがあるって隣のおばあちゃんに聞いたから」
私は黙って紅茶に角砂糖を入れた。ぷくぷくと小さな泡がたつ。
隣のおばあちゃんはいつも何を言っているか分からない。おばあちゃん自身も分かっていない。言ったこともしたこともすぐ忘れる。
「松ぼっくりを金色に塗って、天井に吊るして寝ると面白い夢が見れるよって」
「ふうん…」
そういえば見えないほど小さい松ぼっくり星人は隣のおばあちゃんに似てた気がする。もういないおじいちゃんもいた気がする。どこかに行ってしまったお隣の三毛猫のフウもチラリと見えた気がする。小さなリスやキツツキも…。
「松の実クッキーよ」
私は出されたクッキーをかじりながら、紅茶を飲みながらさっきの夢を思い出す。あとだれが見えただろう。
でもそんな話はママにしない。
あとでパパにだけ話そう。

(了)

*なんだか何も考えずに書いてしまいました(;´・ω・)
まあいつもだけど…(;´・ω・)

小牧幸助さんの企画に参加します


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