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「最近よく思い出すことがあって。高三の時のマキちゃんの面接練習に付き合ってた時に、その息抜きでマキちゃんに面接風に聞いたことがあるんだけど、私が売り物になるケーキを作ったとしてどういう風に売ったらいいと思いますか、て言ってみたの」
「あぁ、マキ、経済学部志望だったから?経済学部って何やるかよく分かんなかったけど」
「そうそう、私もよく分かんなかったけどマキちゃんもよく分かってなかったのが面白かったよね。」
「それでなんて答えたの?」
「ユリが売りたいって思えるものなら、どんな売り方でも売れると思います。ユリが接客する必要がないオンライン限定や仲介業者、接客担当を挟むだったりするなら、作ることに専念できると思いますし、ユリが店主となって町の喫茶店を営むなら購入者の期待や要望をユリらしい優しさで迎えてくれる、そんな良いお店になると思います。って。」
「まって、なんでそれ携帯見ながら読んでるの?メモしてたの?」
赤信号で捕まって、ユリの方を見て言うと
「うん、一語一句覚えていたかったから。」
ユリはちゃんと目を合わせて笑って言った。
その顔を見て、またマキに負けた、と思った。
都合よく信号が青に変わってくれたお陰で、情けなくなりそうだった顔を引き締められた。
「お客さん、ちゃんと次の目的地探そうとしてるじゃないですか」
「そう見えたなら、良かったです」
と笑って答えてくれたと思う。しばらく走らせて、仕方ないから有名な夜景スポットに車を停めることにした。実はユリに話したかったことがこの日は二つあった。でもその一つを話すならもう一方は一生言わないつもりだ。
「高三の時にマキが俺にだけ話した面白い話を聞かせようか?」
ユリは少し悩んだ顔をした。これはユリの優しさだろう、悔しいけどマキへの気遣いでもあるだろう。
「うーん、私が聞いてもいいなら、、、聞きたい。」とユリが答えた。
「マキがさ、いつか三人でカフェとか喫茶店やりたくない?って言い出して、またいつもの思考の暴走が始まったと思って聞いてたんだけどさ。」
「三人でお店?何その話!」とユリは笑った。
「ユリが料理とかスイーツとか作るでしょ、私はウェイターもやるし経営もやる、だから萩原は何か別のこと出来るようになって、って。」
「萩原だけ雑だなぁ」とまた笑った。
「そもそもマキちゃん経営出来ないでしょ、すぐ騙されるし、最悪騙しそう」
ユリが神妙な顔でたまにマキに対して辛辣なことを言うのが俺の笑いのツボだったりする。
「マキの暴走を聞いてからって訳じゃないけど、俺は別に目的地なんて必要無いけど、二人にとって足りない何かを埋められる何でも屋になれたらいいな、っていう夢がある」
「、、、、えぇ〜それマキちゃんにも言わなきゃダメじゃん!てか三人で会う時言うことじゃない」とユリは驚きと戸惑いとちょっと嬉しそうに言った。
「でも何で私には話してくれなかったんだろう」と呟いたので
「その直後にユリがホテルの厨房志望なのをマキが知って、この話は無し!って俺に言ってきたよ」
「もう〜〜〜優しいなぁ」とユリが笑った。

ユリに話す予定だった、もう一生話すつもりのない一方の話は高三の頃の察しの悪かった俺に返信不要で送り付けようと思った。今の俺は、こんなはずじゃなかった、なんて思いたくないから。

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