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結婚祝い

梅雨入りと同じ頃に嫁入りした親友、体調も悪くないよ、と穏やかに云う。心のない祝福と心からの心配は喉を通って空間に、あの灰色の雲ぐらいに暗く留まった。彼女が新生活を語るほど私の頭の中は時を遡って会う。いつもの朝の駐輪場の、低血圧な私を心配して覗き込む彼女の顔と。女たらしで束縛魔な当時の彼氏の愚痴をこぼす彼女と。

もうあの彼女と二度と会えない代わりに今の彼女がすり抜けていく。この雨が上がったら手紙を送ろう、プレゼントも送ろう、太陽をモチーフにした彼女に似合うピアスにしよう、もう付けられないかもしれなくてもきっと喜んでくれるだろう。だからこの雨が上がらなきゃいいなと思う。心からの祝福を送れない代わりにあの日の彼女がここに留まってくれるなら。

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