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「私の夢は◯◯ホテルでスイーツを作ることです。」
「え?!それだけ??」と私はお腹を抱えて笑った。これは、放課後私の大学入試の面接練習をユリに頼んで、一通り終わった時に息抜きにと専門学校への入学が決まっているユリの必要のない面接練習をした時のことだ。
「じゃあ、これ圧迫気味面接にするね。どうして◯◯ホテルなんですか?他じゃダメなんですか?」
いつもは歯切れの悪い喋り方をするユリがこの面接練習(遊び)の時はあんまりはっきり話すもんだから意地悪したくなった。
「年に数回、母と◯◯ホテルにスイーツを食べに行くことがあって、それは何のお祝いでもない日もあればお互いの誕生日や記念日、節目だったりと様々でした。◯◯ホテルの洗練された空間、優しさの詰まったサービス、華やかで可愛らしいスイーツが最高の思い出を残してくれて、私にとって特別なものとなりました。だから私もその一員となって、お客様の思い出や特別を作る手助けがしたいと思いました。」
私の面接練習に引っ張られてか丁寧語と喋り言葉が混ざり、たまに口籠もりそうになっても私の目から離さないユリの目を見ていた。譲れないことを話すユリはいつもこの目だった、と思いながら聞いていた。
「入試より入社試験みたいだったね」と笑いながら言うと、「確かに」とユリも笑った。
「ここに無い質問をしてもいいの?」
「いいよ、何でも来い」と笑った。
「私が売り物になるケーキを作ったとして、どんな方法で販売するのがいいと思いますか?」
予想外の質問に笑いをこらえて、少しだけ真面目に考えたような気がする。この頃の私は経済学部を目指していて、それに憧れているだけの学生だった。後付けの志望理由に付け焼き刃の学力で、やっとこさ私立大学に進めた学生だった。
空き缶を持った右手の感覚が戻りつつある中で、床に座ったままのお尻が痛いことに気がついた。頭はまだ寝ぼけたままで、あの頃の将来とそのための手段や理由を明言したユリの顔を思い出してた。唐突に、その顔が私に「怒ってないけど、怒りそうになったよ。」と見つめられた。そのせいで夢から醒めてまた耳を塞ぎたくなった。シャワーを頭からかぶりながら、ユリにその言葉を言われた時のことを思い出してた。さっきまで見ていた夢を話すユリの顔が、思い出したくない記憶を思い出させようとしてくるみたいだった。そして思い出そうと思えばすぐだった。高校三年生の時、ユリと私と私の同中で同じ地区に住んでる萩原の三人でいる時間が長かった。今思えば、一、二年の頃と比べて志望進路や学力、成績の観点で気持ちや姿勢が合致する人同士で群れることが多かったように思う。そんな中で私たちは進路も学力も成績も将来に対する熱量も何一つ合致することは無かったのに放課後や帰り道、ユリとは休日も一緒にいたりした。だから、ユリに好意を持った他のクラスの男の子が私にユリの連絡先を聞いてきた。今なら相手が誰であっても勝手に教えないが、その頃の私は周りの友達が呆れるほどの考え無しで行動する気質があった、くらいのフォローしか今の私でもしてやれない。ユリの連絡先を教えて翌日ユリに会った時、それが間違いだった事にやっと気付いた。ユリはほっとしたような悲しいような顔をして、私は謝り倒して、そばにいた萩原もこの経緯を知って、私がその男の子のところに行って謝ってユリの連絡先消してもらってくるって走っていきそうになった私の腕をユリが取って、「自分で行ってくるから大丈夫」と止められた。ユリを怒らせたと思って困って萩原の方に視線を逃がしたら、萩原は「行く時言って」とだけ言って私の方を呆れた目で見てどこかに行ってしまった。
その後の「怒ってないけど、怒りそうになったよ。」だ。結局、ユリはついて行きそうな勢いの萩原に困ったことになったらすぐ連絡するから、と一人で連絡先を消してもらいに行って、私もユリに謝り倒して「もう、しつこい!」って笑われた後にこっそりその男の子のところに謝りに行ったら、ユリがどう話したのか分からないが逆にその男の子から謝られてこの件は解決したのだった。
思い出し終えて、記憶の中のユリの笑った顔に安心して息を止めて湯船に潜った。二十秒間潜っていられたら、ユリと萩原に久しぶりに連絡を送ろう、と鼻をつまんで目をギュッと閉じた。

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